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スマイル28

ビジネスビジョン・5

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「ああ、ワリぃ。行き過ぎちまったな。教えてくれてありがとう、キューマ」

 柔らかい頭を撫でると、キューマは何時もの愛くるしい笑顔を見せてくれた。
 男の子だけど、チイとは違う可愛さがある。マジでカワイイ。
 目に入れても痛くないって、名言だと思う。俺、多分キューマを目に入れても、痛くない自信がある。

 あ、キューマの親は今、逮捕されててムショ(刑務所)にいるんだ。調べておいた。
 だから、俺からキューマを奪おうとするコトについては安心だ。そんで、刑期を終えてムショからのうのうと出てきたら、コテンパンにしてやるつもりだ。
 興信所に頼んで、出所日はもう調査済み、SPも手配済だ。俺の仕事の速さは、世界最速だ。
 親は出所と同時に、捕獲だ。出てきても、シャバじゃなくて地獄が待ってんだ。
 キューマを酷い目に遭わせた罪は、死ぬより重いぞ。覚悟しとけ。


 キューマは、二度とお前等の元へは返さねーからな。俺の傍で大事に、きっちり育ててやる。


 ま、そんな先の話はどーでもいい。
 それより、メシだ。

 俺とキューマが遅かったから、他のガキや美羽達が、俺達の分までキッチンから運んで、用意してくれていた。


「みんな、揃った? それじゃあ、今日も――」


 神に祈って、イタダキマス。美羽が号令をかけた。

 俺は例の如く、美羽と愛し合える事、ガキ共と幸せに暮らせる事、ガキ共がもうこの施設から居なくならない事、世界一の男になれる事を神に祈った。

 毎回真剣に祈るモンだから、何時も隣の席に座ったガキの誰かに、お兄さん、お祈りはもういいよ、って言われちまう。
 何かここ暫くで、願い事が急増した。今まで何の願いも無かったんだ。神のヤツも叶えるのは大変だろーけど、今まで願わなかった分まで、全部叶えてもらいたい。
 相変わらず美味い飯をみんなで食って、片付けも全員で手分けしてやった。
 今までは美羽が、一人で走り回って片付けなんかをこなしていたんだ。お前等が手伝わなきゃいかんだろ、と注意したら、全員が手伝う、となり、逆に収拾がつかなくなってしまったんだ。

 まあ、それも楽しいから、これからは、全員で手分けするってコトで落ち着いた。
 施設に居ると、何でも楽しい。一生、ここで暮らしたい。


 今日の夕飯が済んだら、あの広大な冷蔵庫屋敷に帰らなきゃいけないのかと思うと、今から重いため息を吐きたくなる。


『日曜日の夜って一番憂鬱だな、月曜日から学校だ――』


 小学校に通っている時、クラスメイトがそんな事を言っていたのを思い出した。
 その時は、何言ってんだコイツ、って思ってバカにしてたけど。
 俺は家に居ようが学校だろうが、どっちでも同じようなモンだったから、ソイツの言っている意味が解んなかったけど、今なら解る。ものすごーく解る!!


 そうだ。
 俺は月曜日・・・・いや、日曜日の夜から冷蔵庫屋敷への出張が待ってんだ。
 だから、日曜日の夜が一番憂鬱だ。次の土曜日まで、一番遠いんだ。
 もう、こんなあったかい世界を知ってしまったら、お前等が居ない冷蔵庫の家なんて、帰れるワケねーだろ。まだ車で寝泊まりしている方が遥かにマシに思えるくらい、あの家には帰りたくない。

 俺、施設の一番近くのマンションかアパート、何でもいーから部屋借りようかな。
 朝飯だけでも一緒に食わせてくんねーかな。いや、別に一緒に食わなくてもいーから、美羽やガキ共に会いたい。いってらっしゃい、って俺を送り出して欲しい。


 でも、あんまり無理言って美羽に負担かけるのも悪いから、これは我慢するしかねーよな・・・・。
 ああぁあ・・・・美羽と合体もしたいけど、最近ガキ共と離れるのもマジで辛いから、どーにかなんねーかなぁ。


 週末のビジネスマンなんて、メチャクチャ辛いな。毎日帰宅ビジネスマンがいいな。出張とか、マジで勘弁して欲しい。


 家族は離れちゃいけない。だからキングフェザーは、転勤や単身赴任はさせないつもりだ。
 地方に支社を作った場合、社員は現地採用を中心にすればいーんだ。出張はこの際致し方ないから、できるだけ日帰りで、無理なら単発で短い期間にして、辛抱してもらうしかねーな。

 万が一の時は、ソイツに家族が居たら、必ず家族全員の同意を取らせるつもりだ。離れ離れにはさせらんねーから、全員で赴任先に引っ越ししかない。

 赴任する場合は、この同意を取れた場合のみとする。取れない奴の転勤は不可だ。やるなら、独身でフットワークの軽い男を使うのがベストだろう。

 恋人がいる場合は、これも不可だ。ここも、恋人が一緒に赴任先へ行く覚悟と同意がなけりゃ、ダメだ。行かせることはできない。



 俺は、美羽と離れるとか、絶対に、ぜ――――ったいに無理だからな。




 
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