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スマイル19

父親・3

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 SPはこっちで使ってるから、施設の警備がガラ空きになっちまったんだ。
 たった数万円の金欲しさに、サトルを取り返しに坂崎のヤツが、施設に乗り込んで来たに違いない。

「リョウ、待ってろ! すぐ行くっ!! サトルは? サトルは無事かっ!?」

「わかんないっ・・・・怖いよお・・・・ひっく・・・・うわあぁあぁーん!!」堪らずにリョウが電話口で泣き出した。

「大丈夫、近くに居るからすぐ行く! 待ってろ、リョウ! サトルから目を離すんじゃねーぞ! 俺が行くまで、堪えてろっ」

 リョウみたいな小さいガキにそんな事言ってもムダとは思うが、つい叫んだ。急いで電話を切り、内藤の方を向いた。

「説明は後だっ! 俺と一緒にマサキ施設に行くぞっ! アンタが探している、サトルが居るんだ!! サトル、今メチャクチャ危険だから急ぐぞっ!!」

 敬語を使うのも忘れて、俺は内藤に向かって叫んだ。

 SPも同行するよう促し、内藤の腕を引っ掴んで、施設目指して走り出した。
 俺がグズグズ悩んでだから、こんなことになっちまったんだ。
 さっさと事情を話して施設に向かってりゃ、ガキ共を怖い目に合わすことも無かったかもしれないのに。

 ホント、最低だ。何やってんだ、俺。

 大急ぎで施設に行くと、美羽とサトルと坂崎が施設の小さな広場でモメていた。
 坂崎は恐ろしい罵声を美羽に浴びせているが、彼女は微動だにせず、大柄の力の強い坂崎から、サトルを取り返そうと必死になっている。


「悟っ、悟――っ!!」


 泣き叫ぶ我が子の姿を見た内藤は、サトルの名前を呼びながら、坂崎に強引に連れていかれようとしている小さなサトルの腕を取り、大柄の坂崎に体当たりした。
 内藤は細いから、坂崎はビクともしなかった。しかし、負けていない。サトルを奪い返すと、ぎゅっと抱きしめて坂崎から守ろうとして、その場で蹲った。

「なんだ、テメエ、邪魔すんなっ!」

 坂崎が内藤の背中を蹴飛ばした。しかし内藤はサトルを強く抱きしめて、サトルに危害が及ばないよう、身体を張って守っている。

「悟、もう大丈夫だからな。お父さんが守ってやるからな! 怖かったな。今まで助けてやれなくて、ごめんな、ごめん・・・・」

 震えるサトルに、内藤は優しく声をかけている。ボロボロと涙をこぼしていたサトルは、必死に内藤にしがみついている。



――やっぱ、親父なんだな。ちゃんと、サトルの事守ってやがる・・・・。



「このや――」


 この野郎、とでも言いたかったのだろう。再度内藤を痛めつけようとしていた坂崎は、SPに羽交い絞めにされ、瞬時に落とされた。
 俺は、泡を吹いて気絶した坂崎を一瞥して、片づけといてくれ、とSPに頼んだ。彼等は承知しました、と一言発し、何事もなかったかのように、坂崎を連れて去っていった。


「美羽、大丈夫か!?」


 サトルは内藤がついてるから、俺が行かなくてもいいだろう。それよりサトルを守るために、あんな恐ろしい男に臆せず立ち向かっていた美羽の方が心配だ。さぞかし怖かっただろう。彼女に駆け寄り、声をかけた。「怖かっただろ? もう大丈夫だからな!」

「・・・・王雅、わざわざ来てくれたの?」

 もっと震えてるかと思ったけど、全然平気そうだ。強い女だな。
 もしかしたら、今までにもこういう修羅場が数多くあったのかもしんねーな。

「ああ。気になって色々調べたんだ。この前、サトルの母親――千夏を追い返しただろ? 千夏には同棲してる男が居てな。さっきの男だよ。数万円の金欲しさに、サトルを連れ戻しに施設に乗り込んでくんじゃねーかって思って、心配だからこっそりSPに見張らせてたんだ。俺の思い過ごしかもしんねーから、美羽には言ってなかったんだ。黙ってて悪かった」
 
「そうだったの。どうりで、いつもと施設近くの雰囲気が違うと思った」

 勘の鋭い女だな。SPの気配に気づくなんて、相当だぜ。
 ま、それだけ常に色んな事を考え、周りに気を配って生きてんだな。

「・・・・それより王雅、あの男性は? お父さんって言ってたと思うけど、どういう事?」

「サトルの、本当の親父だよ。ま、コッチも色々あってな――・・・・」


 俺は、簡単に内藤の事を説明した。俺の会社の取引先の人間であること、さっきの車での出来事、サトルと別れる事になったいきさつ等――。


「そう。解ったわ。後はこっちでやるから、王雅は仕事に戻って。ごめんね、迷惑かけちゃって」

「気にすんなよ。乗りかかった船だ。付き合うぜ。外出許可貰ってるから、仕事は差し支えねえよ。大丈夫だ。俺も、内藤に話あるからな。あ、それよりガキ共大丈夫か? 坂崎が怖かったみたいで、リョウの奴、俺に泣きながら電話してきたんだ。ちょっと見てきていいか?」

「ありがとう。じゃあ、子供達のこと、お願いしてもいい? 私は、内藤さんとサトル君を応接室まで案内しておくから、子供達の様子見て大丈夫そうだったら、王雅も後で来て」

「オーケー」

 俺は急いで施設内に入った。ガキ共を探すと、遊戯室の隅の方で固まって泣いたり震えたりしていた。
 
「お前等、大丈夫か? 怪我とかしてねーか?」

 俺は優しく声をかけながら、ガキ共の傍に行った。
 見知った顔を見て安心したのか、全員泣きながら俺に飛びついてきた。

 怖かったな。ごめんな、俺がもっと早く来てやってれば、こんな思いさせずに済んだかもしれねーのに。
 あんなトコでグズグズ悩んでたから、コイツ等をこんな怖い目に合わせちまったんだ。
 俺が悪かった。本当にごめん。


「おーたん、おーたん・・・・うえっ・・・・うわあぁあぁーん!」


 何時も俺の事を『おーたん』と呼んでくれる、二歳のチイが俺のスーツのジャケットを小さな手でぎゅっと掴んで大泣きしている。
 最近小さいガキをあやすことが増えたから、特にチイが俺に懐いてくれて、何時も後をついてきてくれるんだ。小さいから、まだカタコトでお喋りする、目の大きくてほっぺがぷにぷにの、カワイイ女の子だ。
 この前、施設で夕飯を食って帰る時、俺が帰るっつったら、大泣きして大変だったんだ。
 でも、こんな俺の事必要としてくれるのは、スゲー嬉しいんだ。

 チイは将来、絶対美人になると思う。つまんねー男に、嫁になんてやれねーな・・・・って親みたいな事考えちまうんだ。


 こんなに大切なガキ共を、傷つけ泣かせたんだ。
 坂崎。死ぬより恐ろしい目に合わせてやるからな。覚悟してろよ。
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