13 / 61
第二章 ここは魔王城いいところ
2.視察と言う名の誘拐
しおりを挟む
もう悲鳴など上げてやるものか。
それではミッドガルドが喜ぶだけだ。というか、ミッドガルド本人すら知らなかった変なドアを開けてしまったような気がしてならない。
ミッドガルドは珠美の心中などお構いなしで、ご機嫌で滑空していた。
なんのはずみで手を離されてしまうかもわからないから、がっしりと掴まるのだけはやめない。
「お、見えてきたぞ。な? 空を飛べば早いんだって。だからぱぱっと用事を済ませてぱぱっと戻れば夕飯を食い損ねることもない。何事も悩んでる時間は無駄なんだよ」
一理あるかもしれないが、このミッドガルドという男に言われると腹が立つ。
しかも珠美は事前に計画と準備をしっかりしてから実行に移す性質だから、なおさらだ。
どこに下りるつもりなのかとそろりと眼下を見下ろせば、城を取り巻く森はあっという間に越えていて、小さな町を一つすぎ、広大な農地が見えてきたところだった。近くには村と思われる集落もある。
ミッドガルドがゆっくりと畑の真ん中に着地したのを見計らって、珠美はその腕からぴょいっと飛び降りた。
いつまでもこの男の腕の中にいるのは癪だった。
「そんなに焦らんでも、今下ろしてやるのに」
はははと快活に笑うミッドガルドにまた腹を立てながらも、周囲の作物の様子を覗う。
葉が少々しおれぎみではあったが、まだ枯れている様子はない。
空気を吸い込めば、土の匂いと一緒に雨が降る前特有の匂いが混じっていた。
「ねえ。もうすぐ雨が降るんじゃない? 私が今雨を降らせる必要もないと思うけど」
「そんなことは俺は知らねえよ。今回の俺の仕事は魔王サマに雨を降らせてもらうことだからな。さあ、雨を降らせてくれ。今すぐに」
まるで柔軟さがない。
ただ命令を遂行するだけならロボットの方が優秀だ。
せっかく自分で考えられる頭があるのだから、効率とか優先順位とか必要性とか考えればいいのに。
それとも、そんな判断はおまえの仕事ではないとでも雇い主に言われているのだろうか。
「誰がミッドガルドに依頼したの」
顔を顰めて問えば、ミッドガルドはなんということもない顔で答えた。
「この村の村長だよ。俺はこの辺りの村や町からの依頼を魔王の元に伝えに行く、いわば連絡係なんだよ。早くこの仕事を終わらせて、次の町に行かないと」
「え。魔王が来るまでずっと城で待ってたの?」
「そうだよ。だってそれが俺の仕事だからな」
「でも次の町でも依頼があるかもしれないんでしょ? どうせ魔王がいないとわかってるなら、先に用聞きに行っておいて、まとめて依頼すればよかったのに」
とんでもなく非効率的だ。
一つずつ順にしか処理できず、待機時間を考慮しないようなプログラムでは負荷が高くなりすぎる。
ちゃんとケースに応じて処理分けしておくべきだ。
「だって俺が城を離れてる間に魔王サマが帰ってくるかもしれなかっただろ?」
その心情はわかる。だがそもそも何故対面で伝えないといけないシステムなのか。
手紙でもいいではないか。
珠美は頭を抱えたくなった。
ミッドガルドだけがこうなのだろうか。
いや。城で誰もミッドガルドに言ってやらなかったことを考えると、全体的にこういうシステムなのだろう。
とんでもなく非効率的で、無駄ばかりに感じてしまう。
そもそも、作物に水を撒くのが魔王の仕事というのも解せない。
それほど枯れかかっているとかひっ迫した様子もないのに今すぐに水を撒く必要性はどこにあるのだろうか。
「ねえ。ミッドガルドに依頼した村長さんのところに連れていってくれる?」
ミッドガルドでは話にならなそうだ。
「まあそれはいいけど。早く仕事終わらせて早く戻らなくていいのか?」
「私、無駄なことはしたくないの」
日頃から無駄な反復だとか無駄な処理を省いて美しいプログラムを書くのを心がけているせいもあり、無駄が許せないのだ。
「ふーん。じゃあ、ちょいっと移動する」
だったらなおさら、さっさと雨を降らせてしまえばいいのにと思ったのだろう。
理解できないと顔に書いたまま、それでもミッドガルドは従ってくれた。
だが。
再び珠美は掴み上げられ、必死で悲鳴を噛み殺した。
「……!」
