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スマイル5・王様と義理兄

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 子供達の昼食を終わらせ、恭ちゃんと応接室で向き合った。
 暑くなってきたから、アイスハーブティーを淹れてあげたら喜んでくれた。
 久々に飲めて美味しいって。やっぱり落ち着く味だ、と微笑んでくれた。


 ドキドキと高鳴る、胸の鼓動が抑えられなかった。


 自分から手放したクセに、恭ちゃんに戻って来て欲しいって思うなんて――自分勝手なこのキモチは、絶対に恭ちゃんに知られちゃいけない。


「美羽、今月の援助分。少しだけど。振込するのは手数料がかかって勿体ないし、今日は手渡しな。あ、足しに使ってくれって、彼女からも援助金として貰ったんだ。一緒に受け取ってくれ」

「ありがとう。ごめんね、何時も無理させて」


 封筒に入ったお金を受けとった。
 施設を出てからは、恭ちゃんの方も色々準備があったり仕事を覚えたりしなきゃいけなかったりで、全然施設に顔を出したりすることが出来なくなってしまったから、久々に会えて本当に嬉しい。施設の援助金だといって、何時も私の口座に自分の自由になるお金の殆どを振り込んでくれる。
 恭ちゃんの婚約者も、たまに援助金として施設の為に、ってお金を包んで渡してくれる。


 優しい女性。恭ちゃんをとても大切にしてくれる。
 私より、ずっと。

 それにしても、相変わらず恭ちゃんも貧乏性ね。振込手数料が勿体ないなんて。そんな事をアチラさん(高田製菓)で言ったら、どんな貧乏人だ、って笑われないか心配になる。

 それより、もっと上手にやりくりして、私も内職の仕事見つけて、恭ちゃんや奥さんにこれ以上迷惑を掛けないようにしなきゃ。
 でも、恭ちゃんが振り込んでくれるお金があるから、どうにか辛うじて赤字にならずにすんでいる。


「いいんだ。僕が好きでやっている事だし、美羽が気にすることは無いよ」

 恭ちゃんは本当に優しい。

「ありがとう。じゃあ、遠慮なく使わせてもらうね」


 恭ちゃんが一生懸命働いたお金だから、大切に使おう。
 婚約者からの援助金も、本当に助かる。
 何時か余裕が出た時に、絶対に返したい。

 正直使うのが勿体ないけど、使わないと施設の経営が回らない。

 本当に何とかしたい。もう少し利用料とか、せめて親御さんから貰えたらいいのに。
 今現状、殆どタダ同然で全員を預かっているからなぁ。


 でも、マサキ施設の門を叩いた以上は、私が絶対に子供達を守ってみせるわ。
 お金の事さえ何とかなれば、もう少し楽なんだけどね。赤字にさえならなかったら、別に儲からなくてもいいのよ。何人でも面倒見るわ。
 
「それより美羽、さっきの櫻井って男が気になることを言っていたんだ。地代――そろそろ花井との契約更新だろう。今日はその話をしに来たんだ。あの時は三年という期限をつけていたが、今回はどうだろう。それに、契約書の事も、花井がすり替えるとかどうとか、あの男は何やら言っていた。書類を確かめたいから、出してくれないか?」

「ええ。王雅と恭ちゃんのやりとり、聞こえていたから私も気になっていたの。でもね、書類にはあの時から何も触れていないし、ずっと恭ちゃんが保管してくれていた時のままよ。仕事部屋に置いているから取って来るね」

 急いで仕事部屋に向かった。
 四畳半程度の狭いその部屋には、簡易机と鍵の掛かった書類棚が置いてある。
 簡易机の上にはパソコン、プリンター、書類棚には施設に関わる大事な資料や書類が収めてある。
 契約書は、一番棚の上の一番左端に置いてある。

 私は開錠して棚の扉を開けて土地関係の書類が収められている封筒を取り出し、応接室に戻った。
 恭ちゃんに封筒を渡して、向かい側の応接ソファーに腰かけた。
 封筒の中身を取り出し、書類に目を走らせた恭ちゃんの顔が、みるみるうちに険しいものに変わっていった。


「どう・・・・なっているの?」


 恭ちゃんの様子を見れば、さっき王雅が言ったように、書類がすり替えられているのだろうという事が容易に解ったけれど、聞かずにはいられなかった。

 


 どうして


 いつ


 どうやって



 書類をすり替えたりできるというの――





 
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