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六章 / チャラ神様、金綺羅教祖様に捕らえられた神奈を助けます!

其の五

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 内部でここまで厳重なオートロックを掛けるなんて・・・・。一体何があるのかしら。中の空気は外のものと違って、何というか禍々しい気がする。
 中に入った途端、強烈な匂いが鼻孔をついた。強く甘いお香がたかれているようで、嫌な空気と混ざったものが充満していた。

 気を引き締めなきゃ。

 二階へ伸びる階段を一歩一歩ゆっくりと踏み締めて、用心しながら上がった。

 階段を上ると禍々しさは一層増した。ホールのように広い室内は、全て黒のカーテンで覆われていて暗くしてある。外から見た時は白いカーテンだったから、きっと二重にカーテンをしているのだろう。とにかく暗い。
 その暗い室内には、異常な数の女性が整列し、立ち並んでいた。
 正面には煌びやかな造りの王座のようなものが置かれていて、そこにさっきの教祖男が座っていた。その周りに、卑猥な衣装を纏った何人もの女性をはべらせていた。


「ようこそ、金綺羅教へ。美しい巫女――天海神奈さん」


 どうして私の名前を――そう思ったら音もなく忍び寄り、後ろから現れた女性二人にぐっと両腕を捕らえれた。一人は解らない。でも、もう一人は――


「麻沙子さん!」


 長い茶色の髪はウェーブが掛かっていて、鼻立ちは高く、駒井さんによく似た優しい眦。彼女こそが、探し求めていた駒井さんの娘の、麻沙子さんだ。良く知る彼女に相違いなかった。

「神奈ちゃん。よく来てくれたね。教祖様は私達を不幸から救って下さり、素晴らしい幸せを授けて下さるのよ。さあ、神奈ちゃんも一緒に祈りましょう。もう、ウィルスを恐れる事も無いし、ここには素晴らしい世界しかないの。教祖様が私達へ平等に愛という種を注いで下さるわ。私もこれから正式に入信の手続きを行うと同時に、無情の愛を与えて頂けるの。だから家には帰らない。ここで一生、暮らしていく」

 見ると、正気を失ったような虚ろな瞳をしている。額には何かの紋が刻印されていて、赤く浮き上がっている。見た事ある。これ、大ねずみや狐の時と一緒――ということはもしや、呪詛?


 これは拙いわ。敵陣に一人で入り込んでしまった。迂闊だった!
 呪詛があるということは、謎の声の主が絡んでいる可能性が高いわね。
 この男から、麻沙子さんを取り返さなきゃ。入信手続きがまだって事は、上手くやれば正気に戻せるかも?

 今はきっと、マインドコントロールされているだけ。


 それにしても麻沙子さん、『教祖様が平等に愛という種を注いで下さる』なんて言っていたけれど、私の予想が当たっていたら・・・・いや、多分そうでしょう。これ、とんでもなくゲス男って事よね、この教祖。

 片っ端から女性と関係持ちたいだけの、ただのドスケベじゃない。最低最悪。

 とにかく、みんなに助けを呼ばなきゃ! でも、どうやって?
 天人が気づいてくれたらいいけれど・・・・。
 どうしようかと考えているうちに、麻沙子さんともう一人の手によって、教祖の前に連れて行かれてしまった。

「おやおや。そんなに睨まないで下さい。美人が台無しですよ」

「みんなを解放して! こんなの、監禁じゃないっ。犯罪よ!!」

「人聞きの悪い事をおっしゃらないで頂きたい。彼女たちはみんな、自分の意思でここに居るのですよ」

「そんなのおかしいわ!」

「・・・・うーん、変ですねぇ。そろそろ立てなくなって、自我も無くなってくると思うのですけれど。まだ喋って僕を睨みつける力があるとは」

 くっくっく、と教祖男が低い声で笑った。ぞくりと背筋が凍るような不気味な笑み。ニタニタと笑うその顔は、本当に気持ち悪いものだった。



「みんな――っ! 来てっ! 助けて――っ!」


 
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