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一章 / チャラ神様、人間界にやって来て早速職質受けました!
其の八
しおりを挟む「本物ですかっ! いやあー、生きてて良かった! 神様に出会えるなんて!!」
がしっ、と天人の手を取り、お父さんは感動している。
「さ、ささ、神様。どうぞこちらへ」駒井さんとお父さんの間の席へ天人を誘い込み、早速座らせてしまった。「狭い家では御座いますが、ごゆっくりなさって下さい。ほら、神奈、お前、何をやっているんだ! 神様が直々にこの天海神社へ来て下さったのだぞ! 立派なお召し物で、品のある御姿! 良かった、良かった!! これで我が神社も安泰で御座いますっ!」
「えー、本物の神様かぁー」
ははー、と駒井さんは土下座する始末。
ちょっとちょっと・・・・そんな怪しい男、なんですぐ信じちゃうワケぇ?
みんな、頭のネジどうなっているのよ!
「どうしたの、何の騒ぎかしら?」
ややこしい所へ、お母さんがやって来た。御年四十八歳になるのに、かなり綺麗な母だ。自分の母親に言うのもなんだけど。
美しいと評判で、母を目当てに遠方からやってくる方もいるほど。長いストレートの髪を靡かせ、柔和な瓜実(うりざね)顔の和服が良く似合う美人だ。
「皐(さつき)。実は、神様がうちにいらっしゃったのだ!! 宴会だ。宴会の準備をしてくれっ。さあさあ、神様。準備を致しますので、暫くおくつろぎ下さい。ほら、神奈っ、ボケっとしていないで、皐を手伝え!」
「そうだぞ、神奈。やはりこうでなくては」
どかっと腰を下ろした天人は、私の方を見て高笑い。なにあのムカつく男!
何でみんな、天人の事怪しいって思わないの!?
何かカラクリがあるんだ、きっと。じゃなきゃ、おかしいもん!!
そういえば、さっきから天人が首から下げている勾玉が、不思議な光を放っている。どういう訳かは解らないけれど、きっとアレのせいね。さっきのカンキチおじさんの反応の方が、普通だもの。
「これはこれは、何と美しい。皐と言うのか。こっちへ来いよ」
お母さんを見て厭らしい目を向ける天人を、私は思いきり睨みつけた。
「アンタがちょっと来なさい」
有無を言わせず首根っこを引っ掴んで、外へ引きずり出した。
「お母さんに手を出したりしたら、氷漬けにしてやるからね!」
ゴゴゴゴと青く怒りのオーラが私の全身を包んでいる。ヤツにもそれが見えるのだろう。しない、しないから、と焦った声で言った。
「約束破ったら、アンタの身体全部凍らせてやるから!! それよりどうしてみんな、アンタの言う事信じちゃってるの? おかしいじゃない!」
「しらねー。ま、多分この勾玉の光の加護のお陰だろうな」首からぶら下げていた勾玉を、天人が摘まみ上げた。亜麻色だった勾玉は、うっすら金色に輝いている。「さっきまでは光ってなかったけど、この神社はどうもパワーが増幅するらしい。この勾玉、万能で身に着けた者を助けてくれるありがたーい力があるんだ。スゲーだろ。オヤジからパクって来たんだ」
オヤジからパクったって・・・・窃盗してきたって事?
神様のする事じゃないわよね。でもツッコむのが面倒なので、止めた。
「くれぐれも悪用しないでよ!?」
特に盗品なんて、最低最悪じゃない!
「わかった、わかった。ウルセー女だな。もう、俺に振舞う飯の準備でもしてろ」
「はあぁ? 何で私が!」
「お前の親父が用意しろって言ったじゃん。腹減ってんだ。それにしても淑(しと)やかそうなオフクロじゃねーか。神奈とは大違いだ」
「大きなお世話。チャキチャキやらなきゃ、この神社の経営成り立たないのよ。両親がのんびりしてるから」
「ククっ。神奈も苦労してんだな」愉快そうに天人が笑った。
「そう思うなら、この神社に参拝客呼んで来てよ。アンタ、神様なんでしょ」
「ま、そのうちに。とりあえず飯にしてくれよ」
ひらひらと手を振り、室内へ戻って行った。宴会の準備を始めろとか言うけどさぁ・・・・。みんな、大丈夫なのぉ!?
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