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スマイル5・王様と義理兄
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しおりを挟む「いーから、誰なんだよ! さっさと教えろ」
「・・・・お兄ちゃんだけど。私の」
恭ちゃんが誰だって、王雅に何の関係も無いと思うんだけど。
王雅は、恭ちゃんが私のお兄ちゃんだって解った途端、どういうワケかほっとしたような顔を見せ、すぐ何時もの調子を取り戻して、エラソーな王様みたいな顔で私に詰め寄って来た。
「ミュー、お前、お兄ちゃん相手に頬染めたりしてんのかよ。きもちわりーな」
「なっ・・・・気持ち悪いですってえ!?」
っていうか、そんな顔に出てた!?
王雅の暴言より、そっちの方が気になった。
「お前みたいなオトコオンナが、デレデレしてきもちわりーって忠告してやってんだよ!」
「ちょっと、櫻井さん、でしたね」
まだ暴言を撒き散らす王雅から私を守るように、恭ちゃんが立ちはだかった。
「これ以上、僕の美羽を傷つけるような事を、チンピラの君に言わせておけませんね。もう、お帰りいただきたい。君は他にやるべき事があるでしょう? 僕達をこれ以上君のつまらない言い合いに巻き込まないで欲しい」
キッパリ言い放ち、さあ、中へ入ろう、と私の肩を抱き、施設の中へ連れて入ってくれた。
――僕の美羽
まだ、心臓がどきどきしている。嬉しくて仕方ない。
解ってる。それは、あくまでも妹を守るために、王雅に言ってくれただけなんだって事くらい。
でも、恭ちゃんだって私の事――時々オンナとして意識してくれてる時があるって、垣間見える時があった。
施設の為に結婚なんか決めないで、義理とはいえ兄妹なんだから、このまま別に結婚できなくても、寄り添って一緒に居る事ができれば良かったのに――
ただ、もともと施設の土地を無料で貸してもらっていた以前と違って、さっき王雅と恭ちゃんとのやり取りで出て来た、花井という私がこの世で一番憎み嫌う男が、その土地を手に入れ、地代を払わなければいけなくなってから、ただでさえカツカツの施設財政を圧迫していたのは否めない。
徐々に施設の財政が赤字で苦しくなって、でも、やっぱり同じように苦しむ人からは施設利用料金をどうしても貰う事が出来なくて、でも、預かることも止められなくて、施設を手放すしかないという選択肢に迫られた時――恭ちゃんが、結婚を決めて来た。
高田製菓という、老舗和菓子の会社の社長令嬢との結婚を。
というのも、恭ちゃんはサッカーが得意で、地元の有志のサッカーチームで結構活躍していた。
事ある毎にヘルプを頼まれ、頼まれたチームの勝利に一役買っていた。
社長令嬢は、プロ顔負けのサッカープレイをする恭ちゃんに、一目惚れしたらしい。
それで、結婚を前提にお付き合いしてもらえないだろうか、と、ある日突然施設にやって来た。
恭ちゃんはサッカーが本当に巧いし、Jリーガーになるのが夢だった。
その彼は、自分の夢を追うことなく私の為に施設にとどまってくれて、更にその施設の為に大事な人生まで賭けてくれた。
大切な施設を手放して、好きな男の手を取って、貧乏でも一生懸命働いて、つつましやかに暮らしていける幸せを頭に描いてみたけれど、今預かっている子供達の手を離すことはとても出来ないし、あの子たちを守ってあげられるのは、私しかいないって思った――だから代わりに、恭ちゃんを手放した。
手放すっていうのも、おかしいけど。
繋いでいた手を離したのは、私の方。
結局私は、好きな男と施設を天秤にかけた時、施設を選ぶような女なのよ。
恭ちゃんの方も、それを解っている。私が、そういう女だってこと。
でも、恭ちゃんのお陰で施設が持ち直したのはまぎれもない事実。
施設を援助する条件で恭ちゃんはその社長令嬢との結婚を決め、高田製菓の役員となって施設を出て、今はその会社で働いている。
もし恭ちゃんが私との生活を取り、マサキ施設に残ったままだったら、間違いなくココは手放す事になっていただろうから。
やっぱり私は、大切なこの城を守るしかない。
施設と同じくらい大切な、恭ちゃんを手放したんですもの。
絶対、何があっても、命を懸けて守り続けるしかない――
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