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第2章 再会

第2話

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「あれはぜんっぜん気づいてないわね。やっぱり三年も会ってないんだから無理よね。こんなに私たちは似てるんだし」

 似せる努力もしてるしね?
 とリディはフリージアに笑う。

「……グレイ様とは、どんな話を?」

「つまらない話よ。庭師が新しい花を植えただとか、侍女がなんかやらかしただとか。どうでもいい話ばっかり」

 きっと、前に手紙に書いてくれたことの続きだ。
 だからなおさら意味がわからなかったのだろう。

 リディにも手紙のやり取りがあったことは話していない。
 ここに来た経緯を考えれば、味方にはなりえないからだ。
 そんな手段があることがカーティスに告げられてしまえば、今よりもっと監視されるようになる。
 今は会話にこのような矛盾が出てしまうから手紙を送れずにいるが、それでもたった一つの最後のつながりを失ってしまいたくはなかった。

「トマトが辛くなかったとか言い出したときには、何言ってんのって感じだったわ」

 呆れたリディにフリージアが思わず笑みを浮かべれば、怪訝そうな目が返る。 

「お貴族様は何考えてんのかわかんないわね。何が面白いのか、さっぱりだわ」

   ・・・◆・・・◇・・・◆・・・

 そうしてリディとグレイのお茶会は続いた。
 場所はいつも中庭。

 リディに何故中庭なのかと訊けば、「病み上がりの『私』が外の空気を吸って少しでも元気になれるように、だって」と答えた。
 グレイは相変わらず優しい。いつも気遣ってくれる。
 それが向けられているのがフリージアであってフリージアではないことが、ひどくもどかしかった。

 だからフリージアは、二人が外でお茶をしている時は集中して本を読むことにしていた。
 外が気になってしまわないように、何冊もの本を傍に積んで、ひたすらに読んだ。

 その中には、アニーにこっそりと買ってきてもらった、聖なる乙女に関するものも混じっている。
 カーティスが言っていたことは本当なのか、この力はなんなのか、改めて調べることが現状の打破につながるのではないかと思ったからだ。
 三百年も前のことではろくな文献は残っていなかったし、ほとんどが聖なる乙女に着想を得た創作の物語ばかりだった。
 それでも一縷の望みを託すのはもはやそこしかなかった。

 周囲に明かしても利用価値なんて思いつかないような力であれば。
 もしくは、隠すよりも公にして伯爵家と公爵家に利が生まれるような活用法があれば。
 せめて、もっと自由に力のコントロールができれば。

 その思いで、何かわかることはないかと必死に本を読んでいる間は、外の事を忘れていられた。
 けれどどうしても、ふっと外を振り向いてしまう時がある。
 気付けばふらふらと窓辺に歩み寄っている時がある。

 この時も気づけばフリージアは、窓からそっと二人を眺めていた。
 グレイの優しい笑みを見られるだけでも嬉しかった。
 けれど何かが満たされない。

 今読んでいたのが、聖なる乙女の伝説をモチーフにした悲恋物語だったからだろうか。
 切なくて、何故だか涙がじわりと滲んだ。
 その時だった。

 ふっと顔を上げたグレイの瞳とフリージアの瞳があった。
 固まったように動けずに見つめ合う。

 ややしてグレイの口が短く動いた。

 はっとして、フリージアは口元を覆った。
 そのままずるずると壁にもたれてしゃがみこむ。

 遠くて、細かい表情までは見えない。

 けれど。

 ――『待ってて』って、言った?

 都合のいい思い込みかもしれない。

 それでもフリージアは騒ぐ胸をおさえたまま、しばらく立ち上がることができなかった。
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