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第二章
第4話
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何をどうしたらいいのかもわからないまま夜が明け、スフィーナはなんとか二日目のテストをこなした。
だが、学院に行っても何故かミリーにもゲイツにも会わなかった。
昨日言いたいことを言って気が済んだのだろうか。
しかしミリーらしくない。
何があったのかといぶかっていると、事の次第を帰りの馬車でグレイグから聞かされた。
「俺の派兵の話だが。なくなった」
そういってグレイグは、驚きに目を丸くするスフィーナに戸惑ったように話してくれた。
代わりにゲイツが派兵されることになったこと。
どうやら父であるヘイムート公爵が、ゲイツを強引にねじ込んだらしいこと。
ゲイツがグレイグを推したことを知り、ヘイムート公爵は激怒したのだそうだ。
それは実力を認めているに等しく、騎士見習いの中でもグレイグより下にいるゲイツが現状に甘んじるな、と。
ヘイムート公爵はゲイツに、戦功をあげるまで帰るなと言い渡したとのことで、ゲイツはテストもそこそこに訓練に入っているという。
ゲイツが行っても実力不足で無駄に命を散らすだけということは上官たちもわかっているものの、公爵に逆らうこともできず、せめてと訓練をつけてくれているらしい。
「そうだったのね……。もう聞いてると思うけど、そもそもグレイグが選ばれたのもミリーの差し金だったようなの。巻き込んでごめんなさい。ラグート伯爵と夫人にもいらぬ心労をかけてしまったわ」
ミリーがスフィーナを独りにさせるためにゲイツを唆したから、指輪の効果でそれがミリーに跳ね返り、同じく婚約者であるゲイツが派兵されることになったのかもしれない。
ヘイムート公爵の話からすると、指輪がなくともそうなっていたようにも思えるが。
「謝ることじゃない。我が婚約者殿のことは自分のことと同じだ。まあ今回は流れても、いつかはそういう任務に就くこともある。普段から鍛えておくしかないと改めて身が引き締まった思いだ。ただ、今スフィーナから離れるのは心配だったから、今回のことはヘイムート公爵に感謝だな」
「うん」
グレイグが行かずに済んでよかった。
それは口に出してはいけないことだが、心から沸き出す安堵にスフィーナは体から力が抜けていくようだった。
それに改めて己の不甲斐なさを思い知った。
グレイグを失わずに済んだことは心から嬉しいが、それは指輪か周囲の流れによるもので、スフィーナはミリーに啖呵を切るだけで何もできなかった。
安堵と無力感に力を失っていると、グレイグがぽんぽんと頭を撫でた。
「大丈夫だ。もし今後戦に行くことになっても、俺は必ずスフィーナの元に生きて帰るから。なにせ、そうしてヘイムート公爵が躍起になるほど、俺は優秀だからなあ」
そう言って笑ったグレイグの胸に、スフィーナは頬を寄せた。
グレイグが優しくその頭を撫でるのを感じ、スフィーナはおもむろに顔をあげた。
伸び上がってグレイグの頬に唇で触れると、グレイグは目を丸くして、それから笑った。
「あの日の実験の結果が今になって返ってきたってことか。指輪の効果は随分と時間差があるんだな」
あまりの恥ずかしさに、そういうことにしてしまおうかとも思った。だがスフィーナは首を振った。
「ちがう」
自分に何ができるのか、まだわからない。
けれど、大切な人に愛を示すことは、今できるから。
大切な人はいついなくなってしまうかもわからない。
恥ずかしいとか。言わなくてもわかってくれているはずとか。
現状にあぐらをかくのではなく、与えられるばかりではなく、スフィーナも与えられる側になりたかった。
「好きよ、グレイグ」
「ははは! どうした、スフィーナ」
そう笑ってスフィーナの顔を覗き込んでから、グレイグは頬にキスを返してくれた。
「俺も好きだよ、スフィーナ。止まれなくなるから今日はここまでな」
