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スマイル19・王様ピンチに現る
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会話がひと段落途切れた所で、中に入った。グラスにお茶を注いで二人の前に置いた。
「初めまして、私がマサキ施設の責任者、真崎美羽です。先程、櫻井さんから内藤さんの事を伺いました。貴方がサトル君の本当のお父様で、間違いないですね?」
「はい、間違いございません。この度は、本当に息子がお世話になりました。先程も、身体を張ってあの男から悟を守って下さったとか・・・・今、悟に聞きました。本当にありがとうございます」
内藤さんが私に向かって深く頭を下げてくれた。
「いいえ。当然の事です。私の所に来てくれた子供たちは、私が全力で守ります。だから、どうか頭をお上げください。それより、長らく入院をされていたと伺いました。今はお身体はもう大丈夫なのですか?」
「はい。ありがとうございます。おかげさまでもうすっかり良くなりました」
彼は優しそうな眼差しを私に向け、一度深く瞳を閉じ、再び目を開いた。
今までの経緯を、内藤さんから詳しく聞いた。
さっき王雅に聞いた事そのまま殆どだったけど、私だけじゃなく、サトル君にも内藤さんは話をした。
一日もサトル君を忘れたことなどなかった事や、どれだけサトル君に会いたいと思って今日まで過ごしてきたかという事、それら全てを。
「真崎先生。私の望みはサトルと暮らす事です。お陰様で今では新たな就職先も見つけ、そこにお世話になっております。貯えも十分とは言えませんが、きちんと今後も悟の面倒を見るくらいの金もありますから、何時でも息子は引き取れます。ご迷惑でなければ、手続きをお願いしたいです」
「承知いたしました」
サトル君がいなくなってしまうと、淋しくなるわね。
貴方とのお別れが、今日だったなんてね。
お別れは何時も、突然やってくる。
せめて期限が決まっていればいいのにと、何時も思う。この日までは施設にいれるって、明確に解っていればいいのに。
そしたらもっと、一日一日、その子と過ごす時間を大切にできるのに。
でも、私は常にその裏で覚悟はしている。
何時でもお別れができるように。
辛いけど、もう幾度となく経験してきたもの。
かわいい私の子供たちを、親元へ帰す事。
このために、私のできる精一杯で子供たちをお世話しているんだから。
でも、時々思う。
私が繋いだ手は、みんなそれぞれ別の誰かと繋がっている。繋がった先――家族の元へ帰っていく。
私だけいつも、マサキ施設に一人ぼっちで残される。
今までは恭ちゃんが傍にいてくれたけど、その恭ちゃんでさえ、もういない。
誰一人として、私の傍に残ってくれる人はいないの。
それが、堪らなく淋しくなる時がある。
どうしてかしらね。
「どうだ、話は進んでるか? ガキ共はとりあえず落ち着いたから、安心していいぞ」
王雅が応接室に現れて、声を掛けてくれた。
「王雅、子供たちを見てくれてありがとう。よかったわ。今ね、内藤さんから色々と聞いた所なの。こっち、座って?」
私の前に内藤さん、その横にサトル君が座っているから、王雅には私の隣に座って貰った。
狭い応接室のソファーだから、大人が二人並んで座ったら、いっぱいになる。
「真崎先生、櫻井さん、本当にありがとうございました」
内藤さんが私達に頭を下げてくれた。王雅がそんな事気にしなくていいから、と頭を上げるように彼に言ってくれた。
「お父さんも、ご苦労されたんですね」今までの経緯を聞いて、本当に大変だったんだと思った。「でも、サトル君にこんな素敵なお父さんがいるなんて、先生嬉しい! 良かったね、サトル君」
内藤さんの横で、サトル君は笑顔で頷いた。
「妻とは裁判します。離婚と、親権確保と、同時に進めます。また、こちらで今までお世話になったお礼は、後日お持ちさせていただきます」
「お礼なんて、結構です」
父子家庭でこれから沢山サトル君の為にお金が必要な内藤さんから、お礼なんて受け取れないわ。
「初めまして、私がマサキ施設の責任者、真崎美羽です。先程、櫻井さんから内藤さんの事を伺いました。貴方がサトル君の本当のお父様で、間違いないですね?」
「はい、間違いございません。この度は、本当に息子がお世話になりました。先程も、身体を張ってあの男から悟を守って下さったとか・・・・今、悟に聞きました。本当にありがとうございます」
内藤さんが私に向かって深く頭を下げてくれた。
「いいえ。当然の事です。私の所に来てくれた子供たちは、私が全力で守ります。だから、どうか頭をお上げください。それより、長らく入院をされていたと伺いました。今はお身体はもう大丈夫なのですか?」
「はい。ありがとうございます。おかげさまでもうすっかり良くなりました」
彼は優しそうな眼差しを私に向け、一度深く瞳を閉じ、再び目を開いた。
今までの経緯を、内藤さんから詳しく聞いた。
さっき王雅に聞いた事そのまま殆どだったけど、私だけじゃなく、サトル君にも内藤さんは話をした。
一日もサトル君を忘れたことなどなかった事や、どれだけサトル君に会いたいと思って今日まで過ごしてきたかという事、それら全てを。
「真崎先生。私の望みはサトルと暮らす事です。お陰様で今では新たな就職先も見つけ、そこにお世話になっております。貯えも十分とは言えませんが、きちんと今後も悟の面倒を見るくらいの金もありますから、何時でも息子は引き取れます。ご迷惑でなければ、手続きをお願いしたいです」
「承知いたしました」
サトル君がいなくなってしまうと、淋しくなるわね。
貴方とのお別れが、今日だったなんてね。
お別れは何時も、突然やってくる。
せめて期限が決まっていればいいのにと、何時も思う。この日までは施設にいれるって、明確に解っていればいいのに。
そしたらもっと、一日一日、その子と過ごす時間を大切にできるのに。
でも、私は常にその裏で覚悟はしている。
何時でもお別れができるように。
辛いけど、もう幾度となく経験してきたもの。
かわいい私の子供たちを、親元へ帰す事。
このために、私のできる精一杯で子供たちをお世話しているんだから。
でも、時々思う。
私が繋いだ手は、みんなそれぞれ別の誰かと繋がっている。繋がった先――家族の元へ帰っていく。
私だけいつも、マサキ施設に一人ぼっちで残される。
今までは恭ちゃんが傍にいてくれたけど、その恭ちゃんでさえ、もういない。
誰一人として、私の傍に残ってくれる人はいないの。
それが、堪らなく淋しくなる時がある。
どうしてかしらね。
「どうだ、話は進んでるか? ガキ共はとりあえず落ち着いたから、安心していいぞ」
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「王雅、子供たちを見てくれてありがとう。よかったわ。今ね、内藤さんから色々と聞いた所なの。こっち、座って?」
私の前に内藤さん、その横にサトル君が座っているから、王雅には私の隣に座って貰った。
狭い応接室のソファーだから、大人が二人並んで座ったら、いっぱいになる。
「真崎先生、櫻井さん、本当にありがとうございました」
内藤さんが私達に頭を下げてくれた。王雅がそんな事気にしなくていいから、と頭を上げるように彼に言ってくれた。
「お父さんも、ご苦労されたんですね」今までの経緯を聞いて、本当に大変だったんだと思った。「でも、サトル君にこんな素敵なお父さんがいるなんて、先生嬉しい! 良かったね、サトル君」
内藤さんの横で、サトル君は笑顔で頷いた。
「妻とは裁判します。離婚と、親権確保と、同時に進めます。また、こちらで今までお世話になったお礼は、後日お持ちさせていただきます」
「お礼なんて、結構です」
父子家庭でこれから沢山サトル君の為にお金が必要な内藤さんから、お礼なんて受け取れないわ。
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