上 下
183 / 287
スマイル32・王様のヒーローショー

しおりを挟む
 モヤモヤを胸中に残したお芋堀から、暫く月日は流れた。
 王雅とはあれから、特別な進展や話は何もない。
 奴隷としての契約もまだだし、自分から抱いてとかそんな事も言えないし、結局何も変わらないまま、時間だけが過ぎて行った。

 今日は土曜日で、王雅が施設に帰ってくる日だ。
 相変わらず嬉しくときめいてしまう心に、ため息が出た。自分の愚かさを笑うしか出来ない。


 そうそう。これからライタ君の誕生日パーティーをする予定なの。
 王雅も張り切って色々手配してくれたみたい。ライタ君の大好きな『ウルトライダーQ』を呼んでヒーローショーをしてくれるって言ってたわね。

 はあ。お金持ちって言うのはやっぱりスゴイわね。お金さえ払えば何でもできちゃうし、夢だって叶っちゃうんだもん。


 そんな事を考えながら、王雅が帰って来たのでみんなでお出迎えした。相変わらず嬉しそうに、一人一人を抱きしめてありがとうを伝えている。
 包み込むようにして抱きしめられている子供たちが、少し羨ましくなった。


 っとと。あ、ち、違うの! う、羨ましくなんて無いわ!
 誰が羨ましいもんですかっ。

 平常心、平常心。

 
「王雅、お帰りー」

 王雅を出迎えていると、真凛ちゃんもキッチンの方からやって来た。彼女を見るなり、王雅はげんなりした顔をして、これ見よがしにため息を吐いている。

「何でお前がいるんだよ」

「今日、ライタ君の誕生日じゃん。お祝いしようと思って。マサキ施設は、絶対に誕生日パーティーやってくれるから」

 子供たちのお出迎えと、かなり差があるわね。王雅の冷たい態度にホッとする自分にも、嫌気がさしてしまうわ。


「相変わらずツレないなぁ。でも、そこが素敵!」


 真凛ちゃんはめげない。王雅に猛烈アタックを繰り返している。
 凄いわ。そのパワーと勇気。私も少し分けてもらいたい位だわ。


 あら。それよりさっきまで子供たちに会えて嬉しそうにしていた王雅が、死にそうな顔をしているわ。もの凄く暗い、この世の終わりみたいな顔になっている。
 どうしたのかしら。気になったので聞いてみた。


「王雅、どうしたの? 急にそんな暗い顔して・・・・何かあった? 美味しいごはん出来てるから、沢山食べて元気出して」


 それを聞いて、彼はますます複雑な顔を私に向けた。
 なによっ。私のせいだっていうの!?


 フン。鈍感女が、とか思われていようが、そんなの知らないわ。
 勝手に妄想して、勝手に落ち込まれても困るって。
 そっちだって私の演技に騙されている、鈍感男でしょーが。人の事とやかく言える立場じゃないわ。

 それより真凛ちゃんが王雅にベタベタするところなんか見たくないから、さっさとキッチンへ戻りましょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

処理中です...