40 / 47
第四話・罠を仕掛けた男
Side・秋山 壮太・9
しおりを挟む
それから、一日が経った。昨日は日曜日で仕事が休みだったから、幸いゆっちゃんの傍についていることができたけど、今日は月曜日。平日は仕事だから、俺は普通に自分のクリニックに出勤した。相変わらず仕事は忙しくて、時間が経つのがあっという間だった。
仕事が終わった後、様子が気になったから、亜貴の病室に向かう事にした。
ゆっちゃんに連絡を入れたら、丁度亜貴の着替え等を取りに自宅に帰っていて、今は居なかった。
彼女から、さっき亜貴が目を覚ました、という事を聞いた。複雑な胸中になったのは、言うまでもない。
亜貴の病室の前に立って静かに扉を開けたその時、話声が聞こえた。玲子の声だ。
彼女の声で、中に入ることを戸惑ってしまった。すると個室の仕切られたカーテンの向こう側に二人の影が映っているのが見え、話をしているのが伺えた。
――やあ。来てくれたんだ?
――もう、目覚めたの。しぶとい男ね、貴方も。
――僕を誰だと思っているんだよ。簡単には死なないさ。それより玲子が、僕を助けてくれたって?
――ええ。貴方を・・・・ずっと騙していたから。本当にごめんなさい。謝ろうと思って来たの。
――いいよ。玲子は悪くない。これは、僕と壮の問題なんだ。玲子を巻き込んで、悪かったね。
――亜貴・・・・。
――由布ちゃんから聞いたけど、さっさと別れて、僕をちょうだい、って言ったんだって? 結構大胆だね。
――ええ、言ったわ。だって貴方は常に脆く壊れそうだったし・・・・大きな闇を抱えて、ひとりぼっちの猫みたいだったから、何時も心配だったの。正直、由布子みたいな普通の女には、貴方みたいなクレイジーな男、手に余るわ。それに、由布子に捨てられたりしたら、貴方、どうなるかわからないでしょう?
――壮の為だけに、由布ちゃんにそんな事を言ったんじゃないんだ。僕の心配までしてくれて、優しいね、玲子。
――由布子とは離婚するの?
――さあ。どうだろうね。
――私じゃ、貴方のお姫様の代わりには、なれないの?
――玲子は、玲子だろ。代わりになんて、なる必要ない。それよりもっと、こっちにおいで。君こそ、壮に捨てられたんだろ。
――どうしてそれを・・・・? 壮太に聞いたの?
――いいや、壮には会ってないよ。そんな事、聞かなくても解るさ。玲子が、壮の罠だったからだよ。僕に近づいて、僕を罠に嵌めて、その後、君はどうなるの? 壮が由布ちゃんを手に入れたら、君は、独りになるだろう。可哀想な玲子。辛かっただろう? 僕が、慰めてあげるよ。
――本当に、勘の鋭い男ね。私の事だったら、大丈夫よ。全部、自分で決めたんだもの。後悔はしてないわ。
――でも、玲子、今すごく傷ついて、泣きそうな顔してる。そんな君の顔、初めて見た。可愛いよ、玲子。君のキレイなその顔、もっと僕に見せて。そう、もっと近くに・・・・
――亜貴・・・・んっ・・・・
――もっと僕の傍においで。
――っ、んっ・・・・っ・・・・ん、うっ・・・・あっ、んんっ・・・・
――はあっ・・・・玲子。っ、はっ・・・・もっと可愛い声、聞かせて?
――亜貴・・・・あ、っ、はぁっ、ん、あきっ・・・・
二人の影が近く重なり、深く激しい口づけの音や息遣いが聞こえて来た。
これ以上聞くのは耐えられなくなって、音を立てないように扉を閉め、病室を後にした。
玲子が亜貴に乱されるところなんて、見たくも無い。
大事な玲子が、死ぬほど憎んでいる亜貴の手で――考えるだけで、腸が煮えくり返りそうだ。自分勝手な嫉妬を燃やす資格なんて、俺には無い。今まで散々、玲子にそうさせてきたのは、この俺自身だというのに。
目の当たりにして、初めて気づいた。亜貴が玲子を乱すことに、嫉妬している、と。
一体、これからどうなるんだろう。
俺自身も、答えが出せない。
あれだけ欲しかったゆっちゃんが、もう目の前に、この手に掴めそうなのに。
何を迷っているんだろう。
俺は、取り返しのつかない事をしてしまったんじゃないかと、玲子を手放してしまった事について、何故か後悔の念を拭う事が出来なかった。
仕事が終わった後、様子が気になったから、亜貴の病室に向かう事にした。
ゆっちゃんに連絡を入れたら、丁度亜貴の着替え等を取りに自宅に帰っていて、今は居なかった。
彼女から、さっき亜貴が目を覚ました、という事を聞いた。複雑な胸中になったのは、言うまでもない。
亜貴の病室の前に立って静かに扉を開けたその時、話声が聞こえた。玲子の声だ。
彼女の声で、中に入ることを戸惑ってしまった。すると個室の仕切られたカーテンの向こう側に二人の影が映っているのが見え、話をしているのが伺えた。
――やあ。来てくれたんだ?