そういってグレイグはスフィーナを優しく抱き締めた。
温かく、胸がどこまでも広がっていくような、安堵できる体温だった。
この人は自分が守りたい。
次こそは、きっと。
スフィーナはそう心に誓った。
・・・◆・・・◇・・・◆・・・
テスト最終日である三日目。
なんとか精神状態も持ち直し、最後まで受け終えたスフィーナがグレイグと馬車に向かっていると、後ろからミリーに呼び止められた。
「お姉さま。お姉さまがヘイムート公爵に何か仰ったのね? それともお父様に泣きつきでもしたのかしら。この卑怯者!」
「ミリー。ゲイツ様が派兵されたことは名誉あることよ」
ミリーが言っていたそのままに返すと、ミリーはぎりぎりと奥歯を噛みしめた。
「せっかく私に相応しい婚約者ができたのに。私の幸せを妬んだのでしょう。蹴落としてやろうと躍起になったのでしょう。醜いわ。浅ましいですわ!」
それならこれまでミリーはどんな気持ちでスフィーナにそれをしてきたのだろうか。
高尚な気持ちでやったとでも言うのだろうか。
ミリーほどミリーが見えていない人間はいないのではないかと、スフィーナは思った。
そんなミリーにどんな言葉なら通じるのかはわからない。
だが今日のスフィーナは黙ってやり過ごすつもりは毛頭なかった。
「あなたが不幸だろうと幸せだろうと、私の幸せには関わりはない。私はあなたとは違う人間なのだから。それに私はあなたを妬むほど、あなたを幸せだと思ったことはないわ」
他者に依存する相対的な幸せは求めるほどに不毛だと思う。
ミリーも絶対的な自分自身の幸せを見つけられたらいいのに。
スフィーナが不幸になることで幸せを得ようとするから、せっかく公爵家の三男というミリーの念願の婚約者が決まったのに、自らそれを失うことになったのだ。
手にいれた幸せをただそのまま素直に喜べたらいいのに。
「ほら! そうやってお姉さまばかりがいつも幸せでズルイのよ! 何もしていないのに全てに恵まれて、何もかもを手にして」
だん、と足を踏み鳴らし、顔を真っ赤にしたミリーはスフィーナを睨み付けた。
グレイグは何があっても守れるように、スフィーナの斜め前に立っているが敢えて何も言わずに見守ってくれている。
これは姉妹の対峙だ。
グレイグを危険にさらされそうになった以上、スフィーナはもう黙っているわけにはいかなかった。
「私が幸せなのは、何があっても傍にいてくれる人たちがいるからよ。人を否定ばかりしていたら、認められることはない。人を蔑むことしか知らない人の傍に人は寄ってはこない。そんな人の傍が居心地がいいと思うわけがないでしょう」
「全部、お姉さまがアンリーク伯爵家の長女だからですわ。あと半年生まれるのが早ければ、私がその幸せを得ていたのに」
「確かに私は長女ではあるけれど、次期当主はあなたと決まっているでしょう。それなのに今の自分に幸せを感じられないのは、あなたが求める幸せがそこにはないからよ」
「何を仰っているの? 地位があるからいい結婚ができる。地位があるからいい友人が寄ってくる。地位があるからいい生活が送れる。そうでしょう? そうして幸せが手に入っていくのですわ」
確かに一理はある。
貧しい暮らしでは困難が多く、幸せが見つけにくいだろう。だからスフィーナが生まれた時から一定の幸せの上に立っていることは確かだ。豊かさゆえに、安穏と暮らしてこられたのだから。
だが豊かさと地位さえあれば幸せを感じられるわけではないのは、ミリー自身が一番わかっているのではないかと思う。
だからこそいつも他者をズルイと妬み、他人の物を欲し、手に入れては満足できずに捨て去るのだ。
「ミリー。あなたが求めているのは、人なんだと思うわ。それはあなた自身が変われば得られるものよ」
努力だけではどうにもならないことも確かにある。
婚約も個人が決めることではない。
しかしミリーはまだそれをしていない。
他者を貶めることで自分が認められるわけではないのに、人を引きずり下ろし、奪い取ることだけに一心不乱になって、自分自身に対する努力をしていない。
ミリー自身が一番、ミリーを蔑ろにしているのだ。
ミリーは何も言わず、スフィーナを憎むようにきつく歪んだ目を向けていた。
スフィーナは続けた。
「今の友人を得たのも、グレイグが婚約者になったのも、私がアンリーク家の娘だからというのは確かよ。けれどそこからどう絆を深めていくかは、自分自身の問題。あなたが私の場所に成り代わっても、同じものが得られるわけじゃない。同じ幸せを感じられるわけじゃない。それは私とあなたが違う人間だから」
自分が手にしたものをなくしてしまうのか、育てていくのか。自分自身でできることはたくさんある。
努力しても報われるばかりではないことは確かだが、それを見てくれている人はいる。
アンリーク家の使用人たちのように。
「そう言って私にお説教をしていれば、自分は高尚な人間になったつもりになれるのでしょう。私を見下して、お姉さまはさぞいい気持ちなんでしょうね」
ふっ、と顔を歪めて笑ったミリーに、スフィーナは眉を寄せた。
どんなに言葉を尽くしても伝わる気がしなかった。
ミリーの中には何か根強くはびこっているものがある。
それが二人の会話の邪魔をしているような気がした。
だがそれが何かはその時のスフィーナにはわからなかった。
そして、ミリーは吐き捨てるように言った。
「お姉さまが言う通り、私たちは別の人間ですわ。お姉さまには私の気持ちなんてわかるわけがありませんのよ。財産を狙うための道具として使われ、血が繋がってもいない男の子供として無理矢理幸せな家庭にねじこまれて、そこで育った私の気持ちなんか!」
「――どういうこと?」
急な話の転換についていけず、スフィーナは眉を顰めた。
グレイグも確かめるようにスフィーナを振り返るが、スフィーナは首を振って見せることしかできなかった。
ミリーは静かに嗤った。
「お姉さまも気が付いていらっしゃるでしょう? 私とお父様がちっとも似ていないこと。容姿だけじゃない。お父様の聡明さも、鷹揚さも、黙っていても人を惹きつけるような何かも、私にはない。お姉さまばかりがすべてを持っているのは当たり前ですわ。私は本当はアンリーク伯爵家の子供なんかではないのですから」
だが、学院に行っても何故かミリーにもゲイツにも会わなかった。
昨日言いたいことを言って気が済んだのだろうか。
しかしミリーらしくない。
何があったのかといぶかっていると、事の次第を帰りの馬車でグレイグから聞かされた。
「俺の派兵の話だが。なくなった」
そういってグレイグは、驚きに目を丸くするスフィーナに戸惑ったように話してくれた。
代わりにゲイツが派兵されることになったこと。
どうやら父であるヘイムート公爵が、ゲイツを強引にねじ込んだらしいこと。
ゲイツがグレイグを推したことを知り、ヘイムート公爵は激怒したのだそうだ。
それは実力を認めているに等しく、騎士見習いの中でもグレイグより下にいるゲイツが現状に甘んじるな、と。
ヘイムート公爵はゲイツに、戦功をあげるまで帰るなと言い渡したとのことで、ゲイツはテストもそこそこに訓練に入っているという。
ゲイツが行っても実力不足で無駄に命を散らすだけということは上官たちもわかっているものの、公爵に逆らうこともできず、せめてと訓練をつけてくれているらしい。
「そうだったのね……。もう聞いてると思うけど、そもそもグレイグが選ばれたのもミリーの差し金だったようなの。巻き込んでごめんなさい。ラグート伯爵と夫人にもいらぬ心労をかけてしまったわ」
ミリーがスフィーナを独りにさせるためにゲイツを唆したから、指輪の効果でそれがミリーに跳ね返り、同じく婚約者であるゲイツが派兵されることになったのかもしれない。
ヘイムート公爵の話からすると、指輪がなくともそうなっていたようにも思えるが。
「謝ることじゃない。我が婚約者殿のことは自分のことと同じだ。まあ今回は流れても、いつかはそういう任務に就くこともある。普段から鍛えておくしかないと改めて身が引き締まった思いだ。ただ、今スフィーナから離れるのは心配だったから、今回のことはヘイムート公爵に感謝だな」
