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奪われた権利書・1
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俺は新しいオーナーが待っているという、応接室に足を踏み入れた。
「・・・・どういうつもりだ、花井!」
俺が本当に警戒しなきゃいけなかったのは、キノコなんかじゃなくこの男の方だったんだ。
「やあ。これはこれは、櫻井の坊ちゃん。流石察しがいい。お久しぶりです。その節はどうも」
「どういうつもりかって聞いてんだよ! 土地の権利書、どーしたっ!」
「土地をお譲りいただき、誠にありがとうございます」
「ふざけんなっ!! 俺が何時――」
権利書の新しいもののコピーを、目の前に突きつけられた。
この男は本物の権利書を盗み出し、偽造して新しいものにすり替えるなんてことは朝飯前にやってのけるんだ。勿論、法的に偽造しているから、この書類は本物だ。
書面には色々記載してある。見間違いであって欲しいと願ったが、残念ながら書面は本物のコピーに相違なかった。以前の土地の持ち主欄は、俺――櫻井王雅の名前が記載してあり、現在の正式な持ち主は、花井 康(はない やすし)となっていた。
迂闊だった。
美羽に預けっぱなしだった大切な権利書が、こんなセキュリティ皆無のマサキ施設に放置されていたんだ。
勿論書類の保管をする以上、鍵くらいは付けていただろう。仕事部屋にでも置いていたハズだ。
キノコや美羽の様子から察するに、それをキノコが――あるいは真凛か――が盗み出し、花井の手に渡したんだろう。
俺が美羽に張り付いている手前、以前のように上手く権利書を盗み出すことができなかったモンだから、キノコ兄妹が俺の気を引くように仕向け、施設に潜り込ませ、上手く使って成し遂げたんだろ。
幼い頃から見知っていて美羽が信頼している二人なら、警戒もされないと踏んだに違いない。
彼等が急に施設にやって来たのは、花井の手引きがあったのか。
美羽を本当に狙っていたのは花井だって、どーして俺は気が付かなかったんだ!!
卑怯な手で美羽を手に入れようとしていた男だっつーのに・・・・。
自分のアホさ加減に、怒りが沸いた。
「美羽さんに新しい交渉をしたところです。彼女は良い答えを聞かせてくれましたよ」
権利書のコピーをチラチラ振って、花井が不愉快な笑みを浮かべた。
「櫻井の坊ちゃんを二度とこの施設に立ち入らせない事、私の妻となる事、この二つです。入籍の日取りも決めました。そういう訳ですから、美羽さんにもこの施設にも、二度と近づかないで下さい」
「ふざけんな!! 偽造書類の上に、無理矢理結婚させるなんて犯罪だろっ! そんな交渉がまかり通るとでも思ってんのか!!」
「真崎恭一郎さんにも同じような交渉をされていたのは、どこのどなたでしたっけ?」
昔の俺のやり口の痛い所を突かれた。確かに俺も花井に加担させ、同じようなコトを恭一郎にやった。
あれは、本当に悪かったと反省している。その為、恭一郎には詫び代わりになる事を、現在進行形でやっている最中だ。
俺は今まさに、その時の恭一郎の立場というワケか。
はははは、と花井は高らかに笑った後、薄汚く濁った目で俺を睨みつけた。
「美羽さんは、お前みたいな金持ちが道楽で手を出してもいい女性じゃないんだよ。消えろ、クズが」
最低のクズ男からクズ呼ばわりされて、キレそうになった。
「クズはお前だろーが。一緒にすんな! 花井、俺を敵に回したら、どーなるかわかってんだろーなぁ?」
「私を酷い目にあわそうとしたら、子供達がどうなるか・・・・まあ、よくお考え下さいね」
ニタニタと笑い、花井は立ち上がった。
「そういう訳です。お引き取り下さい。もう、坊ちゃんがこの施設に立ち入ることは一切禁じます。破れば、子供達に制裁を加えます」
「・・・・解った。もうここには二度と来ねーよ。ガキ共には絶対、手、出すな」
こーいう事だったんだな。ガキ共があんなに取り乱して泣き、美羽が俺に施設に来るなと言って泣くワケだ。