――もう、目覚めたの。しぶとい男ね、貴方も。
――僕を誰だと思っているんだよ。簡単には死なないさ。それより玲子が、僕を助けてくれたって?
――ええ。貴方を・・・・ずっと騙していたから。本当にごめんなさい。謝ろうと思って来たの。
――いいよ。玲子は悪くない。これは、僕と壮の問題なんだ。玲子を巻き込んで、悪かったね。
――亜貴・・・・。
――由布ちゃんから聞いたけど、さっさと別れて、僕をちょうだい、って言ったんだって? 結構大胆だね。
――ええ、言ったわ。だって貴方は常に脆く壊れそうだったし・・・・大きな闇を抱えて、ひとりぼっちの猫みたいだったから、何時も心配だったの。正直、由布子みたいな普通の女には、貴方みたいなクレイジーな男、手に余るわ。それに、由布子に捨てられたりしたら、貴方、どうなるかわからないでしょう?
――壮の為だけに、由布ちゃんにそんな事を言ったんじゃないんだ。僕の心配までしてくれて、優しいね、玲子。
――由布子とは離婚するの?
――さあ。どうだろうね。
――私じゃ、貴方のお姫様の代わりには、なれないの?
――玲子は、玲子だろ。代わりになんて、なる必要ない。それよりもっと、こっちにおいで。君こそ、壮に捨てられたんだろ。
――どうしてそれを・・・・? 壮太に聞いたの?
――いいや、壮には会ってないよ。そんな事、聞かなくても解るさ。玲子が、壮の罠だったからだよ。僕に近づいて、僕を罠に嵌めて、その後、君はどうなるの? 壮が由布ちゃんを手に入れたら、君は、独りになるだろう。可哀想な玲子。辛かっただろう? 僕が、慰めてあげるよ。
――本当に、勘の鋭い男ね。私の事だったら、大丈夫よ。全部、自分で決めたんだもの。後悔はしてないわ。
――でも、玲子、今すごく傷ついて、泣きそうな顔してる。そんな君の顔、初めて見た。可愛いよ、玲子。君のキレイなその顔、もっと僕に見せて。そう、もっと近くに・・・・
――亜貴・・・・んっ・・・・
――もっと僕の傍においで。
――っ、んっ・・・・っ・・・・ん、うっ・・・・あっ、んんっ・・・・
――はあっ・・・・玲子。っ、はっ・・・・もっと可愛い声、聞かせて?
――亜貴・・・・あ、っ、はぁっ、ん、あきっ・・・・
二人の影が近く重なり、深く激しい口づけの音や息遣いが聞こえて来た。
これ以上聞くのは耐えられなくなって、音を立てないように扉を閉め、病室を後にした。
玲子が亜貴に乱されるところなんて、見たくも無い。
大事な玲子が、死ぬほど憎んでいる亜貴の手で――考えるだけで、腸が煮えくり返りそうだ。自分勝手な嫉妬を燃やす資格なんて、俺には無い。今まで散々、玲子にそうさせてきたのは、この俺自身だというのに。
目の当たりにして、初めて気づいた。亜貴が玲子を乱すことに、嫉妬している、と。
一体、これからどうなるんだろう。
俺自身も、答えが出せない。
あれだけ欲しかったゆっちゃんが、もう目の前に、この手に掴めそうなのに。
何を迷っているんだろう。
俺は、取り返しのつかない事をしてしまったんじゃないかと、玲子を手放してしまった事について、何故か後悔の念を拭う事が出来なかった。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
女の子がひたすら気持ちよくさせられる短編集
春
恋愛
様々な設定で女の子がえっちな目に遭うお話。詳しくはタグご覧下さい。モロ語あり一話完結型。注意書きがない限り各話につながりはありませんのでどこからでも読めます。pixivにも同じものを掲載しております。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
快楽のエチュード〜父娘〜
狭山雪菜
恋愛
眞下未映子は、実家で暮らす社会人だ。週に一度、ストレスがピークになると、夜中にヘッドフォンをつけて、AV鑑賞をしていたが、ある時誰かに見られているのに気がついてしまい……
父娘の禁断の関係を描いてますので、苦手な方はご注意ください。
月に一度の更新頻度です。基本的にはエッチしかしてないです。
こちらの作品は、「小説家になろう」でも掲載しております。
妻×恋
かのん
恋愛
結婚と同時にセックスレスになって5年。
子供を持つことは諦めた。
女としての悦びを得ることも諦めた。
「男に抱かれたいの?それとも俺に抱かれたいの?」
仕事の後輩のS系な崇。
「忘れていないよ、気持ちがいいところ。」
同窓会で再会した元カレの春樹。
「ずっと好きだった。ずっと…」
一途な幼馴染の亮二。
プラトニックな恋でも
私の恋は不倫になるのかな…?
枯れ果てている私に
恋を教えてくれたのは“あなた”でした。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる