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スマイル28・王様の涙

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「お礼なんて、そんなの気にしなくていいのに。律儀ね、王雅」

「別に律儀とかじゃねーよ。俺が、お前にしてやりたかったんだ。開けてみてくれよ」

「なんだろう・・・・じゃあ、遠慮なく貰うね。王雅、ありがとう」

 この際だから、遠慮なく包みを受け取った。
 丁寧に包装紙を剥がし、包みの下に隠れていた黒のケースを空けて中を見た。
 その中には、メタリックピンク色の最新型のデジタルカメラがケース内に収められていた。

「これ・・・・こんな高そうなカメラ、本当に貰ってもいいの?」

 王雅が用意してくれたものは、今まで私が使っていた、知り合いに譲ってもらった使い古しの中古デジタルカメラとは全然違った。
 きっと充電がすぐ切れたりすることも無いんだろう。

「ああ。美羽のカメラ、壊れかけてただろ。だから、使ってくれよ。それに、プリンターも調子悪いって言ってたから、手配しておいた。明日、新しいものが施設に届くから、俺が使えるようにしてやるよ。どーせ、プリンターが使えるようにする設定とか、できねーんだろ?」

「あ、うん。できない」

 本当、王雅は観察眼が鋭いわね。言葉尻も逃さず聞いて覚えているし。横山さんの時もそうだった。

 だったら私のキモチも、何時露呈してしまうか心配だわ。

 貴方は未だ私のコト、超鈍感女だと信じて疑っていないけれど、それも何時まで続けられるかしら。私も大概解り易いから、貴方にこのキモチがバレてしまわないか、実は冷や冷やする時もあるの。

 貴方へのキモチは、自分でも上手に隠す事が出来なくなりつつあるから。

「教えてやるよ。使い方。まあ、カメラ自体は簡単に撮影できるものを選んでおいたから、操作が難しくて困るって事は無いと思う。それに、綺麗な画質で沢山撮れるように、SDカードも一番容量が大きいやつ入れてあるから、ほぼ撮り放題だぜ。動画も撮影できるから、それも教えてやるよ。でも、精密機械だから、ガキ共に壊されないようにしろよ。ま、もし壊れたら修理してやるから、遠慮なく言ってくれ」

「うん、本当にありがとう。大事に使わせてもらうね」

 嬉しいけど、カメラはちょっとキツイわね。
 だってこのカメラを取り出す度、写真を撮る度、貴方を想い出してしまうじゃない。



 私が好きな、あの、最高の王様スマイルを。



 貴方に捨てられてもまだ、このカメラを取り出して使うしかできない、貴方を想いながらどうすることもできない貧乏で惨めな自分を想像したら、鼻の奥がツンとした。
 気が付くと、涙が目に溢れそうな程溜まってしまった。

「どーした、美羽・・・・傍に、行ってもいいか?」

 私の様子を見た王雅が、心配そうに聞いてくれた。
 私、何をしているのかしら。
 想像で泣いたりして、この先本当に大丈夫なの?

 首を振って断った。「何でもないの。ごめんなさい。来ないで」

 涙を隠すようにしていると、王雅がすぐ傍に来てくれた。
 震える私を優しく抱きしめて、髪を撫でてくれた。

「今まで辛かったな。一人で、よく頑張ったな、美羽。俺の前だけは、遠慮せずに泣けよ。俺が、ずっと傍に居てやるから」


 あのね。
 私がこんな風になっているのは、貴方のせいよ。
 貴方が、私の悩みの元凶。わかる?


 だからもう、これ以上私に優しくしないで。


 ずっと酷い男だって、思っておきたかったのに。
 捨てられても全然平気だって思っていた、あの頃の私でいたかった。
 平気でビンタして、貴方のコト、冷たくあしらっておきたかった。

 過去には戻れない。
 一度知ってしまったキモチは、押さえる事ができないの。
 自分から捨ててやるって思っていたのに、こんなにも貴方を好きになってしまった今では、それも出来そうにない。


 捨てられるのを、待つしか道は無いの。
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