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第二章 ここは魔王城いいところ
8.珠美の仕事
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もし魔王が短命だとするならば、思い当たる原因は魔力量が多いことか、もしくは魔法の使い過ぎによるものだ。
初代だけだったのならば、慣れない環境によるストレスと考えることもできた。
しかし代々に渡ってということは、共通する原因があるはずだ。
初代の体が弱く、その遺伝とも考えられなくはないと思ったが、それが四代までずっと続くとは考えにくい。
親子だって、兄弟だって、体質が同じとは限らない。
そう話すと、ラースも黙って考え込んだ。
珠美は小さなため息を一つ吐いた。
「魔王を継がなかった血縁者がいるなら、その人は魔法を使ってたか、寿命はどうだったのか、とかがわかれば原因は絞り込めると思うけど。モルランならその辺りの事知ってるかな」
「タマの命に係わることだ。依頼を受ける前にモルランに確認した方がいい」
ラースの目も真剣だった。
そして珠美を気遣うような色があった。
それをありがたいと思いながらも、まだわからないうちから心配をかけたくなくて、深刻にしたくなくて、珠美はあえてさっぱりと頷いて見せた。
「うん。そうする」
元々クライアがやっていたそのままに仕事を受けるつもりはなかった。
無駄が多いし、魔王一人に依存しすぎている。
もっと国民たちで回していけるようにしなければならないと思っていた。
だがもし魔王の寿命が短いとしたら、珠美一人の仕事のやり方という話には留まらない。
クライアの年齢は聞いていないが、四代目は魔王を継いで数年で亡くなっている。クライアが子を成す前に亡くなれば魔王を継げる者はいなくなるのだ。
その懸念はこの後もずっと続く。そんな自転車操業のような状態では、いつかこの国はたちいかなくなってしまう。
根本的に見直さなければならないときに来ているのだと思う。
だからクライアは、手っ取り早く日本に次の魔王を探しに行き、永久就職と書いてもう一つの求人を出したのではないだろうか。
だが一生を異世界で過ごしてもいいなどと言う人を探し出すのには時間がかかるから、ひとまずそれを探す間の代理として珠美を寄こした。
そう考えれば、様々なことが合点がいく。
魔法は便利だ。
猫耳の獣人の怪我を治せたときはほっとしたし、その力を純粋にすごいと思った。
だが何事にも代償というものがある。
走れば疲れるのと同じように、何らかのエネルギーは消費しているはずで。
強力な魔法は、体力を削るのではないかと思った。
珠美が続き部屋に控えていたユラとソラにモルランへの伝言を頼むと、すぐに来てくれた。
しかし話を聞くと、力なく首を振られてしまった。
「申し訳ありません。私も先代のときにこの城へ来た新参なものですから、あまり詳しくはないのです。この城にはあまり記録というものは残っておりませんで。私が把握している限りは、その代々の魔王様の日記くらいのものなのです」
モルランが新参者とは意外だった。
この城のことなら何でも知っていると勝手に思っていた。
しかし。
記録がない。その言葉に珠美は嫌な予感がした。
それはこの国の管理に関する記録も、ということだろうか。魔王の血筋に関しては、ということだろうか。
残念ながら珠美には前者に聞こえた。
後でそちらも問い詰めねばならない。
「そう。誰か当時を知る人はいない?」
「宰相が初代魔王様の頃からこの城にいるらしいと聞いたことはあります」
宰相なんていたのかと、珠美は驚く。
クライアが一人で何もかも担っていたのかと思っていた。
魔王としてこの城に来たのに、この国を動かしていそうな人にはまだ誰にも会っていないからだ。
モルランはクライアの世話係だというし、侍女や厨房の人たちなど、使用人にしか会っていない。
「話を聞きたいんだけど、時間を作れないか聞いてもらえないかな」
「ええ、構いませんが。城の者にも伝えておきますが、捕まえるのには少々お時間をいただくかもしれません」
それは忙しすぎて、ということだろうか。
何だか嫌な予感しかしない。
この国には緩さしか感じないのだ。
良くも悪くも、だが。
どうやって一つの国を管理しているのだろう。
珠美はそれが果てしなく疑問だった。
今考えても仕方がないことは切り替え、珠美はもう一つ聞くべきことを思い出した。
「ありがとう。ところでモルラン、魔王に護衛っているの?」
「おりませんが?」
だよな、と思う。
だってこの国では魔王が最強なのだから。
でも珠美は戦ったことなどない。身を護る術も知らない。いくら高い魔力を持っていることでポテンシャルが高くても、それを自在に操る経験値がなければ戦いでは不利だ。
ラースと戦っても確実に負けるだろうことは、森での猫獣人とのやり取りを見ていてもわかる。
あの猫獣人のボスだという男の動きにも気付いていなかったし、間違いなく最強ではない。狙われたら簡単に死んでしまうだろう。
「それなら、ラース。護衛の契約を一年間に延長することって可能かな。休みとか、そういうのは適宜相談に応じるから」
おずおずとそう問えば、ラースは、ははっと笑って頷いた。
「一年でも二年でもかまわんし、休みも特にいらん。俺もこのままタマを置いていくのは不安だと思っていたところだ」
ラースの大きな掌が、珠美の頭をぐりぐりとやや乱暴に撫でる。
痛いよ、と文句を言いながらも、一人でなんとかしなければならないかもと気負っていた珠美はほっとしていた。
護衛として心強いのは確かだが、珠美にとってこの異世界で今最も相談し、頼れるのはラースだ。
しばらくこの大きな手は手放せそうにない。
ラースもどこか嬉しそうに見えるのは、長期の仕事が入ったからだろうか。
しかし申し訳ないことに、珠美はまだこれまでの護衛の分も未払いだった。
「それじゃあ、モルラン。ひとまずラースにここまで護衛してもらった分を支払いたいから、私がいつどれくらいのお給料をもらえるか、目安だけでも教えて。契約更新する前に、これからのラースのお給料も決めておかないといけないし」
「はい? タマ様のお給料というのは?」
何を言っているのかわからない、というようなモルランの態度に、嫌な予感が返ってきた。
「いや、だから、魔王のお給料。だって、ミッドガルド経由とか、クルーエルからとか、依頼だって受けてるよね。国の仕事だからその報酬は個別にもらってるわけじゃないかもしれないけど、税金とかそういうのは収めてもらってるんだよね? そこからの私の取り分というか、歩合制なのか給料制なのかわからないけど、なんかあるでしょ?」
「はあ、国のお金でしたら好きなように使っていただいてかまいませんが? 国のものは魔王様のものですから」
ちょっと待て。
なんだその丸投げな回答は。
国庫を魔王一人が管理しろというのか。
さらに嫌な予感がする。
「依頼を受けたときの報酬か、税金は決まってるよね」
「まあ、お礼に特産物などが届いたりしますねえ」
「無報酬でやってるの!? ボランティア!??」
「そうですねえ、特段取り決めなどはありません」
何か? というように不安そうにこちらを見ているモルランに、珠美は頭を抱えたくなった。
そしてはっと思い出す。
そう言えば、クライアの出した張り紙には『求人』と書いてあるだけで『バイト』とは書いていなかった。
時給も書いていなかった。
魔王の仕事に、いやこの城にそもそもそういう概念がないのだ。
書き漏れたのではない。
ただの『求む、人材』だったのだ。
「マジか……」
珠美は途方に暮れた。
そんなザルな管理で国ってやっていけるのだろうか。
いや、今までやってきたのだから問題ないのかもしれない。
本当に? 本当に問題ない?
珠美も社会人になる手前だったし、国なんて経営したこともないからどうすべきかなんて知らない。
けれど一つの会社として捉えれば、正常に運営されているとは言い難かった。
なんとなくで作物が納められるだけだとしたら、それでこの城を切り盛りしていくのすら難しいのではないだろうか。
例えば、どこからもキャベツと米しか収められなかったらそれしか食べられないではないか!
