118 / 287
スマイル22・王様が女王の恩人を救う
5
しおりを挟む「みんなーっ、玄関に集合してーっ!! 王雅お兄さん、もう帰って来るってーっ!!」
大声で叫ぶと、子供たちがドタドタと足音を立てて、ヤッター、とか、キャッホー、とか、イエーイ、待ってましたー、とか言いながら玄関に集まってきた。
王雅が戻って来るのが、みんなもそんなに嬉しいのね。
全員で息を呑んでスタンバイしていると、ギイイイという錆びた門の開く音が外から聞こえて来た。
帰ってきたっ!
ガラガラと横開きの玄関の扉が開けられて――
「お帰りなさーいっ!!」
子供たちが王雅を取り囲んだ。
「なんだよ、お前等・・・・」王雅は驚いて目を開いている。
「お帰りなさい、王雅」
貴方が帰って来てくれて、とっても嬉しいわ!
「お兄さん、待ってたよ~っ! お帰り~っ!!」
「僕と遊んでっ!」
「私と一緒に遊ぼうっ!」
王雅を取り囲んでいる子供たちが、口々に思いのたけを伝えている。
彼は子供たち全員を手いっぱい抱きしめて、ぽつりと呟いた。
「ただいま」
戸惑っているけど、でも、凄く嬉しそうな顔で。
「よーし、全員まとめてかかってこい! 俺様が相手してやる」
張り切って王雅が叫んだ。
「わーい!!」
子供たちが走り出し、王雅がその後を楽しそうに追いかけて走って行った。
「楽しく生きている事と、美味しいご飯が食べられる事に感謝して・・・・いただきます」
夕飯の時間。何時ものお祈りをして、食事を開始した。
土日は王雅がいるから、食卓がいつも以上ににぎやかになる。おかずのおかわり争奪戦が繰り広げられるの。王雅も遠慮しないで子供たちに混じって争奪するから、結構本気のバトルが繰り広げられる。
王雅に早速、エビピラフとポテトサラダのおかわりを求められた。そうなると子供たちもこぞって私におかわりのお皿を向けてくる。
「順番に入れるから待ってね」
最近、結構な量を作る割に何も残らない。王雅が何でも好き嫌いせずに食べてくれるから、子供たちも負けずに食べるのよ。
作り甲斐があって嬉しいけど、王雅はエビピラフなんかよりももっと高級なエビリゾットとか、ポテトサラダでない何か複雑な高級なものを食しているだろうと予想している。こんな庶民の私が作った食事で、満足できているのかしら。
夕食が終わると、後片付けをしている間に王雅が子供たちといっぱい遊んでくれて、手分けしてお風呂に入れ、遊戯室にお布団を引いて、全員を寝かせた。
電気を消して暗くすると、あっという間にみんな眠ってしまった。
応接室で王雅が横山さんの為に契約書類を作ってくれるというので、私も一緒に内職をすることにした。
王雅は持参したノートパソコンを開いて、慣れた手つきで作業を進めていく。スピードもなかなかのものね。仕事が早く、出来る男なのだと感心した。
そうだわ。ちゃんとお礼を言っていない。
王雅が私の恩人を助けてくれた事、そのお礼を。
「王雅、色々、本当にありがとう」
「何がだよ」王雅が作業の手を止め、画面から顔を上げて私を見た。
「王雅が帰ってくる前、横山さんから連絡があったの。王雅のおかげで、工場を手放さなくてすみそうだって。手厚く礼を言っておいてくれって」
「ああ、別に。さっきもお前に伝えたと思うけど、俺は、見込みのない会社には投資なんて絶対しないからな。横山の製品が良かったんだ。それに、おかげで今後の明確なプランも立てれたし、俺としても、横山のトコ行けて良かったぜ」
そうだったの。同情とかじゃなくて、ちゃんと貴方が横山さんの製品を認めて、投資を決めてくれたのね。何だか救われた。
そうじゃなかったら、約束を反故にされたりしないよう、最低な取引を持ち掛ける覚悟で口を開いたから。
「そう。でも、王雅ってスゴイね。ちょっと話聞いただけで、色々判っちゃうんだもの。横山さんが施設の前の土地の持ち主だったなんて、貴方に話してないのに」
「前に美羽が言ってただろ。花井の前の持ち主は、金も取らずにこの土地を貸してくれてたって。だから、話の内容や、優しそうな容姿からして、横山の事だろうなって思った。それだけの事だ」
「そっか・・・・」
もの凄く勘がいいのね。ただの道楽息子だとバカにしていたけど、本当は全然違うのね。
そんな一面、知りたくなかった。もうこれ以上、貴方に惹かれたくない。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる