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世界一の女・2

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 無駄にだだっ広いリビングダイニングに行くと、既に両親は揃って俺達を待っていた。

「王雅。わざわざ私達を呼び出して、話って何なの? 次のスケジュールがあるから、手短にして頂戴」

 オフクロから話について聞いてきた。
 相変わらず隙の無い身のこなし。俺とよく似た切れ長の目の上に引かれた、紫のアイシャドウにワインレッド色の口紅。きっちりアップにまとめた長く黒い髪は、何時見ても同じだ。
 流石はデザイナーだと思うが、家でオフクロの崩れた姿を、俺は一度も見たことが無い。


 久々に会うっつーのに、挨拶もなけりゃ、お帰りも言ってもらえない。
 ま、そんな事を言ってもらった事、今まで一度もねーけどな。別に今更言って欲しくもねーし。

 オフクロは俺の隣にいる美羽に気づいているクセに、その女性は誰かと聞いてもこない。


 やっぱ、美羽やマサキ施設とは違う。


 俺がどんなに功績を残しても、どんなに仕事で大成しても、この二人から褒められた事も、ねぎらわれた事も、叱られた事さえ一度も無い。俺に関心が無いんだ。


 美羽は、未来プロジェクトの事を立派だって褒めてくれた。
 大変な事を一人で背負って頑張る王雅は凄いねって、抱きしめてくれたんだ。


 美羽がくれる言葉は、今まで何もなかった無機質で冷たい俺の心を、いつも温かく包んでくれるんだ。
 そんな彼女を大切にしたいって、心から思う。
 
「俺、この女性と結婚しようと思うんだ。彼女は、真崎美羽さん。施設経営をしてる、一般の女性だけど」

 オフクロが美羽を一瞥した。「そう。話はそれだけ?」

 オヤジに至っては、一言も無い。

「いや、話はそれだけって・・・・俺、この人と結婚するけど、いいのかよ?」

「貴方が自分で決めたのでしょう。好きになさい。そんなつまらないことで、いちいち呼び出さないで。私達、忙しいの。王雅も、もういい大人なのだから、解るでしょう?」


 何だコイツ等。マジで俺に興味ねーっつーか、俺はどーでもいー存在なんだな。
 結婚に反対もしなけりゃ、賛成もしないってか。


 俺って一体、何なんだろう。
 一人息子が結婚するんだぜ? つまんない用事か?
 お前等と家族になる女、目の前に連れてきてんだけど。
 それとも、俺は家族じゃないのか?

 一応、実子的な立ち位置だし、櫻井グループとか、どーすんだよ。
 俺に継がせる気ねーのか?
 別にいーけどさ。




 なんかもう今の一言で、櫻井家が自分の中で本当にどうでもよくなった。




 
「お忙しい中、お時間を取って頂きありがとうございます。私、真崎美羽と申します。両親は他界しており、貧乏な上に血筋も誇れるものではありませんが、どうか、王雅さんとの結婚を許して頂きたく、お願いに上がりました。これ、つまらないものですけれど、受け取って頂けないでしょうか」

 来る途中で買った手土産をオヤジの方に差し出しながら、美羽が頭を下げた。

「もういい、美羽。頭なんか下げなくても。今の聞いただろ? コイツ等は俺の事についてはずっとこんな調子だ。今に始まった事じゃない。昔から俺の事なんて、どーでもいーんだ。誰と結婚しようが、何しようが、二人には何の関係もねーし、不祥事起こさず、不利益な事さえしなきゃ、別に構わねーんだ。とりあえず報告はしたんだ。もう行こうぜ」



 俺の言葉に、両親も立ち上がろうとしたその時――



 
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