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第三章 吸血鬼と執事
1.吸血鬼の城
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夜空って真っ黒じゃないんだなと知った。
星々の明かりが散りばめられた空は、藍色だ。
夜空の中を滑空するように飛んでいると、夜空に吸い込まれてしまうような心地になる。
まあ、その域に達したのは、「そろそろ着きますよ」と声を掛けられた頃のことだったけど。
夜空に飛び出してしばらくはギルバートにしがみつくので精一杯だった。
何故だかギルバートは怒っていたから、いつその手が離されないともわからなかったし。
ギルバートが高度を下げて滑空し向かった先は、夜の闇の中にぽつりと浮かぶ古城だった。
どこかの山の上に建っているようで、あたりは鬱蒼とした森に囲まれている。
「どこなの、ここ?」
ギルバートは不機嫌さを隠そうともせず、やれやれと言わんばかりに口を開いた。
「だから私の家にお連れしますと言ったでしょう」
「そうだけど。って。え? ここがギルバートの家??」
「着地しますから口を噤んでいてください」
ギルバートが足を下げるようにすると全面に風を浴びて前進が緩み、古城のてっぺんにすとんと着地した。
やっと地面に足がつける。
ほっと人心地つき、ギルバートから降りようとした。けどギルバートは私を横抱きにしたまま、離さなかった。
「ギル、降りるから離して」
「嫌です」
きっぱりと言われ、ギルバートはそのままつかつかと歩み始めた。
「え、いや、自分で歩けるから」
「知ってますよ。だからです。逃げ出されたら困りますので」
まだ逃げると思っていたのか。
ギルバートは十年も待っていたのだから、それを目前に逃げられてはかなわないと思う気持ちもわかる。
だけど、もう少し私のことを信用してくれてもいいんじゃないだろうか。
いや、いつも守ってもらってる気がしないとか、平等じゃないとか文句言ったり、血をあげるのも嫌がったりはしてたから信用をなくしてるのか。
うーん。自業自得か。
私が心中で葛藤している間にも、ギルバートはすたすたと歩いて扉を開け、私を抱えているのになんなく階段を下っていく。
「っていうか、ギルバート背中! 痛いんじゃなかったの?」
「もう治りましたよ。吸血鬼の回復は早いのです」
ということはやっぱり怪我してたんだ。
うっかり真実を口にしたとは気づいていないのか、それともそんなことはどうでもよくなったのか、ギルバートはむっつりと口を閉じたままひたすらに廊下を歩いて行った。
ふいに階段を駆け上がる音が二つ交じり合って響いてきたかと思うと、「ギル!」と背後から声が掛けられた。
やっと足を止めたギルバートが振り向けば、そこには見たことのある妖艶な女性の姿。
それからその後ろから遅れて、十歳くらいの黒髪の男の子が驚いたような顔でギルバートを凝視していた。
「エヴァ、ユリーク。ちょうどよかった、私が部屋を整える間、シェリア様を見ていてください」
そう。エヴァだ。
短期留学生だと言っていたエヴァが、何故ここに?
ここはギルバートの家だと言っていたのに。
それにひたすら戸惑ったように私とギルバートを見ている男の子は?
弟と言われても、あまり似ていないような気もする。
っていうか、吸血鬼って家族がいるの?
私はギルバートのことを何も知らなかったのだということに初めて気が付いた。
吸血鬼の事もそうだ。
聞いても教えてくれなかったというのはあるけど、それならまあいいやとしつこく訊ねるようなこともしなかった。
ギルバートが私を下ろすのを待って、私は慌ててエヴァを振り向いた。駆け寄りかけたけれど、また逃げると思われたら面倒なので寸前で足を止める。
「エヴァ、助けて、ギルバートがいきなり空を飛んでここに――」
「ん? 私のこと知ってるの?」
エヴァは助けを求める私に、相変わらず美しい顔をきょとんとさせて、首を傾げた。
私も違和感に気が付いた。
喋り方が違う。いつもはもっとゆったりと淑やかな感じなのに、今日は明るくて声も高く聞こえる。
なんとなく、私の知っているエヴァとは別人なんだと思った。
だけどどういうことかわからない。
私とエヴァが混乱し見つめ合っていると、どちらからともなくギルバートに視線を移した。
「「ギル?」」
私とエヴァに問う視線を向けられ、ギルバートはしれっと答えた。
「都合上、シェリア様が通う学院の中でエヴァの姿を借りました。私が知っている中で最も一般男性の目を惹く容姿をしていましたので」
嘘でしょ、と声にならず呟いた。
そういえば、学院で会ったエヴァの笑い方が誰かに似ているなと思った。
あれはギルバートだったんだ。
待てよ?
