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第2章 再会

第1話

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 久しぶりにグレイが来る。
 それもフリージアを訊ねて。

 それなのに、当の本人であるフリージアはその姿を一目見ることすら許されない。
 今頃はもうフリージアとなったリディとグレイは対面しているはず。

 どんな話をしているだろうか。
 グレイは気付いたりしないだろうか。
 気付かないまま、リディに微笑みかけているのだろうか。

 あの優しく穏やかな笑みがリディに向けられることを考えると、腹の底から何かわからない衝動が突き上げて来る。
 瞼を固くつむり、それをやり過ごしていると、外から小鳥の鳴き声が聞こえた。
 リーンだ。
 フリージアはリーンを中に招き入れようと窓辺に歩み寄り、ふとそこから見えた光景に棒立ちになった。

 リディとグレイが、そこにいた。
 フリージアの部屋の窓から見える中庭には簡単なテーブルセットが置かれている。
 そこでお茶をしていたのだ。

「ごめんなさい、リーン。今は窓を開けられないの。音を立ててはいけないから――」

 わかったのかわかっていないのか、リーンはきょときょとと小首を傾げながら、つんつんと窓辺を歩き回っている。
 フリージアは早鐘のように鳴る胸をおさえた。

 ――二人はなぜそんなところでお茶を? 今日はティールームにお迎えしたはずでは

 フリージアと会うときも、いつもティールームだった。それなのにどうして今日は外でお茶をしているのだろう。
 リディが我儘を言ったのだろうか。
 いや。一日目は様子を見たいだろうリディは下手なことをしないはずだ。
 だとしたら、グレイが言い出したのだろうか。

 理由はわからない。
 ただ、会えないと思っていたグレイの姿を不意に目にしてしまって、フリージアの心は乱れに乱れていた。

 フリージアは棒立ちになったまま、ただ窓から仲睦まじく会話を交わす二人を見つめていた。
 リディの顔はここからではよく見えない。
 けれど、控えめに笑いながら、何か楽しげに話していることはわかった。
 グレイは笑みを浮かべながら、それを聞いている。

 それを見ていたら、たまらなくなってしまった。
 込み上げる衝動を呑み込もうとするように、フリージアは口を手で覆った。

 カーティスから聞いたリディの話や、カーティスの何を言っても聞き入れてはくれない固い態度にフリージアはこの先どうしたらいいのかわからなくなっていた。
 けれどこうして一目会ってしまえば、もう気持ちを抑えることはできなかった。

 会いたい。
 フリージアがフリージアとして、グレイに会いたい。

 そう強く願った時、不意にグレイが見上げるように顔を上げた。
 同時に、餌をもらうことを諦めたのか、リーンが空へと向かってぱたぱたと羽ばたく。
 それを追うようにグレイの視線がこちらを向く。

 目が合うかと思われた寸前――
 はっとして、思わずカーテンに隠れた。
 ドキドキ高鳴る胸をおさえ、固く目を瞑る。

 会ってはならない。家のため。リディのため。リディの家族のため。自分のため。

 そう言い聞かせるのに、こっちを見てほしい、気が付いてほしいという願いは止められなかった。
 身体を覆うカーテンを握り締める手から力が抜けていく――

 と、その時、部屋をノックする音が響き、フリージアはびくりとカーテンを握り締め直した。

「フリージア様、お茶をお持ちしました」

 侍女のアニーだった。
 気落ちしているだろうと、気にかけてくれたのだろう。

「ありがとう、入って」

 答えて、そっとカーテンから外を覗き込めば、グレイはもうこちらを見てはいなかった。
 胸が鈍く痛む。

 フリージアは思い知った。

 どんなに正論と偽善を掲げたところで、フリージアの想いは消せないのだと。
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