「やだ……。お肉も食べたい。魚も食べたい。たまにはパンだって食べたい!」
思わず呻くように呟けば、モルランがいそいそと立ち上がった。
「おや、お腹が空かれましたかな? 厨房に作らせてまいりましょう」
「そうじゃない! そうじゃないの!」
珠美はがっくりとテーブルに手をつき項垂れた。
そんな珠美の肩に、ぽん、と大きな手が置かれた。
「まあ気を落とすな、珠美。俺のことは気にしなくていい。珠美が気にするから報酬はもらうと言ったが、そもそもこれまでだって食って寝るために働いてただけだからな。それ以上の物は求めてない。珠美の分はこれから取り決めを作ってけばいいだろ?」
確かに珠美の護衛をしていれば、衣食住は保証されるだろう。
それでいいのかと悩み、珠美はふと気が付いた。
「ねえ。もしかして、モルランや、お城で働いてる人たちは……? お給料、もらってるよね?」
「ええ、食べさせていただいてますし、お部屋をいただいています。必要な衣服などは国のお金から買わせていただいていますよ」
やっぱりか!
珠美は胸中で叫び、項垂れた。
「それじゃ好きな物が買えないじゃない。たまの贅沢ができないじゃない。そんなんじゃ、働き甲斐がないじゃない!」
「そうでしょうか? 私は特に不自由は感じておりませんが」
モルランは相変わらずにこにことしている。
本心から言っているようだ。
それはラースも同じだとわかる。
この国は。
魔王一人が安全と仕事を一人で請け負うことによって成り立っているがゆえに、人々はどこかのんびりとしているのかもしれない。
あくせくと働かなくとも、衣食住には困らないから。
何か困っても魔王がなんとかしてくれるから。
のんびりと暮らせるのは幸せなことだと思う。
だがそれはいつ崩れるかわからない、魔王一人の寿命の上に成り立っているのだ。
これではいけない。
根本から変えていかなくては。
珠美の中にはこれまでにない闘志が宿っていた。
寿命のためにも、この国の人たちのためにも、極力魔法は使わない。
それでも維持していけるような国にする。
それが珠美の仕事だと、思い定めた。
初代だけだったのならば、慣れない環境によるストレスと考えることもできた。
しかし代々に渡ってということは、共通する原因があるはずだ。
初代の体が弱く、その遺伝とも考えられなくはないと思ったが、それが四代までずっと続くとは考えにくい。
親子だって、兄弟だって、体質が同じとは限らない。
そう話すと、ラースも黙って考え込んだ。
珠美は小さなため息を一つ吐いた。
「魔王を継がなかった血縁者がいるなら、その人は魔法を使ってたか、寿命はどうだったのか、とかがわかれば原因は絞り込めると思うけど。モルランならその辺りの事知ってるかな」
「タマの命に係わることだ。依頼を受ける前にモルランに確認した方がいい」
ラースの目も真剣だった。
そして珠美を気遣うような色があった。
それをありがたいと思いながらも、まだわからないうちから心配をかけたくなくて、深刻にしたくなくて、珠美はあえてさっぱりと頷いて見せた。
「うん。そうする」
元々クライアがやっていたそのままに仕事を受けるつもりはなかった。
無駄が多いし、魔王一人に依存しすぎている。
もっと国民たちで回していけるようにしなければならないと思っていた。
だがもし魔王の寿命が短いとしたら、珠美一人の仕事のやり方という話には留まらない。
クライアの年齢は聞いていないが、四代目は魔王を継いで数年で亡くなっている。クライアが子を成す前に亡くなれば魔王を継げる者はいなくなるのだ。
その懸念はこの後もずっと続く。そんな自転車操業のような状態では、いつかこの国はたちいかなくなってしまう。
根本的に見直さなければならないときに来ているのだと思う。
だからクライアは、手っ取り早く日本に次の魔王を探しに行き、永久就職と書いてもう一つの求人を出したのではないだろうか。
だが一生を異世界で過ごしてもいいなどと言う人を探し出すのには時間がかかるから、ひとまずそれを探す間の代理として珠美を寄こした。
そう考えれば、様々なことが合点がいく。
魔法は便利だ。
猫耳の獣人の怪我を治せたときはほっとしたし、その力を純粋にすごいと思った。
だが何事にも代償というものがある。
走れば疲れるのと同じように、何らかのエネルギーは消費しているはずで。
強力な魔法は、体力を削るのではないかと思った。
珠美が続き部屋に控えていたユラとソラにモルランへの伝言を頼むと、すぐに来てくれた。
しかし話を聞くと、力なく首を振られてしまった。
「申し訳ありません。私も先代のときにこの城へ来た新参なものですから、あまり詳しくはないのです。この城にはあまり記録というものは残っておりませんで。私が把握している限りは、その代々の魔王様の日記くらいのものなのです」
モルランが新参者とは意外だった。
この城のことなら何でも知っていると勝手に思っていた。
しかし。
記録がない。その言葉に珠美は嫌な予感がした。
それはこの国の管理に関する記録も、ということだろうか。魔王の血筋に関しては、ということだろうか。
残念ながら珠美には前者に聞こえた。
後でそちらも問い詰めねばならない。
「そう。誰か当時を知る人はいない?」
「宰相が初代魔王様の頃からこの城にいるらしいと聞いたことはあります」
宰相なんていたのかと、珠美は驚く。
クライアが一人で何もかも担っていたのかと思っていた。
魔王としてこの城に来たのに、この国を動かしていそうな人にはまだ誰にも会っていないからだ。
モルランはクライアの世話係だというし、侍女や厨房の人たちなど、使用人にしか会っていない。
「話を聞きたいんだけど、時間を作れないか聞いてもらえないかな」
「ええ、構いませんが。城の者にも伝えておきますが、捕まえるのには少々お時間をいただくかもしれません」
それは忙しすぎて、ということだろうか。
何だか嫌な予感しかしない。
この国には緩さしか感じないのだ。
良くも悪くも、だが。
どうやって一つの国を管理しているのだろう。
珠美はそれが果てしなく疑問だった。
今考えても仕方がないことは切り替え、珠美はもう一つ聞くべきことを思い出した。
「ありがとう。ところでモルラン、魔王に護衛っているの?」
「おりませんが?」
だよな、と思う。
だってこの国では魔王が最強なのだから。
でも珠美は戦ったことなどない。身を護る術も知らない。いくら高い魔力を持っていることでポテンシャルが高くても、それを自在に操る経験値がなければ戦いでは不利だ。
ラースと戦っても確実に負けるだろうことは、森での猫獣人とのやり取りを見ていてもわかる。
あの猫獣人のボスだという男の動きにも気付いていなかったし、間違いなく最強ではない。狙われたら簡単に死んでしまうだろう。
「それなら、ラース。護衛の契約を一年間に延長することって可能かな。休みとか、そういうのは適宜相談に応じるから」
おずおずとそう問えば、ラースは、ははっと笑って頷いた。
「一年でも二年でもかまわんし、休みも特にいらん。俺もこのままタマを置いていくのは不安だと思っていたところだ」
ラースの大きな掌が、珠美の頭をぐりぐりとやや乱暴に撫でる。
痛いよ、と文句を言いながらも、一人でなんとかしなければならないかもと気負っていた珠美はほっとしていた。
護衛として心強いのは確かだが、珠美にとってこの異世界で今最も相談し、頼れるのはラースだ。
しばらくこの大きな手は手放せそうにない。
ラースもどこか嬉しそうに見えるのは、長期の仕事が入ったからだろうか。
しかし申し訳ないことに、珠美はまだこれまでの護衛の分も未払いだった。
「それじゃあ、モルラン。ひとまずラースにここまで護衛してもらった分を支払いたいから、私がいつどれくらいのお給料をもらえるか、目安だけでも教えて。契約更新する前に、これからのラースのお給料も決めておかないといけないし」
「はい? タマ様のお給料というのは?」
何を言っているのかわからない、というようなモルランの態度に、嫌な予感が返ってきた。
「いや、だから、魔王のお給料。だって、ミッドガルド経由とか、クルーエルからとか、依頼だって受けてるよね。国の仕事だからその報酬は個別にもらってるわけじゃないかもしれないけど、税金とかそういうのは収めてもらってるんだよね? そこからの私の取り分というか、歩合制なのか給料制なのかわからないけど、なんかあるでしょ?」
「はあ、国のお金でしたら好きなように使っていただいてかまいませんが? 国のものは魔王様のものですから」
ちょっと待て。
なんだその丸投げな回答は。
国庫を魔王一人が管理しろというのか。
さらに嫌な予感がする。
「依頼を受けたときの報酬か、税金は決まってるよね」
「まあ、お礼に特産物などが届いたりしますねえ」
「無報酬でやってるの!? ボランティア!??」
「そうですねえ、特段取り決めなどはありません」
何か? というように不安そうにこちらを見ているモルランに、珠美は頭を抱えたくなった。
そしてはっと思い出す。
そう言えば、クライアの出した張り紙には『求人』と書いてあるだけで『バイト』とは書いていなかった。
時給も書いていなかった。
魔王の仕事に、いやこの城にそもそもそういう概念がないのだ。
書き漏れたのではない。
ただの『求む、人材』だったのだ。
「マジか……」
珠美は途方に暮れた。
そんなザルな管理で国ってやっていけるのだろうか。
いや、今までやってきたのだから問題ないのかもしれない。
本当に? 本当に問題ない?
珠美も社会人になる手前だったし、国なんて経営したこともないからどうすべきかなんて知らない。
けれど一つの会社として捉えれば、正常に運営されているとは言い難かった。
なんとなくで作物が納められるだけだとしたら、それでこの城を切り盛りしていくのすら難しいのではないだろうか。
例えば、どこからもキャベツと米しか収められなかったらそれしか食べられないではないか!
「やだ……。お肉も食べたい。魚も食べたい。たまにはパンだって食べたい!」
思わず呻くように呟けば、モルランがいそいそと立ち上がった。
「おや、お腹が空かれましたかな? 厨房に作らせてまいりましょう」
「そうじゃない! そうじゃないの!」
珠美はがっくりとテーブルに手をつき項垂れた。
そんな珠美の肩に、ぽん、と大きな手が置かれた。
「まあ気を落とすな、珠美。俺のことは気にしなくていい。珠美が気にするから報酬はもらうと言ったが、そもそもこれまでだって食って寝るために働いてただけだからな。それ以上の物は求めてない。珠美の分はこれから取り決めを作ってけばいいだろ?」
確かに珠美の護衛をしていれば、衣食住は保証されるだろう。
それでいいのかと悩み、珠美はふと気が付いた。
「ねえ。もしかして、モルランや、お城で働いてる人たちは……? お給料、もらってるよね?」
「ええ、食べさせていただいてますし、お部屋をいただいています。必要な衣服などは国のお金から買わせていただいていますよ」
やっぱりか!
珠美は胸中で叫び、項垂れた。
「それじゃ好きな物が買えないじゃない。たまの贅沢ができないじゃない。そんなんじゃ、働き甲斐がないじゃない!」
「そうでしょうか? 私は特に不自由は感じておりませんが」
モルランは相変わらずにこにことしている。
本心から言っているようだ。
それはラースも同じだとわかる。
この国は。
魔王一人が安全と仕事を一人で請け負うことによって成り立っているがゆえに、人々はどこかのんびりとしているのかもしれない。
あくせくと働かなくとも、衣食住には困らないから。
何か困っても魔王がなんとかしてくれるから。
のんびりと暮らせるのは幸せなことだと思う。
だがそれはいつ崩れるかわからない、魔王一人の寿命の上に成り立っているのだ。
これではいけない。
根本から変えていかなくては。
珠美の中にはこれまでにない闘志が宿っていた。
寿命のためにも、この国の人たちのためにも、極力魔法は使わない。
それでも維持していけるような国にする。
それが珠美の仕事だと、思い定めた。
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