学院でエヴァと――エヴァだと思っていたギルバートに何を話したっけ?
なんか私、いらんこと言ってなかったか??!
ざっと青ざめてから、ふつふつと騙されていたことに対する怒りが沸いて、きっとギルバートを睨み上げる。
だけど行動を起こすのはエヴァ(本物)の方が早かった。
素早く靴を手にし、ギルバート目掛けて鋭く鋭角に投げつけたのだ。
「女を騙すなんてクソ野郎のすることよ!」
ギルバートの言葉と私の怒りに染まった顔で、彼女は一瞬で理解したらしい。
危なげもなくひょいっと避けると、ギルバートは銀縁眼鏡を押し上げて一つため息を吐いた。
「相変わらず感情と手が直結していますね。靴は自分で拾ってくださいね」
「あんたはほんっとうにもう、腹が立つわ! っていうか何よその慇懃な喋り方、気色悪ッ!」
「私はまだシェリア様の執事ですから」
あ、続いてたんだ、と思ったけど口には出さなかった。
何がギルバートの逆鱗に触れるか今はわからない。
「細かいことは後で説明しますよ。とにかく私は部屋を整えてまいりますので。夜も遅くなりますとシェリア様の肌が荒れてしまいますのでね」
そんなナイーブな肌はしていない。と言いたかったけど、正直疲れ切ってはいた。
朝からミシェルと戦い、慣れないパーティに行き、これまた慣れない人間観察をし、さらには久しぶりに父と話した上に初めて向き合って、体も心もへとへとだった。
ギルバートはまだ文句を言いたそうなエヴァを差し置いて、問答無用で私を置いてつかつかと廊下の先へと歩いて行ってしまった。
残された私達はなんとなく顔を見合わせ、それからふうと一つ息を吐いたエヴァに「とにかくこちらにいらっしゃい。お茶を淹れるわ」と応接室へと案内された。
星々の明かりが散りばめられた空は、藍色だ。
夜空の中を滑空するように飛んでいると、夜空に吸い込まれてしまうような心地になる。
まあ、その域に達したのは、「そろそろ着きますよ」と声を掛けられた頃のことだったけど。
夜空に飛び出してしばらくはギルバートにしがみつくので精一杯だった。
何故だかギルバートは怒っていたから、いつその手が離されないともわからなかったし。
ギルバートが高度を下げて滑空し向かった先は、夜の闇の中にぽつりと浮かぶ古城だった。
どこかの山の上に建っているようで、あたりは鬱蒼とした森に囲まれている。
「どこなの、ここ?」
ギルバートは不機嫌さを隠そうともせず、やれやれと言わんばかりに口を開いた。
「だから私の家にお連れしますと言ったでしょう」
「そうだけど。って。え? ここがギルバートの家??」
「着地しますから口を噤んでいてください」
ギルバートが足を下げるようにすると全面に風を浴びて前進が緩み、古城のてっぺんにすとんと着地した。
やっと地面に足がつける。
ほっと人心地つき、ギルバートから降りようとした。けどギルバートは私を横抱きにしたまま、離さなかった。
「ギル、降りるから離して」
「嫌です」
きっぱりと言われ、ギルバートはそのままつかつかと歩み始めた。
「え、いや、自分で歩けるから」
「知ってますよ。だからです。逃げ出されたら困りますので」
まだ逃げると思っていたのか。
ギルバートは十年も待っていたのだから、それを目前に逃げられてはかなわないと思う気持ちもわかる。
だけど、もう少し私のことを信用してくれてもいいんじゃないだろうか。
いや、いつも守ってもらってる気がしないとか、平等じゃないとか文句言ったり、血をあげるのも嫌がったりはしてたから信用をなくしてるのか。
うーん。自業自得か。
私が心中で葛藤している間にも、ギルバートはすたすたと歩いて扉を開け、私を抱えているのになんなく階段を下っていく。
「っていうか、ギルバート背中! 痛いんじゃなかったの?」
「もう治りましたよ。吸血鬼の回復は早いのです」
ということはやっぱり怪我してたんだ。
うっかり真実を口にしたとは気づいていないのか、それともそんなことはどうでもよくなったのか、ギルバートはむっつりと口を閉じたままひたすらに廊下を歩いて行った。
ふいに階段を駆け上がる音が二つ交じり合って響いてきたかと思うと、「ギル!」と背後から声が掛けられた。
やっと足を止めたギルバートが振り向けば、そこには見たことのある妖艶な女性の姿。
それからその後ろから遅れて、十歳くらいの黒髪の男の子が驚いたような顔でギルバートを凝視していた。
「エヴァ、ユリーク。ちょうどよかった、私が部屋を整える間、シェリア様を見ていてください」
そう。エヴァだ。
短期留学生だと言っていたエヴァが、何故ここに?
ここはギルバートの家だと言っていたのに。
それにひたすら戸惑ったように私とギルバートを見ている男の子は?
弟と言われても、あまり似ていないような気もする。
っていうか、吸血鬼って家族がいるの?
私はギルバートのことを何も知らなかったのだということに初めて気が付いた。
吸血鬼の事もそうだ。
聞いても教えてくれなかったというのはあるけど、それならまあいいやとしつこく訊ねるようなこともしなかった。
ギルバートが私を下ろすのを待って、私は慌ててエヴァを振り向いた。駆け寄りかけたけれど、また逃げると思われたら面倒なので寸前で足を止める。
「エヴァ、助けて、ギルバートがいきなり空を飛んでここに――」
「ん? 私のこと知ってるの?」
エヴァは助けを求める私に、相変わらず美しい顔をきょとんとさせて、首を傾げた。
私も違和感に気が付いた。
喋り方が違う。いつもはもっとゆったりと淑やかな感じなのに、今日は明るくて声も高く聞こえる。
なんとなく、私の知っているエヴァとは別人なんだと思った。
だけどどういうことかわからない。
私とエヴァが混乱し見つめ合っていると、どちらからともなくギルバートに視線を移した。
「「ギル?」」
私とエヴァに問う視線を向けられ、ギルバートはしれっと答えた。
「都合上、シェリア様が通う学院の中でエヴァの姿を借りました。私が知っている中で最も一般男性の目を惹く容姿をしていましたので」
嘘でしょ、と声にならず呟いた。
そういえば、学院で会ったエヴァの笑い方が誰かに似ているなと思った。
あれはギルバートだったんだ。
待てよ?
学院でエヴァと――エヴァだと思っていたギルバートに何を話したっけ?
なんか私、いらんこと言ってなかったか??!
ざっと青ざめてから、ふつふつと騙されていたことに対する怒りが沸いて、きっとギルバートを睨み上げる。
だけど行動を起こすのはエヴァ(本物)の方が早かった。
素早く靴を手にし、ギルバート目掛けて鋭く鋭角に投げつけたのだ。
「女を騙すなんてクソ野郎のすることよ!」
ギルバートの言葉と私の怒りに染まった顔で、彼女は一瞬で理解したらしい。
危なげもなくひょいっと避けると、ギルバートは銀縁眼鏡を押し上げて一つため息を吐いた。
「相変わらず感情と手が直結していますね。靴は自分で拾ってくださいね」
「あんたはほんっとうにもう、腹が立つわ! っていうか何よその慇懃な喋り方、気色悪ッ!」
「私はまだシェリア様の執事ですから」
あ、続いてたんだ、と思ったけど口には出さなかった。
何がギルバートの逆鱗に触れるか今はわからない。
「細かいことは後で説明しますよ。とにかく私は部屋を整えてまいりますので。夜も遅くなりますとシェリア様の肌が荒れてしまいますのでね」
そんなナイーブな肌はしていない。と言いたかったけど、正直疲れ切ってはいた。
朝からミシェルと戦い、慣れないパーティに行き、これまた慣れない人間観察をし、さらには久しぶりに父と話した上に初めて向き合って、体も心もへとへとだった。
ギルバートはまだ文句を言いたそうなエヴァを差し置いて、問答無用で私を置いてつかつかと廊下の先へと歩いて行ってしまった。
残された私達はなんとなく顔を見合わせ、それからふうと一つ息を吐いたエヴァに「とにかくこちらにいらっしゃい。お茶を淹れるわ」と応接室へと案内された。
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