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スマイル1・王様をビンタで成敗

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「はぁーあぁぁぁ・・・・」


 家計簿を見て、超特大のため息が出た。
 今月、本っっっ当にピンチだわ!
 さっき支払いを終えて、帳簿と照らし合わせた財布を見たら、残金四百七十二円。――ありえない。

 ついこの前、チイちゃんという可愛い二歳の女の子が、ここ、マサキ施設にやって来たの。
 目がくりっとしていて、ほっぺがぷにぷにで、本当にカワイイ女の子。愛らしい笑顔がチャーミングで、あっという間に施設でも人気者になった。

 私が経営する施設では、六歳未満の子供を中心に、現在十二人の子供を預かっている。以前までは義理兄の真崎恭一郎と二人で施設経営をしていたけれど、彼は施設を援助してくれる令嬢と結婚を決め、この施設を出て行ってしまった。だから、今は一人で奮闘している。
 経営と言っても、そんな立派なものじゃない。赤字の帳簿とにらめっこしながら、その日暮らしの生活をしているだけ。

 自慢じゃないが、裕福な施設ではない。この施設は私が幼い頃、両親が個人で建てたものだから、年季も入っていてオンボロだし。
 節約して切り詰めてはいるのだけれど、一人子供が増えた事によって、食費、紙オムツ、電気代、諸々必要経費がかさんでしまい、それがジリ貧施設の財布を圧迫しているのは否めない。子供達のご両親は訳アリの方が多いから、預かり費用も殆ど貰えず、国から出る補助金、それに加えて兄の恭一郎が定期的に送金してくれる、支援のお金が施設の収入源だ。


 冒頭でため息を漏らしたのは、財布の中身の残金が五百円を切ったからだ。


 補助金の入金日は一週間も先なのに、こんなにピンチになっちゃうなんてっ。
 私のやりくりがいけなかったのかしら。節約上手なのに、おかしいわね。一日三百円もあれば、子供達全員を食べさせていける自信があるのに。
 あっ。そうか。少し前にお手洗いの水漏れ修理をしたんだ。これが結構、ピンチの財布に打撃を与えた。
 貧乏なのは今に始まった事じゃないけれど、ここまで酷いなんて。
 どうしよう。もうすぐリョウ君の誕生日もあるのに。

 リョウ君は、チイちゃんと同じく施設で預かっている、大切な子供のうちの一人。

 チリチリの天然パーマがかかっていて、目も丸くて、おさるさんのようにカワイイ、素直でいい子。もうすぐ五歳の誕生日だから、プレゼントに新しい玩具を買ってあげたいわ。勿論、リョウ君だけじゃなくて、みんな可愛い私の子供達よ。マサキ施設に来てくれた子供達は、我が子同然、大切に育てているの。

 誕生日のプレゼント代と、一週間凌げるだけのお給料が貰えるような、短期のアルバイトをしようと思って折り込みチラシの求人広告を見た。希望は内職だけれど、募集は皆無。この不景気だもんね。仕方ないわ。

 私ができそうな仕事が他に無いか探していると、求人広告の中央辺りに、大きく『Club雅-miyabi-女性スタッフ募集』という見出しがあった。
 日給一万円以上、アナタの頑張り次第で高給をお約束! 短期・体験も可〇、日給即支払い可〇、交通費全額支給、連絡頂いた当日から即出勤できます、と書かれていた。

 クラブかぁ・・・・。

 仕事内容は、女性が男性の傍にべったりくっついて世間話して、お酒ついで、みたいな感じよね。私にできるかな。
 子供とならいくらでも話は出来るけれど、知らない男の人と話すなんて、なんだかイヤだなぁ。でも、短期で日給一万円以上は、財政難の私には超魅力的・・・・。

 あ、体験の事詳しく書いてある。えー、どれどれ。体験の場合、時給二千五百円。体験でもそんなに貰えちゃうの!? 凄いわね。金銭感覚おかしくなりそうな時給だわ。
 えーっと、午後八時から、十二時まで働いて計四時間で一万円。看板に嘘偽り無しね。
 そんなに遅くまでは無理だけど、午後十時迄の勤務でも可、って書いてある。しかも交通費貰えるなら、クラブの所在地は銀座だけど、今の残金なら何とか電車で行ける。

 この際貰えるなら、五千円でもいいわ!

 リョウ君がラジコン欲しいって言ってたから、プレゼント代に半分使っても、半分残る。そしたら、残金で一週間凌げるわ!!
 そしたら補助金の振込日まで、何とかなる。私の節約術は凄いのよ!


 よしっ、決めた。クラブで一日体験のアルバイトしよう!

 

 
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