上 下
170 / 287
スマイル30・王様の事情聴取

しおりを挟む
 
「気持ちだけもらっておく。ありがとう。でも、貴方はちゃんと自分の大切なお仕事があるんだから、疎かにしちゃダメよ。迷惑がかかるでしょ。それがイヤなの」

「別にかかんねーよ。俺は、毎日帰って来たい」

「・・・・毎日なんて、ダメよ」

「どうしてっ!?」

 王雅は心底意外な顔で、私の言葉に喰ってかかる。「お前、何時でも帰って来ていいって、俺に言ったろ! あれ、嘘かよっ!?」

「違うわ。嘘なんかじゃないけど・・・・」

 もう、ごまかさずにちゃんと言うしか無いわね。

「王雅、この際だからハッキリ言っておくわ。私達を、期待させないで欲しいの。毎日王雅が帰ってきたら、子供達は喜ぶわ。でも、貴方、一生それ続けられるの? 無理でしょう? 私と貴方じゃ、住む世界が違うのよ。何時か貴方も、貴方に相応しい場所へ帰るでしょ。今は珍しくて楽しいから、施設通いを続けられるのかもしれないけど――」

「なんだよ、ソレ!!」


 王雅がとても傷ついた悲しい顔になった。
 どうして貴方が傷つくのよ。傷つくのはこっちだってのに。

 傷ついた顔を見せていた王雅は、暫く黙って逡巡していた。

「自分が相応しい場所なんか、自分で決める。俺は、好きで施設に来てんだ。ガキ共もお前も好きだから、一生でも通い続けてやるよ。悪いか!」

「それは悪くない・・・・けど・・・・」

 もう、そういうしか収拾がつきそうになかった。
 ここは、私が引いておくわ。

 でも、どうせうまい事言っておいて、手に入れたらポイするんでしょ。
 一生通うとか、ムリだって。
 詐欺に合うって判っていながら、詐欺師に同情してお金を渡してしまう優しいお婆ちゃんの気持ちが解った気がした。最終的には裏切られるコト、こっちはもう気付いているのよ。

「じゃあ、ゴチャゴチャ言うな。俺は、俺の好きにする。仕事だって妥協はしねーよ。平日だってキノコが来るんだったら、俺も来る。キノコにお前は渡せねーから。二人きりになんて、させらんねーだろが!」

「キノ・・・・」

 そういえばさっきから真秀君の事、キノコキノコって言っているわね。


「ああ、真秀の事だ。赤茶のキノコだろ。お前、約束守ってキノコ嫁になるつもりか? 赤茶色のキノコなんて、絶対毒あんぞ。やめとけ」


 ぷっ、と思わず吹き出してしまった。
 まあ、髪型からキノコを連想できなくも無いけど。そうハッキリ言われたら、ウケちゃうわね。


 とにかく、と王雅が真剣な顔を向けた。
 ドキン、と心臓が高鳴る。最近は、王様スマイル以外にもときめいてしまう自分の心を戒めきれないでいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

処理中です...