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スマイル13・プール作り

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 美羽の誕生日以来、一週間が経った。もうすぐ夏本番を迎える季節にさしかかっている。
 秋になったら本格的に俺の仕事が忙しくなるため、美羽とどうこうなるなら、今しかねえ。夏だし、できればホテルのプールとか貸し切って、二人きりでイチャイチャしたいもんだ。
 何時になったら、そーゆーコトできんだろ。

 っつーか、保留とはいえ、プロポーズ断られたもんな。
 ショックだったし、顔合わせ辛くて1週間施設行かなかったけど・・・・でも、もう我慢の限界だ。
 美羽に逢いたい気持ちが抑えられなくて、昨日、今日の分まで仕事さっさと片付けて、一日空けたんだ。

 俺は、なんとなくわかってきた。
 美羽を落とすには、やっぱりガキ共が鍵だ。
 ガキ共を俺様に手懐け、喜ばせる。そしたら美羽も喜ぶし、コロッケスマイルも見放題。
 んで、俺に惚れるってワケだ。
 ここに考え付く俺様は、やっぱり天才だな。フッ。


 そんなワケで今日は、俺様の財力で施設にスゲーもん作ってやろうと思ってんだ。
海外から取り寄せた、珍しい形のプールを設置し、プール開きをするのだ。施設そのものにプールを作ってやるんだ。

 美羽とホテルのプールに行けないなら、自分で作るしかねーだろ?

 邪魔なガキが居るのはこの際仕方ねえ。我慢してやるよ。
 それに、ここは貧乏施設だから、プールなんて誰も行ったことねーだろーな。だから、ものすげーヤツ作ってやって、ガキ共をアッと驚かせてやるんだ。
 アイツ等が喜んでくれると思うと、何故か俺も嬉しくなるんだよな。
 それに、プールだったら、なんつっても、美羽の水着が拝めるからな。エロ美羽を心置きなく見放題ってワケだ。

 プールのことだが、貧乏施設は水道代だってケチってるはずだ。
 本当は水も運びたかったが、とにかくこの施設の立地は悪い。路地が狭すぎて給水車が入らねえから、水を運ぶことは断念した。仕方ないから、水道だけはマサキ施設のものを使うことにした。苦肉の策だ。

 あ、でも、大丈夫だ。美羽が水道代を心配しなくてもいいように、抜かりはねえぞ。

 今日一日、マサキ施設の水道は使い放題で水道局員に話を付けた。焦る水道員に、1千万円ほど押し付けてきたからな。
 こんなに必要ないって言われたけど、使い切らなくて余った分は、今後の水道代の足しにしてくれってことにしておいた。要するに前払いにしてもらったワケだ。
 っつーか、マサキ施設の水道代って驚くほど安かった、施設の規模にしちゃあ安い方って水道局員も言ってたしな。水道代って結構安いんだな。でも、俺様の家はたぶんもっと高いと思う。
 俺が置いてきた金があれば、もしかしたら今後マサキ施設は、一生水道代払わなくてもいいかもしんない。

 俺は今まで、水道代が幾らかかるとか、もったいないとか、何も考えたこともなかった。
 美羽と出会ってから、初めての事ばかりだ。
 俺は頼んでおいたプール設置業者と共に、マサキ施設にやってきた。相変わらずボロい壁に門扉。今度綺麗に直してやろう。

「じゃ、始めてくれ」

 小さな広場に、取り寄せたプールを並べさせた。空気を入れて大きくするチャチなやつだが、子供にとっては楽しいものになるだろう。ガキ共はこれで遊んでいれば、美羽の手も空くし、俺は、美羽の水着姿が拝めれば、何でもいいからな。

 大きめのものを中央にひとつ、小さなものを3つ、園内に所狭しと並べた。だいたいこれくらい置けばいっぱいかな、という読み通りだった。これ以上はもう置くことができねえ。
 広場の滑り台も利用して、中央に滑り台付きのプールを作ってやった。俺様はなかなかのアイデアマンだ。美羽も感動するに違いねえ。
 準備がそろそろ終わる頃合を見計らい、俺は施設へと入った。まだ少し早い時間だったから、朝食中だろう。食堂の方へ向かった。
 ガラガラとやかましい音をたてる扉を開け、中に入ると思った通りだった。
 大机をくっつけて、皆の顔が見えるように配置されている個々の席にガキ共は座って食事をしていた。入ってすぐ、中央に座っていた美羽と目があった。俺の気配を感じたガキ共も、一斉にこちらを向いた。

