16 / 43
第三章 国王陛下と王宮
3.国王陛下と迎える毒
しおりを挟む
私を迎えることになったせいもあるのか、ユーティスは仕事に忙殺されていた。
けれど言葉通り、夕食の時間には仕事を終わらせて私と共にテーブルについた。
長~いテーブルに向かい合って二人だけで座る。
無駄だ。
果てしなくスペースと動線の無駄。
前菜が運ばれてきて、私は習った通りに食器に手を伸ばそうとした。
けれどすぐにその手を止めた。
赤々としたソース。赤味のある根菜をベースにしているのだろうが、見た目のインパクトが強い。辛味のある香料も交じっているのが見えるが、最初から刺激により味覚を損ねるようなものを出すだろうか。
顔を上げ、ユーティスをじっと見る。
気づいたユーティスが「待て」と言う間もなく、私はフォークを手に取り口に運ぶふりをし、ソースだけをちろりと一舐めした。
国王よりも先に食事に手をつけるなど、マナー違反だとノールトが怒り出す前に。
途端、ピリリと舌に刺激が走る。
毒だ。
体に備わる防衛本能は賢い。体によくないものを受け付けないようにするために、刺激を感じ取れるようになっているのだから。
辛味のある真っ赤なソースは毒による刺激をカモフラージュするためのものだ。微かに食用ではない刺激と苦みが走った。
ユーティスは私の視線を正しく読み取ると、席を立ちあがった。
「どうやらリリアは体調が思わしくないようだ。私が部屋まで運ぼう。作ってくれた者たちには申し訳ないが、この食事は我々が口をつけてしまったものだから決して誰も口をつけないように」
そう告げた時、厨房から様子を見るようにそっと顔を出していた給仕が青ざめ震えているのが見えた。
使われたのは、あの人か……。
ユーティスもそれを確認したようで、ノールトに視線を走らせた。
遅れて意図を察したらしいノールトがはっとして、すぐさま行動に移した。給仕に気付かれないようさりげなく――。
「さあ部屋まで送るよ、リリア」
「ありがとう」
そう言って立ち上がろうとしたが、それはできなかった。
ユーティスが私を横抱きに抱えてしまったからだ。
「ちょ……!」
抗議しかけた口は、すぐに閉じた。
ユーティスの黒曜石の瞳が、怒っていたから。
「まったく、とんでもない無茶を――」
私にだけ聞こえる小さな声でぼそりと呟き、ユーティスは賢王の顔を張り付けたまま足早に退出した。
けれど言葉通り、夕食の時間には仕事を終わらせて私と共にテーブルについた。
長~いテーブルに向かい合って二人だけで座る。
無駄だ。
果てしなくスペースと動線の無駄。
前菜が運ばれてきて、私は習った通りに食器に手を伸ばそうとした。
けれどすぐにその手を止めた。
赤々としたソース。赤味のある根菜をベースにしているのだろうが、見た目のインパクトが強い。辛味のある香料も交じっているのが見えるが、最初から刺激により味覚を損ねるようなものを出すだろうか。
顔を上げ、ユーティスをじっと見る。
気づいたユーティスが「待て」と言う間もなく、私はフォークを手に取り口に運ぶふりをし、ソースだけをちろりと一舐めした。
国王よりも先に食事に手をつけるなど、マナー違反だとノールトが怒り出す前に。
途端、ピリリと舌に刺激が走る。
毒だ。
体に備わる防衛本能は賢い。体によくないものを受け付けないようにするために、刺激を感じ取れるようになっているのだから。
辛味のある真っ赤なソースは毒による刺激をカモフラージュするためのものだ。微かに食用ではない刺激と苦みが走った。
ユーティスは私の視線を正しく読み取ると、席を立ちあがった。
「どうやらリリアは体調が思わしくないようだ。私が部屋まで運ぼう。作ってくれた者たちには申し訳ないが、この食事は我々が口をつけてしまったものだから決して誰も口をつけないように」
そう告げた時、厨房から様子を見るようにそっと顔を出していた給仕が青ざめ震えているのが見えた。
使われたのは、あの人か……。
ユーティスもそれを確認したようで、ノールトに視線を走らせた。
遅れて意図を察したらしいノールトがはっとして、すぐさま行動に移した。給仕に気付かれないようさりげなく――。
「さあ部屋まで送るよ、リリア」
「ありがとう」
そう言って立ち上がろうとしたが、それはできなかった。
ユーティスが私を横抱きに抱えてしまったからだ。
「ちょ……!」
抗議しかけた口は、すぐに閉じた。
ユーティスの黒曜石の瞳が、怒っていたから。
「まったく、とんでもない無茶を――」
私にだけ聞こえる小さな声でぼそりと呟き、ユーティスは賢王の顔を張り付けたまま足早に退出した。
11
お気に入りに追加
1,506
あなたにおすすめの小説
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる