上 下
28 / 61
第三章 魔王と人々

3.協力者

しおりを挟む
「いやタマちゃんって急に何。近所のおばあちゃんに呼ばれてる猫みたいなのでタマミでよろしくお願いします」

 珠美のゼノンへ向けたそんな言葉ではセレシアの意識を逸らすことはできなかった。

「ゼノン、お久しぶりですわね。あなた、今とても失礼なことを仰らなかった?」

 眉を顰めたセレシアに、ゼノンは「うん?」と視線を向けた。

「おー、セレシア嬢。いつぶりかな。相変わらず主張が激しいね」

 すたすたと執務室に入ってきたゼノンは、ソファに「よーこらしょっと」と腰を下ろすと、ふうと息を吐いた。
 カゴに乗る時もそうだったが、まるでおじいちゃんだ。

「タマ様。何か健康に不安でも抱えていらっしゃるの?」

 心配そうに眉を寄せたセレシアに、何と応えるべきか迷った。
 しかしその間にゼノンがのんびりと口を開いた。

「いやあ、この間クルーエルでけっこう緻密な魔法使ったでしょ。寿命縮んでんじゃないかなーって思って」

 セレシアの眉間の溝が一層深まった。

「あれ? かと思ったら、なんか成長してんねー。ああそっかそっか、何年分か体が戻ったんだねー。戻れるのは嬉しいだろうけど代わりに寿命縮むんだから嬉しくないような、複雑だねー」

 あははと笑ったゼノンに、セレシアがゆらりと背後に立った。

「ゼノン……? それはどういうことですの? 魔法を使うと寿命が縮む、ですって?」

 あっ! と思ったときにはゼノンはあっさりと答えていた。

「ああ、うん。そう」

 思わず珠美は額を抑えた。
 セレシアは確認するように、小さく訊ねた。

「それはタマ様のことだけではなく、クライア様も同じ……ということですわね?」

「そうだよー。だから日本に行ったんだろうね。自分がいつ死ぬかわかんないから」

 珠美の気遣いを返してほしい。
 全部無駄になった。

 おろおろとセレシアを見れば、愕然としたように俯いている。

「セ、セレ……」

 声をかけようとして、珠美は声を引っ込めた。
 セレシアは泣いていた。
 ほろりほろりと、大粒の涙が床に零れ落ちていく。

「少しだけ……そんな気はしていました。前代の魔王様もお若いうちに亡くなられましたし……。ただ、魔法を使っているせいだとは、思いも……。悔しいのです。知らずにクライア様に、魔法で頼りきって……」

 珠美は静かにほとほとと涙を流すセレシアにそっと声をかけた。

「セレシア。私は、魔法に頼らなくてもいい国にしたいと思っているの。だから、セレシアも協力してくれない? まだどうしたらいいかわからないことだらけなの」

 そっと、そう訊ねればセレシアが涙に濡れた瞳を向けた。

「私に……できることがあるかしら」

 ぐすりとしゃくりあげながらもしっかりと珠美を見たセレシアに、ほっとして肩を下げた。

「私もまだ何ができるかわからない。初めてのことだから、手探りなの」

 そう笑うと、セレシアも小さく笑って、頷いてくれた。

「私も協力いたしますわ。そうですわね。過ぎたことを嘆くよりも、帰ってきたクライア様の力になれるよう尽力すべきですわね。タマ様、よろしくお願いいたしますわ!」
しおりを挟む
script?guid=on
感想 4

あなたにおすすめの小説

空からトラブルが落ちてきた

ゆめ
ファンタジー
森の奥深くにある小さな村の領主は自分の人生に満足していた。 だが穏やかな日々は突然終わりを告げる。 静かな朝に空から落ちてきた『それ』によって。 どう扱ってよいか分からないので甘やかしたら懐かれた挙句、助けたお礼に国をくれるとか言い出した。 いやいらないんだが……言ってみたけど無視された挙句嫁も用意された吸血鬼の苦労話。 ※他サイトでも掲載中。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

追放されて老女になった男爵令嬢は、呪われて子どもになったイケメン魔術師と暮らしはじめました~ちょっと噛み合わないふたりが、家族になるまで~

石河 翠
ファンタジー
婚約者のいる男性に手を出したとして、娼館送りにされた男爵令嬢リリス。実際のところそれは冤罪で、結婚相手を探していたリリスは不誠実な男性の火遊びに利用されていただけだった。 馬車が襲撃を受けた際に逃げ出したリリスだが、気がつけば老婆の姿に変化していた。リリスは逃げ出した先で出会った同じく訳ありの美少年ダミアンの世話役として雇われることになり……。 人生を諦めていて早くおばあさんになって静かに暮らしたいと思っていた少女と、ひとの気持ちがわからないがゆえに勉強のために子どもの姿にされていた天才魔術師とが家族になるまで。ハッピーエンドです。 この作品は、エブリスタ及び小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりアディさんの作品をお借りしております。

地縛霊おじさんは今日も安らかに眠れない

naimaze
ファンタジー
廃ビルで命を落として地縛霊になってしまったおじさんが、その死に立ち会ってしまった女子高生や仲間たちと送る、たまに笑えて、ちょっと切ない、奇妙な日常の物語。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...