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第五章 魔王、帰る
4.気づけば始まっていて、終わりは近づいていて
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「っああ~、よく寝た! やっぱりお城のベッドが一番だわあ」
ううーん、と大きく伸びをした珠美に、ラースは頬杖をついて「よかったな」と心のこもらない返答をした。
目が半分閉じている。
眠い。
何度も抜け出すことを試みたのだが、結局それは叶わなかった。
人の姿に戻ってしまえばいいとも思ったのだが、それはそれでとてもイケナイ気がして躊躇われた。
たとえ一瞬だとしても、裸体でこの珠美の傍に寝そべっている状態になるのだから。とてもいただけない。
「ラースも疲れてるよね。昨日はたくさん元部下の人たちと模擬試合したんだし。まだ寝ててもいいよ」
「いや、大丈夫だ。起きる」
モンテーナにはサンジェストのように衛兵はいない。
ラースが守らなければならないのだ。
ラースがベッドから降り立つと、珠美は背を向けて自分も着替えを始めた。
なんとも不思議なもので、珠美は肌を見せずに寝衣から服へと着替えられるのだ。
プールとか体育で慣れてるから、と言っていたが、何をどうやってそうなるのかラースには想像もつかない。
普通は着替えている間は外に出すものだと思うのだが、長く寝室を共にしていると慣れて面倒になって今はこの形になっていた。
「ラース、着替え終わった?」
「おお」
返事を聞いてから珠美が振り返り、またぐるりと頭を元に戻した。
「終わってないじゃん!」
「いや、上くらいいいだろ」
下はきちんと履いている。
毛皮のベストを羽織りながら返せば、「よくない! 今度こそ終わった?」とやや怒った声が問うた。
「ちゃんと着たって。さあ朝飯を食べに行くか」
前はこれくらい珠美も気にしなかったような気がするのに。
いや、そんなことはなかったか?
自問自答しながらもラースは、二人の間にあるものが確実に形を変えていることを感じていた。
その果てがどこに続いているのか。
知っている気がするが、どこかで知りたくないとも思っていた。
・・・◆・・・◇・・・◆・・・
それから二週間後、珠美とラースは再び旅立った。
ダーナシアへ国交を開きに向かったのだ。
サンジェストよりも遠かったが、グラウス国王の紹介状のおかげもあってか、話はすんなりと済んだ。
ゴムとその加工品、他にもダーナシアにしかない果物などの取引が開始されることになり、珠美は役目を終えて帰路についた。
その旅の間、相変わらずラースは虎の姿で珠美と共に寝ることになった。
一人にするのは危険だったから、やむなくだ。
長いふわふわの髪をいつまでも弄びながら、長い夜を過ごした。
さらりと髪を流せば現れる白い首筋から目を逸らし、大きなため息をつき、そうして布団を口元までかけてやり、その上から抱きしめるように眠る。
慣れとは恐ろしいもので、気づけばラースはぐっすりと深く眠れるようになっていた。
珠美がもふもふがないと眠れないと言った気持ちが今はよくわかった。
珠美の温もりを抱えていると、とても眠くなる。
胸の中で小さく息づく命が愛しくてたまらなかった。
その反面、いずれそれがこの手の中から旅立ってしまうのだと思うと、居ても立ってもいられなくなった。
別れの時は思わぬ早さでやって来た。
旅から帰り、ギルドとの話し合いがうまく成立し、これから、という時だった。
「やあ、タマミ。これまでありがとう。緊急事態だ、今すぐに日本に帰るといいよ」
そう言って現れたのは、クライアだった。
ううーん、と大きく伸びをした珠美に、ラースは頬杖をついて「よかったな」と心のこもらない返答をした。
目が半分閉じている。
眠い。
何度も抜け出すことを試みたのだが、結局それは叶わなかった。
人の姿に戻ってしまえばいいとも思ったのだが、それはそれでとてもイケナイ気がして躊躇われた。
たとえ一瞬だとしても、裸体でこの珠美の傍に寝そべっている状態になるのだから。とてもいただけない。
「ラースも疲れてるよね。昨日はたくさん元部下の人たちと模擬試合したんだし。まだ寝ててもいいよ」
「いや、大丈夫だ。起きる」
モンテーナにはサンジェストのように衛兵はいない。
ラースが守らなければならないのだ。
ラースがベッドから降り立つと、珠美は背を向けて自分も着替えを始めた。
なんとも不思議なもので、珠美は肌を見せずに寝衣から服へと着替えられるのだ。
プールとか体育で慣れてるから、と言っていたが、何をどうやってそうなるのかラースには想像もつかない。
普通は着替えている間は外に出すものだと思うのだが、長く寝室を共にしていると慣れて面倒になって今はこの形になっていた。
「ラース、着替え終わった?」
「おお」
返事を聞いてから珠美が振り返り、またぐるりと頭を元に戻した。
「終わってないじゃん!」
「いや、上くらいいいだろ」
下はきちんと履いている。
毛皮のベストを羽織りながら返せば、「よくない! 今度こそ終わった?」とやや怒った声が問うた。
「ちゃんと着たって。さあ朝飯を食べに行くか」
前はこれくらい珠美も気にしなかったような気がするのに。
いや、そんなことはなかったか?
自問自答しながらもラースは、二人の間にあるものが確実に形を変えていることを感じていた。
その果てがどこに続いているのか。
知っている気がするが、どこかで知りたくないとも思っていた。
・・・◆・・・◇・・・◆・・・
それから二週間後、珠美とラースは再び旅立った。
ダーナシアへ国交を開きに向かったのだ。
サンジェストよりも遠かったが、グラウス国王の紹介状のおかげもあってか、話はすんなりと済んだ。
ゴムとその加工品、他にもダーナシアにしかない果物などの取引が開始されることになり、珠美は役目を終えて帰路についた。
その旅の間、相変わらずラースは虎の姿で珠美と共に寝ることになった。
一人にするのは危険だったから、やむなくだ。
長いふわふわの髪をいつまでも弄びながら、長い夜を過ごした。
さらりと髪を流せば現れる白い首筋から目を逸らし、大きなため息をつき、そうして布団を口元までかけてやり、その上から抱きしめるように眠る。
慣れとは恐ろしいもので、気づけばラースはぐっすりと深く眠れるようになっていた。
珠美がもふもふがないと眠れないと言った気持ちが今はよくわかった。
珠美の温もりを抱えていると、とても眠くなる。
胸の中で小さく息づく命が愛しくてたまらなかった。
その反面、いずれそれがこの手の中から旅立ってしまうのだと思うと、居ても立ってもいられなくなった。
別れの時は思わぬ早さでやって来た。
旅から帰り、ギルドとの話し合いがうまく成立し、これから、という時だった。
「やあ、タマミ。これまでありがとう。緊急事態だ、今すぐに日本に帰るといいよ」
そう言って現れたのは、クライアだった。
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