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第一話・壊れた女

Side・松田 由布子・5

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 そろそろ本格的に寒くなる十一月がやって来た。
 今日は、先月申し込みをした同窓会の日だ。

 あれから亜貴くんとは何も変わることなく、地獄の日々を続けていた。
 毎日同じことの繰り返し。貴方に愛されない事も繰り返し、繰り返し。

 素敵になった同級生の誰かと、浮気のひとつでもしてやろうかしら――そうは思っても、出来るわけないか、とため息を吐く繰り返しだった。


 とりあえず今日は、亜貴くんの事は忘れて、純粋に楽しもう。


 今回の同窓会は、中学二年生の時、同じクラスだった人が集められた。人数にして四十人弱。まあまあな人数だから、ホテルの宴会場を貸し切って、結構豪華に行われた。
 二の腕当たりまで伸びた髪を切りそろえてセットしてもらい、うんとお洒落して、私は会場に足を踏み入れた。

 こういう華やかな場に来るのは、本当に久しぶり。

 亜貴くんは出かける事さえ文句も言わず、口を挟まないんだから、これからはもう少し亜貴くんから離れよう。じゃなきゃ、心がおかしくなる。もう壊れかけ寸前だもの。早く自分で、何か夢中になれる楽しい事を見つけなきゃ。

 
「ゆっこ、久しぶり~!」

「あっ、みーな! 元気だったぁ!?」

 声をかけてくれたのは、同級生の八馬三奈子(やまみなこ)。中学の時、同じクラスで一番仲良かった友達だ。でも、就職して結婚したりすると、女友達とは疎遠になる。お互い忙しいから、仕方ない。

「また会おうよ! ゆっこ、連絡先教えてっ」

「うん、女子会しよーっ!」

 実現できるかは別として、他にも何人か久々の顔ぶれに、心が弾んだ。
 こんなに楽しいって思ったのは、久しぶりだった。


「あ、ゆっちゃんだ。久しぶり! 綺麗なお姫様、シャンパンはいかがでしょうか?」

 目の前に長身の素敵な男性が現れて、慣れた手つきで私にシャンパンのグラスを渡してくれた。
 柔らかそうな少し天然パーマのかかった短くて黒い髪、亜貴くんとは違った魅力のある鋭い切れ長の瞳。この声、このしぐさ――・・・・

「えっ・・・・そ、壮くんっ?」

「ザッツライト」

 彼は秋山壮太。中学二年の時、彼が転校してきて、同じクラスになった時から仲良くしている、私の大切な友達だ。私を介して亜貴くんとも仲良くなって、壮くんと亜貴くんは、親しい友人として今も付き合っている。
 ザッツライト、と言った英語が綺麗な発音で、流石何年もアメリカで仕事していただけの事はある。

 彼はとても話上手、聞き上手で、大学では心理学を専攻し、今は名だたるカウンセラーとして活躍している。かくいう私も、亜貴くんの事、片思いをしていた中学生の時から、彼がアメリカに行くまで相談に乗ってもらっていた。壮くんは、ずっとアメリカで仕事してるって聞いていたけど・・・・。

「うそーっ、何時海外から戻ったのぉ!? やだー、久しぶり! 元気だった!?」

 まさか壮くんに会えると思っていなかったから、テンションが上がった。

「あ、亜貴のヤツ、俺がこっちに戻ったこと、何もゆっちゃんに言ってないんだな」

「聞ーてないーっ!」

 もうっ、亜貴くんたら、何時も肝心な事は何も私に話してくれないんだから!

「戻ったのは二年くらい前かな。ま、ゆっちゃんも無事に亜貴と結婚したんだし、何も俺に相談することなんて、無いだろ」

「えーっ、あるよ、あるある! いっぱいあるー!」

 壮くんには、何でも話せる間柄だ。かといって、亜貴くんとのセックスレスを話す訳にはいかないけど。

「えっ、どんなコトだよ?」

「それはヒミツ! 男の人には教えられなーい」

 相談したいことがあるとか言いながら、矛盾したセリフを吐いた。

「あ、解ったぞ。当ててやろうか?」壮くんはニヤニヤしている。


 えっ、亜貴くんのこと、私、顔に出てたかなっ!?
 そんなに欲求不満に見えるの、私!?


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