「よお、久しぶり」

 一週間ぶりに逢う美羽を見て、俺はドキドキした。自分でもわかる程に、心拍数が異常だ。
 この調子だったら、美羽が水着になったら、俺の心臓は破裂するかもしれないな。でも、そんな程度で倒れるわけにはいかねえ! まだヤッてねーからな。


 死ぬなら、美羽と交わってからだ!!


「こんな朝早く、どうしたの?」

 相変わらず、そっけない。噂のツンデレってやつだ。俺もちょっと前まではそうだった。やられる側に立つ日が来るとは、夢にも思わなかったが。

「ちょっと面白いことやろうと思ってさ、来たんだ」

 爽やかな笑顔を湛え、俺は美羽の傍まで行って用意しておいた紙袋を渡した。
 綺麗にラッピングされてあるが、中身は右が赤、左が黒色の、中央にゴールドリングが付いていて、面白く交差した、セクシーハイレグ水着だ。美羽のナイスバディにきっとピッタリだろう。早く見て―な。
 手間暇かけて施設にプール作るなんて壮大な計画を立てたのも、全部この水着姿のお前が見たいからだ!!

「お前ら、メシ食ったら外に来いよ! 面白いモン用意してるから!」

 ガキ共がざわめきだした。なんだろう、面白いもの気になる、とか、騒いでいる。
 外で待ってるからな、と俺は立ち去り際、美羽に囁いた。「コレ、絶対着てくれよな」


 俺はいち早く水着に着替え、ラッシュガードを羽織ってサングラスを装着した。
 日影ができるよう、パラソルも設置させたんだ。俺と美羽がゆっくりできる場所だ。
 紫外線でシミなんかできてもイヤだから、日焼け止めはたっぷり塗っておいた。
 準備を整え、外で待つこと数分。
 何事かと気になるガキ共が、我先にと施設から出てきた。完成したプールを見て、驚いている。


「すっごーい!! お兄さんが作ってくれたのですかっ!?」


 ガっクンが目を輝かせて喜んでいる。


「そうだ。もっと喜べ。俺様も嬉しいぞ」

「わーいっ! ヤッター、すごーい!!」

「お兄さん、ありがとうございます!!」

 食事を終えて出てきたガキ共が、口々に俺に向かって礼を言う。

「水着も用意してあるからな。好きなの取って、着替えたヤツから自由に遊んで構わねーぜ。浮輪や水鉄砲もある。あ、準備運動はちゃんとやれよ」

 この前面倒みたから、ガキ共に対する扱いも慣れた。俺の言うことは結構素直に聞いてくれるから、かわいいってもんだ。
 ガキ共は好きな水着を手に取り、その場で素早く着替えると、プール施設と化した園内で思い思いに遊びだした。

 早速滑り台がにぎわっている。芝滑りなんかで良く滑るプラスチックのやつを置いておいたら、結構人気が出ているようだ。
 モメそうだったから、順番を守る事、割り込んだりしないよう、注意しておいた。
 ソワソワしながら待っていると、まだ着替えをしていない美羽が怒った顔をして、俺の前までやって来た。

「まだ着替えてねーのかよ。早くしろ。ガキ共と遊ぶぞ」

「アンタね、何考えてんのよ!? あんなハズカシー水着、どういうつもり? バカじゃない・・・・って、えっ、これ、プール? ここに作ったの!?」

「うん。そーだけど。ガキ共、プールとか連れて行ってやったことなんて、ねーだろ」

「ええ。無いわ。そんなお金無いし」

「だから、俺が作ってやった! ガキ共が喜んでくれるかなーって思ってさ。案の定だ。スゲーだろ! 滑り台なんて園のヤツだけど、本物のプールにあるような滑り台にしたんだ。結構人気あるんだぜ。見てくれよ」


 どーだ見たか、俺様のアイディアの結晶を! マジで苦労したんだぜ。


「ホントだ・・・・すごい!」

 よし、美羽の反応は上々だな。でも、水道代金の心配をしている顔になってるぞ。俺にはわかる。
 だから、今すぐ安心させてやらなきゃならねえ。

「あ、俺が勝手に計画したんだから、水道代とか、心配要らねーぞ。ちゃんと前払いしてきたからな。施設に負担がかかる事も無いし、金払ってはいるけど、無駄遣いしないように使えばいい。ビニールシートでフタしておけば、何日でも遊べるし、業者に水の検査もさせる。邪魔になったら片付けさせるから、今年の夏は気が済むまで、思い切りこれで遊んだらいいから」

「・・・・ありがとう」

 美羽は心底安心した顔で、嬉しそうにしている。よしよし。いいぞ。
 それにしてもカワイイ顔だな。キスしてやろうかな。でも勝手にキスしたら怒るだろうな。

「なあ、早く一緒に入ろーぜ。あ、服はダメだぞ。全員水着に着替えさせたからな。俺だって、水着だ。プールは服だと溺れるからな。絶対禁止だ。ガキ共に教えとかなきゃいけねーだろ」

「私は、Tシャツでいいわよ。泳がないし」

 言うと思った! でも、抜かりはねえぞ。俺様をナメんな。
 口八丁はお手のもんだぜ。見せてやる。

「何言ってんだよ、美羽。ガキ共、お前の事さっきからずーっと待ってんだぜ。お前が来なきゃ、ガキ共がガッカリして、プールで遊ぶの、やめちまうだろ。その水着を俺様が用意したのも、いきなり来てプールするっつっても、気の利いた水着なんて持ってねーだろーと思ったから、買ってきてやったんだ。俺様に感謝して、早く着替えて来いよ」

「どうせ買うなら、もっとフツーなやつ買ってきなさいよね」

 普通の水着なんぞ、誰が買うか。
 お前が着る水着は、俺好みの超セクシーなやつしかダメだっつーの。

「急だったし、買いに行ったらそれしか無かったんだよ。ガキ共見てんぞ。ゴチャゴチャ言ってねーで、早く着替えて来いって」

「・・・・わかった」


 しぶしぶ納得した美羽は、施設の中に消えていった。
 よっしゃあ。俺様の今までの苦労が、遂に報われる時がやって来た!
 それにしても、あー長かった。いよいよ、美羽のハイレグが拝めるってワケだ。

 嘘も方便、計画万歳、上手くいって良かったぜー!
 頑張ったかいがあったもんだ!!
 これで着てくれなかったら、暴れてるトコだけどな。

 再度ソワソワしながら待っていると、セクシーハイレグを身に着けた、プロポーション抜群の美羽が現れた。

 赤と黒のコントラストが、白い肌に調和してる。胸元はかなり開いているから、白いマシュマロのような胸が零れ落ちそうな具合だ。はみ出てこないか心配になる。
 美羽は胸、結構大きいからな。俺の推測はEカップと見た。
 他のオトコ共が居ないからいいものの、コレは殺人級だな。オトコなら全員ヤラれちまう。
 厳密にいうと施設にも男がいる。リョウとかガックンや、その他のガキも男だが、まだ小さい子供だから大丈夫だろう。できれば見せたくねーけど。

 そんな感じで冷静に分析しているが、本当はそうじゃない。
 一発で、俺様がヤラれた。

 彼女を見た瞬間、俺の時間は止まった。



 写真、撮りてー!! スマホのヒミツの待ち受けにしてえー!!




 っつーか、抱きてぇえぇえ―――――!!




 あれこれ考えながら無言で見つめてると、美羽が恥ずかしいからあんまり見ないで、とちょっと照れている。




 うおおおおお――っ、なんじゃ今のは!! マジかわいい――――っ!!




 生きてて良かった―――!!





 俺は心の中でモーレツ興奮して、でも、それは顔には出さずに、美羽の肩に手を回した。「遅い、行くぞ。」


 ガキ共の前に美羽を連れて行き、ホラ、美羽先生が来たぞー、と声をかけた。
 美羽はあっという間にガキ共に取り囲まれた。ガキ共は初めてのプールで大興奮だ。一緒に遊ぼう、と大はしゃぎ。さっそくビーチボールで遊びだした。
 俺は、美羽のセクシー水着姿を少し離れた所でじっくりと見つめるつもりだったが、彼女を取り囲んでいる奴等とは別のガキ共に捕獲された。リョウやガックンもその中に居た。

 先ず、リョウが俺に水鉄砲を渡してきた。説明を受けたが、水鉄砲で撃ち合いゲームをやるらしい。それに、強制的に参加させられることになった。
 俺様は何でも一番にならないと気が済まねえ性格だ。
 だから、たとえガキ共とやりあうゲームとはいえ、容赦はしねえ!

「ホラホラ、つぎは誰が撃たれてーんだあ!?」

 二丁拳銃もとい水鉄砲で、ガキ共をどんどん撃っていく。
 二つもずるい、キャー、とかワー、とか言いながら逃げ惑うガキ共を追いかけるのは、非常に楽しかった。
 一緒になって本気で遊んでいると、俺様の顔面めがけて水が飛んできた。誰かが水鉄砲を撃ったものが、俺様にクリーンヒットしたってワケだ。

「こらっ、誰が撃ちやがった!?」

 見ると、アカンベーをしているリョウが少し先にいた。「コイツー、赦さんぞ」

 俺はリョウを担ぎ上げ、中央のプールに加減して放り込んだ。

「ハッハッハ。俺様に勝とうなんて、百万年早い」

 ザバーンと勢いよく音を立て、水の中に放り込まれたリョウは、顔を出して満面の笑みを浮かべている。すると続いて傍にいたガックンが俺の背中めがけて大量に水を撃ってきた。

「おまえも、赦さんぞー」

 同じように捕獲して、中央のプールに放り込んだ。
 楽しかったようで、他のガキも同じようにやってくるから、俺は全員の相手をしてやった。


 美羽はどうしているかと探したら、目が合った。


 俺達の事を、優しい眼差しで微笑み、見つめている。いつものコロッケスマイルとはまた違う、優しい微笑みを浮かべて。
 かなりセクシーな水着だから、まるで、エロい聖母マリアのようだ。


 ドキン


 心臓が、跳ねた。
 いいな、ガキ共は。
 何時でも、こんな風に美羽に見つめられて。
 俺なんか、見られるのは怒った顔ばっかりだ。

 でも、今日みたいに皆で遊べる作戦なら、俺にも笑顔向けてくれんだな。

 やべ。そう考えるだけで、嬉しくて仕方ねえや。
 もう、俺ダメだな。美羽が好きすぎて、どーしよーもねーや。


 ビシャア


 美羽に見とれている俺様の顔面に、水鉄砲から発射された水が、クリティカルヒットした。

「あはははっ、やったあ! 当たったわ!!」

 俺が美羽に見とれてぼんやりしている間に、彼女は水鉄砲を手にして笑っていた。
 今のは、美羽が撃ったんだ。
 俺の顔面に水がヒットしたもんだから、満面の笑みで喜んでいやがる。


 なんだよ、美羽。
 お前、今日、メチャメチャかわいいじゃねーか!!


 あぁあぁ、もう、そのエロい水着全部はぎ取ってしまいてえぇえ――!!


 このまま押し倒して―けど、ガキ共いるから無理だしな。ここが貸し切りホテルで、誰もいない二人きりだったらいいのに。
 無理なら無理で、多少強引にするしかねえ。
 とにかく、俺はあの白いマシュマロのような美羽の胸に触りたい。願いはただひとつだ。だから、どさくさに紛れて、マシュマロに顔を埋めるまではいかなくても、ちょっとだけでも触ってやろう作戦を決行することにした。

