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スマイル8・王様の宣言

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 今日は久々に朝から心が穏やかだった。
 ホテルの件もカタ着いたから、立ち退き要請の為に毎日来ていた王雅も暫く来ないと思うし、子供達とゆっくり楽しくお遊戯をしようと思った。
 恭ちゃんも私の事が心配だって、忙しいのに、今日も朝早くから施設に来てくれた。

 王雅の事、一応報告しておいた。
 施設の土地は彼のものになった事、今後は無償でこの土地を貸してくれる事を伝えた。

 王雅の夜の相手をしなければならない事については、お互い触れなかった。
 言ってもどうしようもないし、恭ちゃんを傷つけるだけになってしまうだろうから。
 私だって好きな男に、別の男に抱かれなきゃならないような話はしたくないし。


 朝ごはんを食べさせて、恭ちゃんと手分けして片付けを行って、九時からお遊戯をした。

 最初は紙芝居を読むことにした。
 みんなが大好きな、桃太郎のお話。

 私もずっと、美幸おかあさんや久信おとうさんに読んでもらったな。
 読んでーって言うと、二人のうちのどちらかが、必ず私の要望に応えてくれた。
 この紙芝居を見ると、優しくて、大好きな両親を思い出す。


「みんなー、今日は紙芝居を先生が読むから、静かに聞いてねー」

「やったー!!」

「はーいっ!」

 子供達は元気よく返事をしてくれて、私の目の前に迫ってきた。
 

「みんな、ちょっと近すぎるわ」


 圧迫感、凄いって。
 子供達に囲まれて、更にずいずい迫って来られた。


「せんせーい、早く読んでーっ!」

「みーちゃん、早くーぅ」

「せー」

「ミュー先生っ! ももたろー、歌って―っ!」

「はやく、はやくーっ」


「わかった。もう、みんな、ちょっと落ち着いて」

 口々にあれこれ言われて、みんなを落ち着けるのに時間がかかってしまった。


「むかしむかし あるところに――・・・・」


 紙芝居を読みだすと、みんなキラキラと目を輝かせて、絵に釘付けになっている。
 かわいい、かわいい、私の子供達。

 みんなと過ごすこの時間が、何よりの幸せよ。
 恭ちゃんもいてくれるし、本当に幸せ。


「もー! もーっ!!」


 大きな桃が流れて来る絵を見ると、決まって興奮するのは、まだ二歳のキューマ君。
 キューマ君はちょっと発達遅れなところがあって、同じ二歳の子供達より随分お喋りが遅く歩くのも遅い。

 でも、誰よりもカワイイ笑顔で笑う、悪戯好きの男の子。
 目が大きくて、少しだけカールのかかった柔らかく短い黒い髪をしていて、まるでお人形みたいにカワイイの。
 歩くのが上手じゃないから、私が手を離せない時、他のみんながキューマ君を助けてくれる。移動する時なんかは、必ず誰かが傍について、手を繋いでくれるの。


 マサキ施設では、みんなで助け合って、肩を寄せ合って生きている。


 貧乏だから節約料理が多いし、玩具とか沢山買ってあげる事はできないけど、それでも、愛情は誰にも負けないくらいにたっぷりかけて育てているわ。それだけは、唯一自慢できる事よ。

 だから、子供達はみんな優しい。お友達を大切にできる心を持っている。
 傷ついた過去があるからこそ、他人を傷つけたり、差別したり、そんな事は絶対にしない。
 まあ、子供ならではのケンカは絶えないけどね。
 仲がいい証拠。


「キューちゃん、もも、美味しそうだねぇー。アイリ、もも食べたーい」


 アイリちゃんがキューマ君の傍で笑った。
 アイリちゃんは、お喋りがとっても大好きな、のんびり屋さんの四歳の女の子。
 ゆるい天然パーマがかかった肩までくらいの黒い髪をしていて、ちょっとタレ目でカワイイ女の子なの。
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