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スマイル12・王様がバースデーパーティーを企画

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「おや、もうこんな時間ですね。お腹も空きましたし、何か食べに行きましょう。我々がご馳走しますので」


 そう言われて会議所を連れ出され、外回り用の白い社車みたいなものに乗せられ、随分遠くのお蕎麦屋さんに連れてこられた。
 昼食を摂るだけに、わざわざこんな遠くに来なくてもいいのに。

 王雅一人で留守番大丈夫かな。慣れてないから大変だろうし、早く帰らなきゃ。
 カレーちゃんと食べさせてくれたかな。まあ、リカちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど。
 とにかく質問には早く答えて、予定より早く帰らせてもらおう。


 食べに行った先のお蕎麦屋さんも、オーダーしてから麺を打ってゆがくというスタイルのこだわりの店だったため、注文してから商品が出て来るのに、随分時間がかかった。
 待っているこの間に答えられることは答えてしまいたかったのに、資料を持ってきていないから、とか、何とかはぐらかされ、結局二人があれこれ話しているのを、聞いているだけだった。

 お蕎麦屋さんから戻ってきたら、午後一時半くらいになっていた。
 それからも暫く似たような事を聞かれて、今後の施設の在り方、その他諸々、ややこしい書類を書かされた。
 行政の書類は書き慣れているから、様式タイプの書類をチャッチャと記入して、特に相手に質問もせず書き上げた。
 時計を見ると、午後二時半だった。
 これでも思っていたより随分と遅い。早く帰らなきゃ。

「書類も書けたので、これで失礼して良いでしょうか?」

「あ、いや、あの・・・・ここまでお付き合いいただいたのですから、珈琲でも出します。もう少し・・・・」

 行政の眼鏡のおじさんの方が、焦って私を引き留めて来た。
 狼狽しているように見えるのは気のせいかしら。

「今日、この打ち合わせの為に、不慣れな留守番の者に施設を任せてきました。大変だろうから、早く帰りたいのです。これ以上お話が無いなら、帰らせてもらいたいのですけど」

「真崎さん、会議所の融資等のお話を少ししませんか? 経営が大変だそうですから、会議所でお手伝いできるご案内を・・・・」

「有難いお話ですが、今その時間がありません。後日、施設に来てご相談に乗って頂く事はできませんか?」

 二人共黙ってしまった。

「では――」

 立ち上がり、帰ろうと思って会議所の一室を出ようとしたところ、二人が私の前に立ちはだかり、強く引き留められた。

「どうか、どうかもう少しこちらでお待ちください!」

「どうしてですか? もうお話合いは終わったはずです。帰らせて――」

「ダメなんです! 四時までは・・・・」

「四時まで?」

 思わず聞き返したら、行政の眼鏡のおじさんの方が、バカっ、と小さく怒って、しまった、という顔をしている会議所の方のおじさんを叱咤した。
 
「四時ってどういうコトですか? あなた達、どういう・・・・何のおつもりですか!」

 どうもおかしい。
 最初からずっと時間の事を気にしているし、のらりくらりと私の帰る時間を伸ばそう、伸ばそうとしているのが垣間見えるから。
 昼食がそうよ。普通ならそんなの食べさせたりせず、お弁当にするか、自己責任で休憩をはさむとかそんな程度なのに。

「とにかく帰ります!」

 強い口調で言ったら、泣きそうな顔をした会議所のおじさんの方が、すみません、実は・・・・と口を割った。




 この打ち合わせ、私の誕生日パーティやるために、王雅が仕掛けたものですってぇ!?




 そういえば、今日が自分の誕生日なこと、すっかり忘れていたわ。
 二十三歳になったのね。こんな場所で気が付くなんて。

 サプライズにしたかったから、手の込んだ企画を作って、私を施設から追い出したのね。


 ・・・・もう。何してるのよ、王様は。


 こんな事せずに、普通にお祝いしてくれたらいいのに。



 でも、私の為に色々考えてくれていたんだ。
 嬉しい気持ちになったのは、嘘ではない。

 振り回された感はスゴイあるけど。
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