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七章 / チャラ神様、天上界に還ります!
其の二
しおりを挟む「今ならまだ間に合うわ。手遅れにならないように、アタクシも気を付ける。ダーリンを探す旅をお休みしたりしたくないし、然るべき時が来れば、それを甘受できるようにきちんと覚悟しておくから。アタクシを極楽へ連れて行ってくれるのは、地蔵だからね」
今、考えるだけで泣きそうだ。天人だけじゃなくて、ミケやじぞーちゃんまでいなくなっちゃうなんて、きっと辛いだろう。もう手遅れだ。
「大丈夫よ、神奈。泣かないで。アタクシも地蔵も、まだ貴女の傍に居るわ。然るべき時は、まだまだ先よ」
大きな身体なのに、ピョンと私の肩に飛び乗り、上手くバランスを取ってざらざらの舌で私の頬を舐めてくれた。
「ありがとう。元気出た」
「ふふ。その意気よ」
「朝食の準備を整えて来るわ。天人が人間界で食べる最後の食事でしょう。たっぷり美味しいご飯を食べて貰ってから、天上界へ送り出すわ」
天人は神様の癖に、魚が大好物なのだ。神に仕えるというより自分が神様なのに、殺生とかいいのかな、って謎を感じるけれど。まあ、好物なのだから仕方ないよね。
人間界のご飯はこれが最後だろうから、今日の朝に食べられるように昨日のうちに魚屋に注文しておいて、昨日の夜に持ってきてもらったんだ。天人の好きな、焼き魚が朝に出せるように。
天人は、私の作る特製出汁巻きも気に入っている。貧乏だから通常の分量よりも水でかさ増しするだけなんだけれど、それが美味しくていいらしい。水入れてかさ増ししているとは、教えていないけど。
この玉子焼きなら、毎日食べてやってもいいぞ――なんて言ってたっけ。出汁巻きだって言っているのに、一向に直らなかった。何時も、この玉子焼き美味い、って食べてくれた。
ご飯を炊く準備をして、みそ汁を作った。具は、近くのおばあちゃんにおすそ分けしてもらったサツマイモをたっぷりと豚肉。更に副菜、ご飯の炊きあがりに併せて鯛を焼いて、出汁で溶いた玉子を専用のフライパンで焼いて完成。
ご飯ができる頃、ヤツは何時も起きて来る。鼻が利くからだろう。多分。匂いにつられて起きるのだと思う。
今日もそのスタイルは変わらなかった。私の家族と天人、ミケにじぞーちゃん、大勢で食卓を囲むことに慣れてしまった。今日で最後なのだと思うと、淋しくて堪らない。
「天人様がいよいよ天上界へ還ってしまうのかぁー。淋しくなりますなあ」
お父さんが淋しそうに言った。天人が神様という事も、天上界の人間だという事も、既に私の両親は知っている。多分勾玉の力のお陰で、こういった事実を聞かされてもさほど驚かないのだろう。やっぱり蒼玄様――お父様の力は凄いと思うが、神様だったらこのくらいできて当然なのでは、とも思う。
となれば、やっぱり天人は天上界で落ちこぼれの問題児なのね。
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