悲鳴など上げて、二度とミッドガルドを喜ばせたくはない。
ぐっと歯を食いしばった珠美を見て、ミッドガルドはにやりと口の端を笑ませた。
能面のような顔を貫けなかった悔しさに頬を染めた珠美に何も言わず、ミッドガルドは低空でゆっくりと羽ばたき、農地を抜け村落へと向かう。
昨日泊まった村と似ている。みんな木造りの簡素な家だ。
村の奥へと辿り着くと、ばさりと羽を仕舞い足を着いた。
珠美は再び腕から飛び降りようとしたが、その前にミッドガルドがそっと下ろしてくれた。
悪い奴ではないらしい。
「……ありがとう」
小さく告げると、ミッドガルドは二ッと笑って見せた。
歯を見せた、害意のない笑みだ。
こういうところがあるから憎めない。
「村長の家はこの先」
すたすたと歩くミッドガルドに小走りについていけば、躊躇うことなく木のドアをコンコンとノックした。
「ミッドガルドだ。入るぞー」
答えを待たずに乱暴に扉を開けると、木の椅子に深く腰掛けた老人の姿があった。
「なんだ、やっと来たのか。随分遅かったじゃないか」
茶色と白の豊かな口ひげをたくわえた老人は、垂れ下がった眉に隠れそうな目をちらりとこちらに向けた。
「む……? そちらは、魔王様では?」
この世界は角さえ生やしていれば魔王と認識されるらしい。
説明の手間が省けて便利だが、時にはすぐにバレることが不便だ。
「はい。一年ほどクライアの代理を務めることになりました、珠美です。タマでもタマミでもお好きにお呼びください」
ヤマモト様と呼ばれるのが一番シュールで嫌だったから、タマかタマミで手を打つことにした。
「これはこれは。わざわざこのような狭いところへお出でいただき恐縮です。タマ様、今後ともよろしくお願いいたします。――して、本日はどのようなご用件で? クライア様ならさっとご依頼を片付けたら去ってしまわれるので面会を望まれたこともないのですが」
「突然で申し訳ありません。実は今回の依頼をお受けする前に色々とお聞きしたいことがありまして」
「ほお。どのような?」
「先程対象の作物を拝見させていただきましたが、少し元気がない程度のように見受けられました。雨が降らずとも耐えられるのは何日くらいのことですか?」
「さあ……。そのようなことは存じませんが」
珠美は目を見開いた。
知らないとはどういうことなのか。
彼らがこの地で作物を作っているのではないのだろうか。他に小作人がいるから把握していない?
村長は引退して最近農作業をしていないから、覚えていないとか?
いやいや、どちらにしろ村民の意見を取りまとめて依頼するのだろうから、知識として把握しているものではないのだろうか。
「じゃあ、どういった基準で依頼を?」
村長は、ふむ、と口ひげをなでさすり、なんでもないことのように答えた。
「最近雨が降らないなとか、作物に元気がないように見えましたらお願いするようにしております」
「――そんな適当な。じゃあ、普段から水撒きをするようなことは……?」
「そんな非効率なことはいたしませんよ。これだけ広大な農地なのですから、ひしゃくで水を撒いていては人手がどれだけあっても足りません」
一笑に付した村長に、珠美は唖然とした。
まさか『非効率』と返されるとは思ってもいなかったのだ。
ひしゃくということは、バケツに汲んだ水を手ずから撒くという方法を言ってるのだろうから、それは確かに非効率ではある。
だがそもそも、これだけ農地が広大なのに、他に便利な道具や機械はないのはどういうことか。
「それは農地が人手にあった大きさではないということではないのですか? 管理しきれないのなら、人を雇うとか、農地を縮小するとか、新たな道具を導入するとか」
「何故それをする必要があります? 魔王様が水を撒いてくださったらそれまでですのに」
言っていることはわかる。
だがとてももやもやする。
「魔王がいなかったらどうするつもりなんですか?」
「たくさんの農作物を収穫できることはこの国の人々が飢えずに済むということです。この国を守るのは魔王様のお仕事でしょう」
逆に何故仕事をしようとしないのかと疑問の目を向けられ、珠美は一気にカッチーンときた。
「じゃああなた方の仕事は何なんです? あなた方は作物を育て、収穫するという仕事をしているのではないのですか? 自分たちでできもしないことを仕事と呼べますか? ただ見守るだけがあなたがたの役目なのですか」
全てを自分たちで担う必要はないとは思う。
協力を仰ぐことがあったっていい。
便利なものは使えばいい。
なんとなくと言っても、それがこれまでの経験に裏打ちされたものであるなら話は別だ。珠美だって枯れる前に作物と村の人々の暮らしを守りたいとは思う。
だがこの村の実態はそうではない。
さつまいものように水はけをこのむ作物だってある。
逆に毎日のように水撒きをしなければならない作物だってあるだろう。
それを知りもしないで、何となくで絶対的な力に頼る。
そして不作であれば魔王のせいとでもいうつもりなのだろうか。
万が一魔王の手が届かない場合に打てる手立ても用意していない。
できることもやるべきこともしていない、単に魔王におんぶに抱っこで甘えているだけ。
これでは極論、全ての生産活動は魔王一人がやるべきという話になりかねない。
「何か気を悪くされてしまったのなら申し訳ない。これまで魔王様はそんなことは仰らずにお願いすればすぐに雨を降らせてくださいましたので、そのようなことは考えたこともありませんでした。ですからタマ様が一体何を仰りたいのか、私には少々わかりかねるのです」
村長に悪気はないのはわかっている。
だが、だからこそ。
この国全体が同じような考えなのではないかと思えてしまって、ぞっとした。
この国は、魔王に頼り過ぎて自らの力で生活する力を失くしているのではないか。
珠美が何も言えず固まったままでいると、外でザアッと雨が地表を打つ音が聞こえた。
「おお、早速雨を降らせてくださったのですな。ありがとうございます、助かりました」
村長は椅子から立ち上がり、珠美に深々と頭を下げた。
珠美は否定する気力もないまま、村長の家を後にした。
それではミッドガルドが喜ぶだけだ。というか、ミッドガルド本人すら知らなかった変なドアを開けてしまったような気がしてならない。
ミッドガルドは珠美の心中などお構いなしで、ご機嫌で滑空していた。
なんのはずみで手を離されてしまうかもわからないから、がっしりと掴まるのだけはやめない。
「お、見えてきたぞ。な? 空を飛べば早いんだって。だからぱぱっと用事を済ませてぱぱっと戻れば夕飯を食い損ねることもない。何事も悩んでる時間は無駄なんだよ」
一理あるかもしれないが、このミッドガルドという男に言われると腹が立つ。
しかも珠美は事前に計画と準備をしっかりしてから実行に移す性質だから、なおさらだ。
どこに下りるつもりなのかとそろりと眼下を見下ろせば、城を取り巻く森はあっという間に越えていて、小さな町を一つすぎ、広大な農地が見えてきたところだった。近くには村と思われる集落もある。
ミッドガルドがゆっくりと畑の真ん中に着地したのを見計らって、珠美はその腕からぴょいっと飛び降りた。
いつまでもこの男の腕の中にいるのは癪だった。
「そんなに焦らんでも、今下ろしてやるのに」
はははと快活に笑うミッドガルドにまた腹を立てながらも、周囲の作物の様子を覗う。
葉が少々しおれぎみではあったが、まだ枯れている様子はない。
空気を吸い込めば、土の匂いと一緒に雨が降る前特有の匂いが混じっていた。
「ねえ。もうすぐ雨が降るんじゃない? 私が今雨を降らせる必要もないと思うけど」
「そんなことは俺は知らねえよ。今回の俺の仕事は魔王サマに雨を降らせてもらうことだからな。さあ、雨を降らせてくれ。今すぐに」
まるで柔軟さがない。
ただ命令を遂行するだけならロボットの方が優秀だ。
せっかく自分で考えられる頭があるのだから、効率とか優先順位とか必要性とか考えればいいのに。
それとも、そんな判断はおまえの仕事ではないとでも雇い主に言われているのだろうか。
「誰がミッドガルドに依頼したの」
顔を顰めて問えば、ミッドガルドはなんということもない顔で答えた。
「この村の村長だよ。俺はこの辺りの村や町からの依頼を魔王の元に伝えに行く、いわば連絡係なんだよ。早くこの仕事を終わらせて、次の町に行かないと」
「え。魔王が来るまでずっと城で待ってたの?」
「そうだよ。だってそれが俺の仕事だからな」
「でも次の町でも依頼があるかもしれないんでしょ? どうせ魔王がいないとわかってるなら、先に用聞きに行っておいて、まとめて依頼すればよかったのに」
とんでもなく非効率的だ。
一つずつ順にしか処理できず、待機時間を考慮しないようなプログラムでは負荷が高くなりすぎる。
ちゃんとケースに応じて処理分けしておくべきだ。
「だって俺が城を離れてる間に魔王サマが帰ってくるかもしれなかっただろ?」
その心情はわかる。だがそもそも何故対面で伝えないといけないシステムなのか。
手紙でもいいではないか。
珠美は頭を抱えたくなった。
ミッドガルドだけがこうなのだろうか。
いや。城で誰もミッドガルドに言ってやらなかったことを考えると、全体的にこういうシステムなのだろう。
とんでもなく非効率的で、無駄ばかりに感じてしまう。
そもそも、作物に水を撒くのが魔王の仕事というのも解せない。
それほど枯れかかっているとかひっ迫した様子もないのに今すぐに水を撒く必要性はどこにあるのだろうか。
「ねえ。ミッドガルドに依頼した村長さんのところに連れていってくれる?」
ミッドガルドでは話にならなそうだ。
「まあそれはいいけど。早く仕事終わらせて早く戻らなくていいのか?」
「私、無駄なことはしたくないの」
日頃から無駄な反復だとか無駄な処理を省いて美しいプログラムを書くのを心がけているせいもあり、無駄が許せないのだ。
「ふーん。じゃあ、ちょいっと移動する」
だったらなおさら、さっさと雨を降らせてしまえばいいのにと思ったのだろう。
理解できないと顔に書いたまま、それでもミッドガルドは従ってくれた。
だが。
再び珠美は掴み上げられ、必死で悲鳴を噛み殺した。
「……!」
悲鳴など上げて、二度とミッドガルドを喜ばせたくはない。
ぐっと歯を食いしばった珠美を見て、ミッドガルドはにやりと口の端を笑ませた。
能面のような顔を貫けなかった悔しさに頬を染めた珠美に何も言わず、ミッドガルドは低空でゆっくりと羽ばたき、農地を抜け村落へと向かう。
昨日泊まった村と似ている。みんな木造りの簡素な家だ。
村の奥へと辿り着くと、ばさりと羽を仕舞い足を着いた。
珠美は再び腕から飛び降りようとしたが、その前にミッドガルドがそっと下ろしてくれた。
悪い奴ではないらしい。
「……ありがとう」
小さく告げると、ミッドガルドは二ッと笑って見せた。
歯を見せた、害意のない笑みだ。
こういうところがあるから憎めない。
「村長の家はこの先」
すたすたと歩くミッドガルドに小走りについていけば、躊躇うことなく木のドアをコンコンとノックした。
「ミッドガルドだ。入るぞー」
答えを待たずに乱暴に扉を開けると、木の椅子に深く腰掛けた老人の姿があった。
「なんだ、やっと来たのか。随分遅かったじゃないか」
茶色と白の豊かな口ひげをたくわえた老人は、垂れ下がった眉に隠れそうな目をちらりとこちらに向けた。
「む……? そちらは、魔王様では?」
この世界は角さえ生やしていれば魔王と認識されるらしい。
説明の手間が省けて便利だが、時にはすぐにバレることが不便だ。
「はい。一年ほどクライアの代理を務めることになりました、珠美です。タマでもタマミでもお好きにお呼びください」
ヤマモト様と呼ばれるのが一番シュールで嫌だったから、タマかタマミで手を打つことにした。
「これはこれは。わざわざこのような狭いところへお出でいただき恐縮です。タマ様、今後ともよろしくお願いいたします。――して、本日はどのようなご用件で? クライア様ならさっとご依頼を片付けたら去ってしまわれるので面会を望まれたこともないのですが」
「突然で申し訳ありません。実は今回の依頼をお受けする前に色々とお聞きしたいことがありまして」
「ほお。どのような?」
「先程対象の作物を拝見させていただきましたが、少し元気がない程度のように見受けられました。雨が降らずとも耐えられるのは何日くらいのことですか?」
「さあ……。そのようなことは存じませんが」
珠美は目を見開いた。
知らないとはどういうことなのか。
彼らがこの地で作物を作っているのではないのだろうか。他に小作人がいるから把握していない?
