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ラストスマイル・王様は世界一

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「さあ、今度こそ行くぞ。会場は、遊戯室だな?」

 照れ隠しのように、恭ちゃんが先陣を切った。「真凛と菫は、遊戯室で美羽の晴れ姿を見てやってくれ」

「うん。待ってるよ。子供たちが声をかけてくれるから。声が掛かったら、入って来てね。じゃ、菫ちゃん、行こっ」

 真凛ちゃんと菫ちゃんは、一足先に遊戯室に向かった。

 ドレスを汚さないように裾を持ち上げ、私はヒールの低いパンプスに履き替えて、一歩一歩、恭ちゃんの腕に寄り添い、遊戯室へと歩いた。

「美羽。幸せになるんだぞ」

「恭ちゃんもね」

「ああ。なるさ。美羽には負けないぞ」

「私だって。菫ちゃんや恭ちゃんには負けないわ!」

「無理をするんじゃないぞ。もうお前だけの身体じゃ無い」

「うん、わかってる」

「困ったら、いつでも頼ってくれ。万が一王雅が浮気したら、僕がただじゃおかないぞ。美羽を不幸にしたら、地獄へまでも追いかけて成敗してやるから」

 恭ちゃんがあまりに真剣な顔で言うから、思わず吹き出した。
  
 みんな、何時もメッセージありがとう。中々メッセージ返せなくてごめんなさい。ちゃんと見ているわよ!
 ちょっと前のメッセージになるけれど、もしお腹の子が娘だったら、お嫁に出すのは王雅が赦さないでしょうね。ふふっ。大変な事になりそうね。やっぱり今の恭ちゃんの立ち位置になった時、大泣きするのかしら?
 恭ちゃんも大概シスコンよね。まあ、私もブラコンだったから、おあいこかしら?

「残念だけど私の旦那様、そんな雰囲気皆無よ。物好きよね、王雅も」

「物好きとは失礼な! こんなに――」恭ちゃんが私の髪を撫でてくれた。「お前は美しく成長したんだ。王雅にやりたくないのは、正直な本音だ」

「ふふっ、恭ちゃんたら、久信おとうさんみたいな事言うのね」

「当たり前だ。お前は僕のたったひとりの大切な家族なんだ。今は一人じゃなくなったけどな。菫と、新しく産まれてくる命。お前も王雅とモメたら僕が面倒みてやるから、慰謝料搾り取って、二度と施設の敷居を跨げなくして追い出せばいい」

「もう、王雅はそんな事しないわよ」

 恭ちゃんは王雅の事を未だに、女性をポイ捨てするサイテー男だと思っているのかしら。まあ、最初の彼を見たら、どこをどうすれば今の王雅ができあがるのか、不思議でたまらないけどね。

「王雅は私の事、本当に大切にしてくれているわ」

「そうか。それなら良かった。彼の部下の水口さんとサッカー繋がりで仲良くなって、過去の王雅の所業を色々聞いたものだから、心配になってな。まあ、でも忘れないでくれ。お前を泣かせたりしたら、僕が黙っていないってことを」

「はいはい。わかりましたー」

「コラ。真剣な話だぞ、美羽。いいか、無理はするな、浮気は赦すな、泣かされたら僕の所に一番に言いに来い。わかったか」

「うん。ありがとう」

 本当、恭ちゃんはガンコ親父みたいだわ。

「よし、じゃあ行こう。美羽の人生の手を引く、その役割を譲る時が来たんだ。王雅と、幸せにな」

「はい」


 遊戯室に着くまでに恭ちゃんと話したことは、一生忘れない。


 彼は、どんなに離れても、幼い時から苦楽を共に過ごしてきた、大切な家族なんですもの。

 嬉しかった。恭ちゃんが、私をこんなに大切に想っていてくれたことが、わかったから。
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