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スマイル3・王様がコロッケに興奮

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 買い出しを終えて施設に戻ってきたら、私の帰りを待ってましたとばかりに、子供達が出迎えてくれた。
 門のカギを開けてくれて、問題なく今日もちゃんと留守番をしていてくれた。
 兄の真崎恭一郎――私は恭ちゃんと呼んでいる――が施設を出て一人になってからは、子供達を残して買い出しに出かけるっていうこのスタイル、本当に心配だから何とかしたい。

 行政に見つかったら、アウトなやり方だと思う。
 昨日の事もそうだけど、無関係な人を巻き込んで留守番させるなんて無責任なやり方になっているから何とかしなきゃいけないのは解っているんだけど、人を雇うお金の余裕も無いし、留守番を頼める親しい身内も恭ちゃん以外いないし本当に困っている。

 施設を立ち退きすれば金銭的な問題は解決するのは解っていても、この施設はどうしても両親が私の為に建ててくれた大切な施設だから、絶対に、手放したりすることは出来ない。


 私はマサキ施設を、命を懸けて守っているの。


 でも、私の経営のやり方がマズいから、殆ど赤字になってしまう。
 お金がもう少しあればな、って何時も思う。無駄遣いはしていないつもりだけれど、支出に対しての収入が少なすぎるのが原因。


 解っていても、困っている人からどうしてもお金を貰う事ができない。


 私が頑張れば何とかなることなら、何でもやるんだけどな。
 いい内職の仕事無いか、また募集のチラシチェックしよう。そうだわ。足りない分は別に私が稼げばいいのよ。
 これからはもっと、頑張って出来る仕事こなしていこう。
 目標は、留守番くらい雇えるようになりたいわ。


「皆、お腹空いたでしょ? ゴメンねっ、すぐご飯にするから、お手伝いお願いね!」


 施設内に入って時計を見ると、十一時半だった。
 既にオムライスの下準備はしてあるから、後はチャッチャと卵焼いて、子供達に食事の用意を手伝ってもらおう。
 コロッケを荷物持ちに持たせたままだというコトに気が付いて、私は慌ててセクハラ大王を呼んだ。


「ちょっとー、アンタも来なさいよー!」


 私の声にいち早く反応してくれたガックンと同じ六歳の、毎朝欠かさず髪を結ってツインテールにしているおしゃまな女の子――リカちゃんの二人が、セクハラ大王を連れてきてくれた。

「ミュー先生、お兄さん連れて来たよー!」

「有難う。じゃあ、皆でスプーン用意してくれる? お兄さんから包み受け取って、こっちにお願い」

 皆を食堂に誘導するように二人にお願いして、私はオムライスの準備に取り掛かった。
 保温の釜に入れてあるチキンライスと温めておいた手作りのデミグラスソースを確認して、卵を手際よくかき混ぜて焼いていく。
 並べた十三枚のお皿にチキンライスを均等に盛っていると、さっきのお兄さんの分は? ってガックンに聞かれてしまった。

「あぁ・・・・さっきのお兄さんの分は無いの」

「ええーっ、ミュー先生、お買い物も手伝ってくれたのに、お兄さん一人だけ食べられないの可哀想です。こんなに美味しいオムライスなんだから、お兄さんにも食べさせてあげて下さい」

 ガックンは本当にいい子。優しいし、真面目。
 でも、あんなセクハラ大王に優しくする必要なんて無いのよ?

「ガックン、ありがとう。でも、お兄さんが来るって先生知らなかったから、お兄さんの分は作ってないの」

「じゃあ、みんなの少しずつ分けてあげたら、お兄さんの分も出来ますか? 困った時は、みんなで分ける――先生がいつも僕たちに教えてくれます!」

「・・・・そうね、そうだったわね。解ったわ、ガックン。じゃあ、お兄さんの分もスプーン用意してあげて?」

「はーい!」

 ガックンは嬉しそうに人数分のスプーンを用意して、食堂へ走って行った。


 はあー。何であのセクハラ大王に、私達の貴重な昼食をご馳走してやらなきゃいけないのよ。
 でも、アイツを何も食べさせずに追い返したりしたら、ガックンが悲しむわ。


 昼食代として、二、三百円くらい払って欲しいところだけど・・・・まあ、荷物持ちのお礼と思いましょう。
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