村長は引退して最近農作業をしていないから、覚えていないとか?
いやいや、どちらにしろ村民の意見を取りまとめて依頼するのだろうから、知識として把握しているものではないのだろうか。
「じゃあ、どういった基準で依頼を?」
村長は、ふむ、と口ひげをなでさすり、なんでもないことのように答えた。
「最近雨が降らないなとか、作物に元気がないように見えましたらお願いするようにしております」
「――そんな適当な。じゃあ、普段から水撒きをするようなことは……?」
「そんな非効率なことはいたしませんよ。これだけ広大な農地なのですから、ひしゃくで水を撒いていては人手がどれだけあっても足りません」
一笑に付した村長に、珠美は唖然とした。
まさか『非効率』と返されるとは思ってもいなかったのだ。
ひしゃくということは、バケツに汲んだ水を手ずから撒くという方法を言ってるのだろうから、それは確かに非効率ではある。
だがそもそも、これだけ農地が広大なのに、他に便利な道具や機械はないのはどういうことか。
「それは農地が人手にあった大きさではないということではないのですか? 管理しきれないのなら、人を雇うとか、農地を縮小するとか、新たな道具を導入するとか」
「何故それをする必要があります? 魔王様が水を撒いてくださったらそれまでですのに」
言っていることはわかる。
だがとてももやもやする。
「魔王がいなかったらどうするつもりなんですか?」
「たくさんの農作物を収穫できることはこの国の人々が飢えずに済むということです。この国を守るのは魔王様のお仕事でしょう」
逆に何故仕事をしようとしないのかと疑問の目を向けられ、珠美は一気にカッチーンときた。
「じゃああなた方の仕事は何なんです? あなた方は作物を育て、収穫するという仕事をしているのではないのですか? 自分たちでできもしないことを仕事と呼べますか? ただ見守るだけがあなたがたの役目なのですか」
全てを自分たちで担う必要はないとは思う。
協力を仰ぐことがあったっていい。
便利なものは使えばいい。
なんとなくと言っても、それがこれまでの経験に裏打ちされたものであるなら話は別だ。珠美だって枯れる前に作物と村の人々の暮らしを守りたいとは思う。
だがこの村の実態はそうではない。
さつまいものように水はけをこのむ作物だってある。
逆に毎日のように水撒きをしなければならない作物だってあるだろう。
それを知りもしないで、何となくで絶対的な力に頼る。
そして不作であれば魔王のせいとでもいうつもりなのだろうか。
万が一魔王の手が届かない場合に打てる手立ても用意していない。
できることもやるべきこともしていない、単に魔王におんぶに抱っこで甘えているだけ。
これでは極論、全ての生産活動は魔王一人がやるべきという話になりかねない。
「何か気を悪くされてしまったのなら申し訳ない。これまで魔王様はそんなことは仰らずにお願いすればすぐに雨を降らせてくださいましたので、そのようなことは考えたこともありませんでした。ですからタマ様が一体何を仰りたいのか、私には少々わかりかねるのです」
村長に悪気はないのはわかっている。
だが、だからこそ。
この国全体が同じような考えなのではないかと思えてしまって、ぞっとした。
この国は、魔王に頼り過ぎて自らの力で生活する力を失くしているのではないか。
珠美が何も言えず固まったままでいると、外でザアッと雨が地表を打つ音が聞こえた。
「おお、早速雨を降らせてくださったのですな。ありがとうございます、助かりました」
村長は椅子から立ち上がり、珠美に深々と頭を下げた。
珠美は否定する気力もないまま、村長の家を後にした。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
世界樹の下で
瀬織董李
ファンタジー
神様のうっかりで死んでしまったお詫びに異世界転生した主人公。
念願だった農民生活を満喫していたある日、聖女の代わりに世界樹を救う旅に行けと言われる。
面倒臭いんで、行きたくないです。え?ダメ?……もう、しょうがないなあ……その代わり自重しないでやっちゃうよ?
あれ?もしかしてここ……乙女ゲームの世界なの?
プロット無し、設定行き当たりばったりの上に全てスマホで書いてるので、不定期更新です
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~
空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。
有するスキルは、『暴食の魔王』。
その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。
強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。
「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」
そう。
このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること!
毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる!
さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて――
「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」
コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく!
ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕!
※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。
※45話からもふもふ登場!!
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる