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スマイル28・王様の涙

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 こんな男に惚れてしまってどうになろうかと考えていた私が、どうかしていたと思う。
 王様のお金持ちスケールの凄さに、ただ圧倒された。


 彼の家は、それはとても大きく豪華な門で遮られていた。大掛かりな門が王様の一声ですぐさま開けられた。当たり前だけどマサキ施設のボロ門とは違って、開くときに鉄が錆びたようなイヤな音はしなかった。全自動だった。

 それだけじゃないの。門の所から家までの距離を、手入れされた庭というかプチ森林というか、とにかく門から自宅まで車で走らないと、辿り着けなかった。


 これ、自宅敷地よ? どうなっているの!?


 子供たちはスゲー、とか、うわおー、とか、個々に叫んで騒いでいる。私は王雅の自宅の大きさに驚愕するしか出来なかった。

「お兄さん、今度お兄さんのお家で、かくれんぼして遊ぼうよー」

 何と、リョウ君がとんでもない事を言い出したの!


 いやあああ! 絶対に止めて!!
 壺とか割っちゃったりしたら、私の内職の稼ぎだけじゃ絶対に絶対に弁償できないから!!


 えっ。子供たちがした事だったら、王雅は赦してくれるとは思うって?
 まあ、そうだろうけれど、そういう問題じゃないの。

 考えてもみて?
 
 かくれんぼしていて、うっかりリョウ君が高級壺を割ってしまって、ごめんなさい、っていう事になったら、王雅に、この壺十億円ぽっちだけど、大した金額じゃねえから気にすんな、とか笑顔で言われそう・・・・。


 想像して青ざめ、本気で倒れそうになった。


「ああ、いいぜ」


 王雅がリョウ君の提案に、二つ返事でオーケーした。
 ちょっと、軽々しくオーケーしないでよ!!


「ホント!? 絶対だよー! やったぁー!」


 ダメダメダメ! 絶対にダメよ!!
 お城――王雅の自宅ね――の調度品にかすり傷でも付けたら、私が責任取らなきゃいけなくなるでしょーっ!!
 とてもじゃないけど、私の身体ひとつぽっちじゃ返せないわよっ!
 一生かかっても弁済できないわ!
 ただでさえ私には、王雅に五十億円という借金があるのよっ。

 もう金額がスゴすぎて、どうやって返したらいいのかわかんないけどねっ!!
 五十円や百円だったら、今すぐ返せるんだけど。
 

 えっ? 嫁に行けば一件落着? 簡単に言わないでよっ。


 こんなお城持ちの王様となんか、結婚できないって!!
 ムリムリー。貧乏人が、ここはお前なんかの来る場所じゃないとか、そんなカンジの事を召使の人に言われて、門前払いされてお終いよ。
 大丈夫。身の程はわきまえているから。
 王様とどうこうなるとか、もう、絶対ムリだから。無いわ。


「スッゲー! 王雅にぃの家、プールもあんのかよぉっ! いいなー、泳ぎたいー」


 リムジンバスの窓から見える、手入れされた庭に大きなプールをめざとく見つけたライタ君が声を上げた。

「ああ、いいぜ」

 だから、軽々しくオーケーしないでってば!!


「マジ!? イエーイ! ヒューヒュー! 今度みんなで王雅にぃの家に遊びに来て、泳ごーぜぃ!」


 あああああ、もう、そんなコトしたら寿命が幾つあっても足りないわ!


 プールサイドでうっかり転んで、プールを汚したり傷でもつけたらどうするの!
 きっと、目玉が飛び出るほどの値段の高級な素材とか使っちゃってるプールよ!
 マサキ施設の安物ビニールプールとはワケが違うの! とても弁償なんて出来ないわっ!

 王雅の家に遊びに来る前に、何かしらの損害保険に入らなきゃ。今流行りの、子供専用の、ナントカ共済。
 でもそんなお金無いし、子供たち全員分加入なんて、財政キツすぎるわ。ムリムリ。絶対、ムリ。



 王雅の家で遊ぶという約束は、私の全精力とこの命を懸けて反対しなきゃ!



 
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