上 下
24 / 53
第3章 リークハルト侯爵家の秘密

第6話

しおりを挟む
「父が出席できなくてごめんね。今、海の向こうのラルディア国に行っていてね。式の日取りが急に早まったものだから、都合がつけられなかったんだ」

「いえ。勝手なことを申し上げて日取りを早めたのはお義兄様ですから」

 グレイの母は既におらず、兄弟もいない。
 カーティスも、結局式に現れることはなかった。
 だから二人の家族で結婚式に出られたのはフリージアの父だけだった。

 それでもフリージアは、満たされ、幸せな気持ちで結婚式を迎えられた。
 初めて会うはずなのに、とてもそうは思えないほど親しみを覚えてしまう使用人たちが式を整え、見守ってくれた。
 邸中が温かな空気で満たされていた。

「リッカも、ブライアンも、みんな、前から知っていた人たちのように感じます。グレイ様がいつもお手紙に書いてくれたから」

「彼らがいるから僕の毎日は楽しくて、退屈したことがないんだ。それをフリージアにも伝えたくてね」

 きっと、フリージアがこの邸に嫁いできて馴染めるように、邸のことを書いてくれていたのだ。
 一度もこの邸に来ることはないままに結婚することになっていたから。
 その上、彼らにはフリージアを驚かせる秘密があった。
 だからなおさら、フリージアが怖がらないように、親しみを感じられるようにと、楽しい様子を伝えてくれていたのではないかと思う。
 手紙から感じた温かみは、グレイの見守る目が温かいからだけではなく、フリージアへの優しさが溢れていたせいでもあったのだ。

「ありがとうございます。私、グレイ様の手紙があったから、希望を持てたんです。いつかまた会える。会いたい。お邸のみんなにも会ってみたい。そう思うと明るい未来が思い描けて。だから外に出られぬ日々を耐えられたのだと思います」

 カーティスに何を言われても、その辛さを奮起する力に変えられたから。

 フリージアが微笑めば、グレイも温かみのある赤茶の瞳を和ませてくれて。

 そんな風に過ぎていく日々が幸せだった。
 これまでの人生で一番満ち足りていた。
 ただ、一つだけ不安なことがあった。
 そのことを考え始めると、フリージアははっとして席を立った。

「私、少しお散歩をしてきます」

 グレイにそんなことで悩んでいると知られたくはなかったから。
 もし心の声が聞こえてしまったら、恥ずかしすぎるから。

 慌てて立ち上がったフリージアに、グレイは少しだけ戸惑う色を見せたものの、「いってらっしゃい」と見送ってくれた。
 いつもなら一緒に散歩をすることもあるのだが、フリージアが一人になりたがっていると察してくれたのだろう。

 気を使わせてしまったことを申し訳なく思いながらも、フリージアは急ぎ部屋を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

覆面姫と溺愛陛下

ao_narou
恋愛
幼少の頃に行われた茶会で、容姿を貶されたニアミュール・シュゼ・ヴィルフィーナ公爵令嬢。 その後熱を出し、別の異世界に転移した事を思い出した彼女は、今回で二度目の人生、三回目の世界を体験していた。  ニアと呼ばれる彼女は、近代的な(日本的な)知識と鋼の思考を持っていた。  彼女の婚約者は、この国の国王陛下であるグレン・フォン・ティルタ・リュニュウスだ。  彼女の隠された容姿と性格にベタ惚れのはグレンは、どうにか自分に興味を持って貰うため、日々研鑽を積む――が、ニアには一切通じない。  陛下には似合わない容姿だからと婚約破棄を望むニアと溺愛しまくるグレン。そんな二人に迫る魔女の影……上手く噛みあわない二人の異世界恋愛物語。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

姉の身代わりで冷酷な若公爵様に嫁ぐことになりましたが、初夜にも来ない彼なのに「このままでは妻に嫌われる……」と私に語りかけてきます。

恋愛
姉の身代わりとして冷酷な獣と蔑称される公爵に嫁いだラシェル。 初夜には顔を出さず、干渉は必要ないと公爵に言われてしまうが、ある晩の日「姿を変えた」ラシェルはばったり酔った彼に遭遇する。 「このままでは、妻に嫌われる……」 本人、目の前にいますけど!?

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...