「・・・・どういうつもりだ、花井!」
俺が本当に警戒しなきゃいけなかったのは、キノコなんかじゃなくこの男の方だったんだ。
「やあ。これはこれは、櫻井の坊ちゃん。流石察しがいい。お久しぶりです。その節はどうも」
「どういうつもりかって聞いてんだよ! 土地の権利書、どーしたっ!」
「土地をお譲りいただき、誠にありがとうございます」
「ふざけんなっ!! 俺が何時――」
権利書の新しいもののコピーを、目の前に突きつけられた。
この男は本物の権利書を盗み出し、偽造して新しいものにすり替えるなんてことは朝飯前にやってのけるんだ。勿論、法的に偽造しているから、この書類は本物だ。
書面には色々記載してある。見間違いであって欲しいと願ったが、残念ながら書面は本物のコピーに相違なかった。以前の土地の持ち主欄は、俺――櫻井王雅の名前が記載してあり、現在の正式な持ち主は、花井 康(はない やすし)となっていた。
迂闊だった。
美羽に預けっぱなしだった大切な権利書が、こんなセキュリティ皆無のマサキ施設に放置されていたんだ。
勿論書類の保管をする以上、鍵くらいは付けていただろう。仕事部屋にでも置いていたハズだ。
キノコや美羽の様子から察するに、それをキノコが――あるいは真凛か――が盗み出し、花井の手に渡したんだろう。
俺が美羽に張り付いている手前、以前のように上手く権利書を盗み出すことができなかったモンだから、キノコ兄妹が俺の気を引くように仕向け、施設に潜り込ませ、上手く使って成し遂げたんだろ。
幼い頃から見知っていて美羽が信頼している二人なら、警戒もされないと踏んだに違いない。
彼等が急に施設にやって来たのは、花井の手引きがあったのか。
美羽を本当に狙っていたのは花井だって、どーして俺は気が付かなかったんだ!!
卑怯な手で美羽を手に入れようとしていた男だっつーのに・・・・。
自分のアホさ加減に、怒りが沸いた。
「美羽さんに新しい交渉をしたところです。彼女は良い答えを聞かせてくれましたよ」
権利書のコピーをチラチラ振って、花井が不愉快な笑みを浮かべた。
「櫻井の坊ちゃんを二度とこの施設に立ち入らせない事、私の妻となる事、この二つです。入籍の日取りも決めました。そういう訳ですから、美羽さんにもこの施設にも、二度と近づかないで下さい」
「ふざけんな!! 偽造書類の上に、無理矢理結婚させるなんて犯罪だろっ! そんな交渉がまかり通るとでも思ってんのか!!」
「真崎恭一郎さんにも同じような交渉をされていたのは、どこのどなたでしたっけ?」
昔の俺のやり口の痛い所を突かれた。確かに俺も花井に加担させ、同じようなコトを恭一郎にやった。
あれは、本当に悪かったと反省している。その為、恭一郎には詫び代わりになる事を、現在進行形でやっている最中だ。
俺は今まさに、その時の恭一郎の立場というワケか。
はははは、と花井は高らかに笑った後、薄汚く濁った目で俺を睨みつけた。
「美羽さんは、お前みたいな金持ちが道楽で手を出してもいい女性じゃないんだよ。消えろ、クズが」
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「クズはお前だろーが。一緒にすんな! 花井、俺を敵に回したら、どーなるかわかってんだろーなぁ?」
「私を酷い目にあわそうとしたら、子供達がどうなるか・・・・まあ、よくお考え下さいね」
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「そういう訳です。お引き取り下さい。もう、坊ちゃんがこの施設に立ち入ることは一切禁じます。破れば、子供達に制裁を加えます」
「・・・・解った。もうここには二度と来ねーよ。ガキ共には絶対、手、出すな」
こーいう事だったんだな。ガキ共があんなに取り乱して泣き、美羽が俺に施設に来るなと言って泣くワケだ。
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