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第1章 アシェント伯爵家の令嬢

第9話

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 やっと会える。

 グレイが婚約者であるフリージアに最後に会ったのはいつだったか。
 病気で会えなくなったと言われてからもう三年。
 はじめは手紙を送っても返事はなく、読んでくれているのかすらもわからない状態だった。

 父を連れ無理矢理訪ねても、丁重にもてなしてくれたもののフリージアに会わせてくれることはなかった。
 ずっと寝ていなければならないようなものではないが、うつしてしまってはならないからというのが理由だった。
 では手紙のやり取りは可能かと聞くと、ペンを持つ気力がないようだと返された。

 それ以上どうすることもできず、返事がなくとも読んでくれればいいと時折手紙を送っていたが、ある時思わぬ形で返事がきた。
 何故か窓の外でじっと止まっていた小鳥の脚に手紙がついていたのだ。

 会えなくて申し訳ないが心配はしないでほしいと書かれていた。
 その小鳥に慌てて無事を確認する手紙を入れて飛ばせば、しばらくしてまた手紙を運んで来た。
 それでやりとりができるようになったものの、相変わらずフリージアの状況はよくわからないままだった。
 手紙には、病気のことは気にしなくていいとしか書かれておらず、あまり触れられることもなかったのだ。
 だからいつか回復することを信じて、他愛のない手紙のやり取りを続けていた。

 そうして三年が経ち、フリージアが回復したと伯爵家から連絡があった。
 すぐにでも会わせてほしいと返したが、まだ本調子ではないからと二週間後の日付を指定された。

 手紙の一つでも送りたかったが、小鳥はグレイが来てほしいときに来るわけではない。
 いつもフリージアの手紙を運んで来た代わりにつけて戻しているだけだから。
 それに、もう何週間も手紙は届いていなかった。

 本当にフリージアは回復したのだろうか。その後何かあったのではないだろうか。
 早く会いたい。
 本当に元気になったのか、確かめたい。
 けれどここで焦って再び門前払いをくらうようになってはいけない。
 グレイはその日が来るのをじっと待った。



 三年ぶりに訊ねたアシェント伯爵家は何も変わらないように見えた。
 けれどフリージアが長らく病んでいたせいなのか、邸にはいろどりがなく、どことなく寒々しさがある。

 期待と膨らむ想いを抱えて門を入れば、出迎えたのはフリージアの義兄、カーティスだった。

「妹の病気により、長らく失礼をいたしておりました」

 相変わらず張り付けたような、完璧な紳士の笑みだった。
 最初に会った時はもっと人間らしい色があったと思うのに。
 会う度に硬さは増していき、笑顔の裏に何かの感情が見え隠れするようになった。
 だから彼と話をする時には慎重にならなければならない。

「フリージア嬢が回復されたとのこと、ご連絡をいただき感謝しています」

「私も心苦しかったのですがね。もしも妹の病が人にうつってしまうようなもので侯爵家の方々に何かあれば、申し訳がたちませんから」

「お心遣い痛み入ります。とにかくお元気になられたようでほっといたしましたが、本日お会いして直にそれを確認できれば父にもよい報告を持って帰れるでしょう。父はこのままでは婚約の継続も危ないのではないかと危惧しておりましたから」

「フリージアとの婚約を継続していただけるのであれば、我が家としても願ってもないこと。今日はゆっくりとされていってください」

 カーティスは終始顔色を変えなかった。
 グレイのことが気に食わないのだと思っていたのに、今日はそれをおくびにも出さない。
 特にフリージアの話題になると目つきが剣呑になることがあり、血の繋がらない義理の妹に道ならぬ想いを抱いているのではと邪推してしまうほどだったのに。
 今日のカーティスからはどこか余裕が感じられる。

 一体、三年の間に何があったのだろう。
 訝しみながらも、グレイは久しぶりに会えるフリージアのことにほとんどの意識が向いていた。
 だからカーティスが意味ありげに笑ったことには気づかなかった。 
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