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第四章 国王陛下を取り巻く人々
6.国王陛下のもとへ夜忍ぶ者
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夢を見た。
子供の頃のユーティスが泣いている夢。
自分の代わりに誰かが傷ついて、その場は気丈に振る舞っていたのに、部屋に戻って一人縮こまって泣いている。
どうしてそんな夢をみたのかはわからない。
ただ、自分のために誰かが傷つくことほど耐えられないことはないと、いつかユーティスが言っていたことを思い出した。
泣かなくていいよ。
私は死なないから。
夢の中のユーティスにそう声をかけて、ふっと目を覚ました。
辺りは真っ暗で、ユーティスはベッドサイドに座ったまま突っ伏して眠っていた。
なんだか手が動かないと思ったら、ユーティスに握られていた。ずっとそうしていたのだろうか。
ちゃんと布団に入って寝ないと。
そう言おうと思った時、部屋の影を何かがもぞりとうごめくのがわかった。
ユーティスは隣にいる。
こんな真っ暗な真夜中にノールトが訪ねてくるとも思えない。
侍女たちも今は休んでいるはず。
ラスは部屋の中には入らない。今も扉の外にいるんだろう。
だとしたら、誰か。
私は再びそっと目を閉じて薄眼をあけ、その動向を見守った。
影は音もなく私の傍まで忍んで来ると、おもむろに振りかぶる動作をした。
そこにいたのはお面をかぶった男。
手にした煌めく何かにカーテンから漏れた月明かりが反射する。
小刀だ。
はっとした瞬間、私は重い体をなんとか転がそうとした。けれどそれよりも早く、私の手を握っていたユーティスがぐいっと腕を引いたのがわかった。
ベッドの下に落ちる、と思ったけど、その体は寝ていたはずのユーティスに抱きかかえられる。
「ユーティス!」
起きていたのかと思うのと同時、ざくり、と小刀が布団に突き刺さるのが見えた。
小刀は男の手から離れていた。
叩き落したのは、ユーティスがカゲと呼んだ真っ黒な出で立ちの護衛。
私が叫んだ声が聞こえたのか、ラスが勢いよく扉を開け部屋に駆け込んだ。
「誰だ!」
誰何の声を聞くと、お面の男は身を翻し逃げに転じた。
騎士の出で立ちのラスと、男の小刀をはじいたカゲが相手では分が悪いと悟ったのだろう。だが、それを逃すわけもなく、カゲが仮面の男との距離を詰めた。ラスも駆け寄り、逃げ道を塞ぐ。
逃げるのを諦めたお面の男は腰のあたりから新たな小刀を抜き、カゲに向かって横薙ぎにした。カゲは両手にした短刀でそれを受け流して軌道をかえると、返す刀で一歩踏み込む。
しばらく息を呑むような刃のやり取りが続き、その間ユーティスは私を守るように身を低くして抱え込んでいた。
――キンッ、という金属の爆ぜる音が部屋に響き、仮面の男の手にした小刀はまたもや床に突き刺さった。
「観念しろ」
ラスが抜き身の剣を手に迫ると、仮面の男はそっと両手を上げる動きを見せ――ぐっと何かを強く噛もうとしたのをカゲは見逃さなかった。咄嗟に横からこめかみを掌底で殴りつけ、昏倒させる。
「自害するつもりだったか!」
倒れた男の口から丸薬が転がり出たのを、ラスがハンカチで注意深く拾う。
「怪我はないな?」
耳元でユーティスに聞かれ、私は慌てて首を縦に振った。
思わず息を詰めてしまっていて、やっと深く吐き出す。
男が動かないことを確認したラスが、そっと男の仮面を剥いだ。
「おまえは……!」
驚いて声を上げたのは、カゲだった。
何が起きたのかまだよくわかっていない私に、ユーティスが苦々しげに教えてくれた。
「前国王の……第三王妃メーベラの護衛だ」
私は、四方八方から狙われていたことを知る。
子供の頃のユーティスが泣いている夢。
自分の代わりに誰かが傷ついて、その場は気丈に振る舞っていたのに、部屋に戻って一人縮こまって泣いている。
どうしてそんな夢をみたのかはわからない。
ただ、自分のために誰かが傷つくことほど耐えられないことはないと、いつかユーティスが言っていたことを思い出した。
泣かなくていいよ。
私は死なないから。
夢の中のユーティスにそう声をかけて、ふっと目を覚ました。
辺りは真っ暗で、ユーティスはベッドサイドに座ったまま突っ伏して眠っていた。
なんだか手が動かないと思ったら、ユーティスに握られていた。ずっとそうしていたのだろうか。
ちゃんと布団に入って寝ないと。
そう言おうと思った時、部屋の影を何かがもぞりとうごめくのがわかった。
ユーティスは隣にいる。
こんな真っ暗な真夜中にノールトが訪ねてくるとも思えない。
侍女たちも今は休んでいるはず。
ラスは部屋の中には入らない。今も扉の外にいるんだろう。
だとしたら、誰か。
私は再びそっと目を閉じて薄眼をあけ、その動向を見守った。
影は音もなく私の傍まで忍んで来ると、おもむろに振りかぶる動作をした。
そこにいたのはお面をかぶった男。
手にした煌めく何かにカーテンから漏れた月明かりが反射する。
小刀だ。
はっとした瞬間、私は重い体をなんとか転がそうとした。けれどそれよりも早く、私の手を握っていたユーティスがぐいっと腕を引いたのがわかった。
ベッドの下に落ちる、と思ったけど、その体は寝ていたはずのユーティスに抱きかかえられる。
「ユーティス!」
起きていたのかと思うのと同時、ざくり、と小刀が布団に突き刺さるのが見えた。
小刀は男の手から離れていた。
叩き落したのは、ユーティスがカゲと呼んだ真っ黒な出で立ちの護衛。
私が叫んだ声が聞こえたのか、ラスが勢いよく扉を開け部屋に駆け込んだ。
「誰だ!」
誰何の声を聞くと、お面の男は身を翻し逃げに転じた。
騎士の出で立ちのラスと、男の小刀をはじいたカゲが相手では分が悪いと悟ったのだろう。だが、それを逃すわけもなく、カゲが仮面の男との距離を詰めた。ラスも駆け寄り、逃げ道を塞ぐ。
逃げるのを諦めたお面の男は腰のあたりから新たな小刀を抜き、カゲに向かって横薙ぎにした。カゲは両手にした短刀でそれを受け流して軌道をかえると、返す刀で一歩踏み込む。
しばらく息を呑むような刃のやり取りが続き、その間ユーティスは私を守るように身を低くして抱え込んでいた。
――キンッ、という金属の爆ぜる音が部屋に響き、仮面の男の手にした小刀はまたもや床に突き刺さった。
「観念しろ」
ラスが抜き身の剣を手に迫ると、仮面の男はそっと両手を上げる動きを見せ――ぐっと何かを強く噛もうとしたのをカゲは見逃さなかった。咄嗟に横からこめかみを掌底で殴りつけ、昏倒させる。
「自害するつもりだったか!」
倒れた男の口から丸薬が転がり出たのを、ラスがハンカチで注意深く拾う。
「怪我はないな?」
耳元でユーティスに聞かれ、私は慌てて首を縦に振った。
思わず息を詰めてしまっていて、やっと深く吐き出す。
男が動かないことを確認したラスが、そっと男の仮面を剥いだ。
「おまえは……!」
驚いて声を上げたのは、カゲだった。
何が起きたのかまだよくわかっていない私に、ユーティスが苦々しげに教えてくれた。
「前国王の……第三王妃メーベラの護衛だ」
私は、四方八方から狙われていたことを知る。
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