「うん」
グレイグが行かずに済んでよかった。
それは口に出してはいけないことだが、心から沸き出す安堵にスフィーナは体から力が抜けていくようだった。
それに改めて己の不甲斐なさを思い知った。
グレイグを失わずに済んだことは心から嬉しいが、それは指輪か周囲の流れによるもので、スフィーナはミリーに啖呵を切るだけで何もできなかった。
安堵と無力感に力を失っていると、グレイグがぽんぽんと頭を撫でた。
「大丈夫だ。もし今後戦に行くことになっても、俺は必ずスフィーナの元に生きて帰るから。なにせ、そうしてヘイムート公爵が躍起になるほど、俺は優秀だからなあ」
そう言って笑ったグレイグの胸に、スフィーナは頬を寄せた。
グレイグが優しくその頭を撫でるのを感じ、スフィーナはおもむろに顔をあげた。
伸び上がってグレイグの頬に唇で触れると、グレイグは目を丸くして、それから笑った。
「あの日の実験の結果が今になって返ってきたってことか。指輪の効果は随分と時間差があるんだな」
あまりの恥ずかしさに、そういうことにしてしまおうかとも思った。だがスフィーナは首を振った。
「ちがう」
自分に何ができるのか、まだわからない。
けれど、大切な人に愛を示すことは、今できるから。
大切な人はいついなくなってしまうかもわからない。
恥ずかしいとか。言わなくてもわかってくれているはずとか。
現状にあぐらをかくのではなく、与えられるばかりではなく、スフィーナも与えられる側になりたかった。
「好きよ、グレイグ」
「ははは! どうした、スフィーナ」
そう笑ってスフィーナの顔を覗き込んでから、グレイグは頬にキスを返してくれた。
「俺も好きだよ、スフィーナ。止まれなくなるから今日はここまでな」
そういってグレイグはスフィーナを優しく抱き締めた。
温かく、胸がどこまでも広がっていくような、安堵できる体温だった。
この人は自分が守りたい。
次こそは、きっと。
スフィーナはそう心に誓った。
・・・◆・・・◇・・・◆・・・
テスト最終日である三日目。
なんとか精神状態も持ち直し、最後まで受け終えたスフィーナがグレイグと馬車に向かっていると、後ろからミリーに呼び止められた。
「お姉さま。お姉さまがヘイムート公爵に何か仰ったのね? それともお父様に泣きつきでもしたのかしら。この卑怯者!」
「ミリー。ゲイツ様が派兵されたことは名誉あることよ」
ミリーが言っていたそのままに返すと、ミリーはぎりぎりと奥歯を噛みしめた。
「せっかく私に相応しい婚約者ができたのに。私の幸せを妬んだのでしょう。蹴落としてやろうと躍起になったのでしょう。醜いわ。浅ましいですわ!」
それならこれまでミリーはどんな気持ちでスフィーナにそれをしてきたのだろうか。
高尚な気持ちでやったとでも言うのだろうか。
ミリーほどミリーが見えていない人間はいないのではないかと、スフィーナは思った。
そんなミリーにどんな言葉なら通じるのかはわからない。
だが今日のスフィーナは黙ってやり過ごすつもりは毛頭なかった。
「あなたが不幸だろうと幸せだろうと、私の幸せには関わりはない。私はあなたとは違う人間なのだから。それに私はあなたを妬むほど、あなたを幸せだと思ったことはないわ」
他者に依存する相対的な幸せは求めるほどに不毛だと思う。
ミリーも絶対的な自分自身の幸せを見つけられたらいいのに。
スフィーナが不幸になることで幸せを得ようとするから、せっかく公爵家の三男というミリーの念願の婚約者が決まったのに、自らそれを失うことになったのだ。
手にいれた幸せをただそのまま素直に喜べたらいいのに。
「ほら! そうやってお姉さまばかりがいつも幸せでズルイのよ! 何もしていないのに全てに恵まれて、何もかもを手にして」
だん、と足を踏み鳴らし、顔を真っ赤にしたミリーはスフィーナを睨み付けた。
グレイグは何があっても守れるように、スフィーナの斜め前に立っているが敢えて何も言わずに見守ってくれている。
これは姉妹の対峙だ。
グレイグを危険にさらされそうになった以上、スフィーナはもう黙っているわけにはいかなかった。
「私が幸せなのは、何があっても傍にいてくれる人たちがいるからよ。人を否定ばかりしていたら、認められることはない。人を蔑むことしか知らない人の傍に人は寄ってはこない。そんな人の傍が居心地がいいと思うわけがないでしょう」
「全部、お姉さまがアンリーク伯爵家の長女だからですわ。あと半年生まれるのが早ければ、私がその幸せを得ていたのに」
「確かに私は長女ではあるけれど、次期当主はあなたと決まっているでしょう。それなのに今の自分に幸せを感じられないのは、あなたが求める幸せがそこにはないからよ」
「何を仰っているの? 地位があるからいい結婚ができる。地位があるからいい友人が寄ってくる。地位があるからいい生活が送れる。そうでしょう? そうして幸せが手に入っていくのですわ」
確かに一理はある。
貧しい暮らしでは困難が多く、幸せが見つけにくいだろう。だからスフィーナが生まれた時から一定の幸せの上に立っていることは確かだ。豊かさゆえに、安穏と暮らしてこられたのだから。
だが豊かさと地位さえあれば幸せを感じられるわけではないのは、ミリー自身が一番わかっているのではないかと思う。
だからこそいつも他者をズルイと妬み、他人の物を欲し、手に入れては満足できずに捨て去るのだ。
「ミリー。あなたが求めているのは、人なんだと思うわ。それはあなた自身が変われば得られるものよ」
努力だけではどうにもならないことも確かにある。
婚約も個人が決めることではない。
しかしミリーはまだそれをしていない。
他者を貶めることで自分が認められるわけではないのに、人を引きずり下ろし、奪い取ることだけに一心不乱になって、自分自身に対する努力をしていない。
ミリー自身が一番、ミリーを蔑ろにしているのだ。
ミリーは何も言わず、スフィーナを憎むようにきつく歪んだ目を向けていた。
スフィーナは続けた。
「今の友人を得たのも、グレイグが婚約者になったのも、私がアンリーク家の娘だからというのは確かよ。けれどそこからどう絆を深めていくかは、自分自身の問題。あなたが私の場所に成り代わっても、同じものが得られるわけじゃない。同じ幸せを感じられるわけじゃない。それは私とあなたが違う人間だから」
自分が手にしたものをなくしてしまうのか、育てていくのか。自分自身でできることはたくさんある。
努力しても報われるばかりではないことは確かだが、それを見てくれている人はいる。
アンリーク家の使用人たちのように。
「そう言って私にお説教をしていれば、自分は高尚な人間になったつもりになれるのでしょう。私を見下して、お姉さまはさぞいい気持ちなんでしょうね」
ふっ、と顔を歪めて笑ったミリーに、スフィーナは眉を寄せた。
どんなに言葉を尽くしても伝わる気がしなかった。
ミリーの中には何か根強くはびこっているものがある。
それが二人の会話の邪魔をしているような気がした。
だがそれが何かはその時のスフィーナにはわからなかった。
そして、ミリーは吐き捨てるように言った。
「お姉さまが言う通り、私たちは別の人間ですわ。お姉さまには私の気持ちなんてわかるわけがありませんのよ。財産を狙うための道具として使われ、血が繋がってもいない男の子供として無理矢理幸せな家庭にねじこまれて、そこで育った私の気持ちなんか!」
「――どういうこと?」
急な話の転換についていけず、スフィーナは眉を顰めた。
グレイグも確かめるようにスフィーナを振り返るが、スフィーナは首を振って見せることしかできなかった。
ミリーは静かに嗤った。
「お姉さまも気が付いていらっしゃるでしょう? 私とお父様がちっとも似ていないこと。容姿だけじゃない。お父様の聡明さも、鷹揚さも、黙っていても人を惹きつけるような何かも、私にはない。お姉さまばかりがすべてを持っているのは当たり前ですわ。私は本当はアンリーク伯爵家の子供なんかではないのですから」
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