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スマイル22・王様が女王の恩人を救う
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それから楽しいパーティーは、お菓子も完売してお開きになった。ご近所のみなさんが、しきりに私達にお礼を言って帰って行った。
ご近所のおかあさんに持ってきてもらった寿司桶も洗って返したし、後は広場のお片付けね。結構大変だけど、しっかり最後まで頑張りましょう。
手分けして片付けをしていると、美羽ちゃん久しぶり、と声を掛けられた。この声は――
「横山さん!」
慌てて横山さんに駆け寄った。「お久しぶりです! わざわざいらっしゃって下さったのですね。おかげさまで私も元気ですし、施設もこの通り手放さずに済んでいます。横山さんのおかげです! 本当に、ありがとうございます」
今、私に声を掛けてくれた彼は、横山一志(よこやまかずし)さん。
私が小さい時、横山さんには命を救ってもらった。彼は、私にとって恩人なの。
年齢は五十代後半――確か今年で五十八歳になったハズ。ロマンスグレーと白髪が混ざった髪色をしていて、背は百六十センチ程で低く、目の大きな優しいおじさんよ。
彼は、横山工業という立派な工場を経営されている。今も、横山工業と刺繍の入った薄灰色のツナギを着ているわ。
そういえば久信おとうさんは横山工業の元従業員だから、このツナギを見ると懐かしいっていつも言っていたっけ。
私を助けてくれた時も、横山さんはこのツナギを着ていたわ。よく覚えている。
横山さんのお陰で、私が過ごしてきた地獄の日々にピリオドが打たれた。あの日の事は、一生忘れない。
虫の息だった私の掠れた泣き声に、唯一気が付いてくれた横山さん。
人通りの少ない裏路地のボロアパートの一室に、私は真夏にクーラーも無い部屋に両親から放置され、閉じ込められていた。
死を予感していた。
このまま死んでしまえば楽になるのかもしれない、と考えていた時、誰かの足音が聞こえた。
自分でも解らないけど、助けて、と声を絞り出していた。
聞こえる訳が無いと思った。今まで誰も助けてくれなかったし、今度もそうだと思っていたけど、一縷の望みをかけて声を出したの。
無駄な事だというのは解っていたけど、それでも、生きたいと思う本能だったんじゃないかと思う。
後から聞いたら、たまたま偶然だったと言う。運命だったのかも知れない。
この日横山さんは取引先の顧客の所から、近道で駐車場へ戻る為にこの路地を歩いていたのだと聞いた。
――誰かいるのかな?
彼が声を掛けてくれていなかったら、汚臭の漂う部屋で、苦しみながら私は間違いなくあの時死んでいた。
――たす・・・・け・・・・て・・・・
酷く小さな声に鋭敏に耳を澄ませ、この部屋に私がいる事を、横山さんが突き止めてくれた。
――待ってろ! 頑張れ!! 今警察と大家を呼んだからっ! 死ぬんじゃないぞ!! もう少し頑張ってくれ!!
