上 下
24 / 287
スマイル6・王様との契約

しおりを挟む
 
「何なんだよ、その花井からの提示条件! 俺に言え!!」

 私は唇を噛みしめ、恭ちゃんはこめかみを押さえて黙り込んだ。


「言えっつってんだよ!!」


 王雅は恭ちゃんの胸倉を掴んで、再び怒鳴った。「言えっ!!」

「やめてよっ! 恭ちゃんに乱暴しないで!! 言ったら、アンタが何とかしてくれるの!?」

 王雅の腕を振りほどいて、恭ちゃんの前に立った。
 これ以上、恭ちゃんを傷つけないで。

「ああ。いいぜ。話つけてやっても。その代わり、俺の条件呑んだらの話だ」

「条件て、何よ」

「俺のオンナになれ、ミュー。今日から俺の相手しろ。お前の身体、よこせ」


「いいわよ」


 なんだ。条件て、私の身体が目的なの。
 つまらない男。花井と一緒ね。男って、みんな女を無理矢理手に入れる事しか、考えられないのかしら。


 好きでもない男なら、誰と寝ても一緒よ。
 まあ、花井じゃない分、王雅の方が遥かにまだマシね。
 この男の夜のお相手女の方がずっといいし、どうせ抱かれるなら、まだこのお坊ちゃまの方がいいわ。まあ、不愉快な事には変わりないだろうけど。

 今は自分の思うようにならないから、王雅にとったら私が珍しいだけだろうし、飽きたら向こうから勝手にポイしてくれるでしょ。

 ポイ捨てされるまでの短い期間の我慢、とでも思えば気が楽だわ。
 何にせよ、あの最低のクズと結婚しなくていいんだもの。最高じゃない。
 

「ホンキか?」


 間髪入れずにイエスの返事を入れた事、自分から言い出したクセに王雅は驚いていた。

「ウソでこんな事言うわけないでしょ! どっちみち同じよ。どっちみち、ね」

「美羽、やめろ!! もうよせっ!!」恭ちゃんが叫んだ。

「いいのよ、恭ちゃん」何故か笑顔が出た。「あの日から、私は何時だって覚悟は出来てる。でも、あんなジジイの所にお嫁に行くよりいいでしょ?」

「嫁? どういうことだ? 全く話が見えねーから、説明しろ」

「花井のヤツ、私を嫁にしたいんだって。嫁になるなら、施設の地代も無しにしてくれるし、土地も売らないって。毎月地代の百万円払うか、花井の嫁になるか、施設を出て行くか。この三択ってコト! で、アンタは? 私を好きにする代わりに、施設守ってくれんの? 別に私に飽きてポイするのは勝手だけど、ちゃんと施設は最後まで守ってよね。ホテルの計画潰して、花井の事もカタつけてくれたら、私、アンタの言う事何でも聞くわ」


「俺に出来ない事なんて、無い。いいぜ。お前が言った事、全部俺が今日中にカタつけてやる」


 王様が不敵に笑った。
 便利屋だから、仕事は早いもんね。
 お手並み拝見といきましょう。
 
「解った。じゃ、アンタの用意した契約書にサインするわ」

「そんなもの、いらねーよ。契約書が無いからって、約束を破ったりするような、お前はそんなセコイ女じゃねーだろ? 俺は約束は守る。必ず。特別に前働きしてやるよ。だから今夜、セントラルプリンスホテルに来い。この施設を潰そうとしてるホテルだ。最上級の部屋取っておいてやるから、俺の相手しろ」

「いいわ。約束する」

 皮肉なものね。この施設を潰そうとしているホテルで、私が娼婦にさせられるってワケなのね。
 こうなったら、何にでもなるわ。花井の嫁なんかよりも、娼婦になる方がずっといい。
 私に飽きるまで、どうにでもすればいいのよ。


「美羽っ!!」恭ちゃん叫んだ。「ウソだ!! そんな人身売買みたいなことが、赦されると思ってるのか!? 櫻井さん、お願いします! この施設はもう諦めますから・・・・僕達、言うとおり立ち退きます。だから美羽を、そんな風にオモチャにするのは、やめてください!!」

「うるせー! これは、俺とミューとの契約だ。お前がしゃしゃり出てくんな。もう決まった事だ。じゃ、ミュー、今夜十時だ。いいな?」

「ええ。行くわ」

「待ってるぜ」


 彼は勝ち誇ったような顔で笑い、去り際、恭ちゃんに何か囁いて帰って行った。
 


 王雅。結局アンタも花井と一緒。同じ部類の最低な男なのね。


 まあ、王雅は女性慣れもしているだろうし、私の事なんか、せいぜい二、三回抱けば飽きるでしょ。
 ちょっと辛抱すれば、自由になれるのよ。


 クズの嫁にならなくて済むかもしれない事に、正直安堵した。


 王雅。しっかりやってよね。
 花井の嫁にならなくて済むなら、私のこの身体、幾らでもアンタの好きなようにしていいから。




 もう二度と私の前に、花井が現れない事を心から願うわ――


 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】婚約者と幼馴染があまりにも仲良しなので喜んで身を引きます。

天歌
恋愛
「あーーん!ダンテェ!ちょっと聞いてよっ!」 甘えた声でそう言いながら来たかと思えば、私の婚約者ダンテに寄り添うこの女性は、ダンテの幼馴染アリエラ様。 「ちょ、ちょっとアリエラ…。シャティアが見ているぞ」 ダンテはアリエラ様を軽く手で制止しつつも、私の方をチラチラと見ながら満更でも無いようだ。 「あ、シャティア様もいたんですね〜。そんな事よりもダンテッ…あのね…」 この距離で私が見えなければ医者を全力でお勧めしたい。 そして完全に2人の世界に入っていく婚約者とその幼馴染…。 いつもこうなのだ。 いつも私がダンテと過ごしていると必ずと言って良いほどアリエラ様が現れ2人の世界へ旅立たれる。 私も想い合う2人を引き離すような悪女ではありませんよ? 喜んで、身を引かせていただきます! 短編予定です。 設定緩いかもしれません。お許しください。 感想欄、返す自信が無く閉じています

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

処理中です...