横山さんは必死に声を掛け続けてくれた。
アパートの窓を持っていた工具入れに入っていたハンマーで叩き壊し、すぐ中に入って私を見つけてくれた。
今思えば器物破損で逮捕されるかもしれないのに、それでも横山さんは私の為に、身体を張ってくれたの。
真夏の暑い蒸し風呂のような部屋から、憔悴しきった私を助け出してくれたのが、横山さん。
私が幼い頃の、苦しい時代の話。
「私は何もしていないよ。もう、会う度にお礼をいうのは、いい加減やめたらどうかな、美羽ちゃん」
横山さんが笑った。優しい笑顔は相変わらずだ。
そうは言われても、横山さんがいなかったら私はあの時死んでいただろうから、お礼を言わずにはいられない。
横山さんは、本当に優しくて素敵なおじさんなの。あれから私を実の娘の様に可愛がってくれて、昔はしょっちゅうマサキ施設に遊びに来てくれた。
それに、横山さんはこの施設が建っている、元の土地のオーナーなの。花井が横山さんから土地を買うまでは、賃料も取らずに無償で貸してくれていたのよ。
何時の頃からか工場の仕事が忙しくなってしまったみたいで、施設には滅多に来なくなった。会うのは何年ぶりかしら。
ご近所のおかあさんに持ってきてもらった寿司桶も洗って返したし、後は広場のお片付けね。結構大変だけど、しっかり最後まで頑張りましょう。
手分けして片付けをしていると、美羽ちゃん久しぶり、と声を掛けられた。この声は――
「横山さん!」
慌てて横山さんに駆け寄った。「お久しぶりです! わざわざいらっしゃって下さったのですね。おかげさまで私も元気ですし、施設もこの通り手放さずに済んでいます。横山さんのおかげです! 本当に、ありがとうございます」
今、私に声を掛けてくれた彼は、横山一志(よこやまかずし)さん。
私が小さい時、横山さんには命を救ってもらった。彼は、私にとって恩人なの。
年齢は五十代後半――確か今年で五十八歳になったハズ。ロマンスグレーと白髪が混ざった髪色をしていて、背は百六十センチ程で低く、目の大きな優しいおじさんよ。
彼は、横山工業という立派な工場を経営されている。今も、横山工業と刺繍の入った薄灰色のツナギを着ているわ。
そういえば久信おとうさんは横山工業の元従業員だから、このツナギを見ると懐かしいっていつも言っていたっけ。
私を助けてくれた時も、横山さんはこのツナギを着ていたわ。よく覚えている。
横山さんのお陰で、私が過ごしてきた地獄の日々にピリオドが打たれた。あの日の事は、一生忘れない。
虫の息だった私の掠れた泣き声に、唯一気が付いてくれた横山さん。
人通りの少ない裏路地のボロアパートの一室に、私は真夏にクーラーも無い部屋に両親から放置され、閉じ込められていた。
死を予感していた。
このまま死んでしまえば楽になるのかもしれない、と考えていた時、誰かの足音が聞こえた。
自分でも解らないけど、助けて、と声を絞り出していた。
聞こえる訳が無いと思った。今まで誰も助けてくれなかったし、今度もそうだと思っていたけど、一縷の望みをかけて声を出したの。
無駄な事だというのは解っていたけど、それでも、生きたいと思う本能だったんじゃないかと思う。
後から聞いたら、たまたま偶然だったと言う。運命だったのかも知れない。
この日横山さんは取引先の顧客の所から、近道で駐車場へ戻る為にこの路地を歩いていたのだと聞いた。
――誰かいるのかな?
彼が声を掛けてくれていなかったら、汚臭の漂う部屋で、苦しみながら私は間違いなくあの時死んでいた。
――たす・・・・け・・・・て・・・・
酷く小さな声に鋭敏に耳を澄ませ、この部屋に私がいる事を、横山さんが突き止めてくれた。
――待ってろ! 頑張れ!! 今警察と大家を呼んだからっ! 死ぬんじゃないぞ!! もう少し頑張ってくれ!!
横山さんは必死に声を掛け続けてくれた。
アパートの窓を持っていた工具入れに入っていたハンマーで叩き壊し、すぐ中に入って私を見つけてくれた。
今思えば器物破損で逮捕されるかもしれないのに、それでも横山さんは私の為に、身体を張ってくれたの。
真夏の暑い蒸し風呂のような部屋から、憔悴しきった私を助け出してくれたのが、横山さん。
私が幼い頃の、苦しい時代の話。
「私は何もしていないよ。もう、会う度にお礼をいうのは、いい加減やめたらどうかな、美羽ちゃん」
横山さんが笑った。優しい笑顔は相変わらずだ。
そうは言われても、横山さんがいなかったら私はあの時死んでいただろうから、お礼を言わずにはいられない。
横山さんは、本当に優しくて素敵なおじさんなの。あれから私を実の娘の様に可愛がってくれて、昔はしょっちゅうマサキ施設に遊びに来てくれた。
それに、横山さんはこの施設が建っている、元の土地のオーナーなの。花井が横山さんから土地を買うまでは、賃料も取らずに無償で貸してくれていたのよ。
何時の頃からか工場の仕事が忙しくなってしまったみたいで、施設には滅多に来なくなった。会うのは何年ぶりかしら。
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