「やりやがったな!」

 マシュマロ作戦は、あくまでも、自然にだ。決してお触り目的だということを悟られてはいけねえ。
 悟られた瞬間、ビンタ炸裂だからな。
 っつーか、ホント、アイツは暴力女だよな。この女のドコがいーのか、何故惚れてるのか、たまにわかんなくなる時あるけど、でも、やっぱ好きなんだよな。
 今、めちゃ幸せ感じてるし、楽しいもんな。
 こんなことは、生まれて初めてなんだ。

 俺は、美羽を追いかけた。美羽はガキ共と一緒になって、キャー、王雅が来るー、とかカワイイ声だして逃げていく。
 俺は逃げるマシュマロを追いかけた。

「ちょっと、なんで私ばっかり追いかけて来るのよっ」

「俺様の顔面にヒット飛ばしただろっ。お礼参りだ」

 二丁水鉄砲で美羽の背中を撃った。ヤダ、つめたーい、とか言ってるけど、無視。
 撃ったら水に溶けてしまう水着だったらいいのにな、と思いながら、俺はひたすらマシュマロを狙って撃った。
 白くて美味しそうなマシュマロは、水を浴びて更につやつやと輝いている。
 まるで俺に食べられたいかのようだ。

 散々水鉄砲で撃った水を浴びせ、マシュマロをコーナーに追い込んだ。

「ちょっと王雅、大人気なさすぎるわよっ」

「まだ勝負は終わっちゃいねーぞ」

 ジリジリと詰め寄る俺に、後ろから大量の水が降り注いだ。

「ミュー先生を守れ――!!」

「オーっ!!」

 ガキ共が一斉に俺を狙い撃ちにした。

「うわっ、コラ、フルボッコとか卑怯だろーが! わぷっ」


 激しい水しぶきに襲われ、俺は堪らず目を閉じた。後ろに下がるとコーナーの隅だ。逆に俺様が追い詰められた。美羽はとっとと隅から逃げ出して、あははは、と大笑いしている。

「こんのー、よくもやったな!! 絶対に赦さんぞ!」

 俺は二丁拳銃に水を補充し、目を閉じながら鉄砲を撃った。ガキは大勢居るんだ。どっかに当たるだろ。
 反撃されたのもあり、再びガキ共が逃げ出した。


 それから結局、俺が延々ガキ共を追い回すハメになり、プールタイムは終了した。
 結局マシュマロは、触れなかった。


 それだけが、もの凄く心残りだった。




 ※※※




 プールの後は、遅めの昼食を摂った。美羽が拵えたきつねうどんだ。ダシも上手くとってあって、美味かった。それを全員で食って、プールで冷えた身体を温めた。
 その後、二人がかりで遊戯室のホールに布団を敷いて、全員を寝かせた。
 いつもは大概、一人か二人は昼寝中抜け出すガキがいるのだが、今日は全員くたばった。
 よほど疲れたのだろう。全員ぐっすり昼寝中だ。

 俺と美羽は、応接室でソファーに座り、向かい合っていた。今日はアイスハーブティーを淹れてくれた。施設で育てているハーブで作ったんだとか。一口飲むと、ハーブの爽やかな香りが清々しく、美味かった。


「王雅、今日は本当にありがとう。用意してくれたプール、本当に施設で貰ってもいいの?」

「ああ。構わねーぜ。結構楽しかったな。またやろうぜ。暇見て来るから。ガキ共と遊ぶの楽しいし」

「そっか。子供たちも本当に喜んでくれたし、楽しかったから、遠慮なく貰う事にする。水が大丈夫なら、近くの子供たちも誘って、暫く遊ぶことにするわ。色々考えてくれて、本当にありがとう!」

 嬉しそうに微笑む美羽のその顔を見れただけで、俺は満足だ。
 指輪や花束渡したときより、喜んでるもんな。
 本当に自分の事よりも、ガキ共の方が大切なんだな。

 その調子で、俺の事も大切にしてくんねーかな。
 あっ、それよりも、今、この部屋にふたりっきりなんじゃねーのか!?
 やべっ。変に意識してしまったから、急にドキドキしてきた。

 そういえば、プロポーズ断られて、まだ一週間なんだ。
 今すぐ良い返事をよこせと言いたいところだが、多分、今それ言っちゃまずいよな。
 たった一週間じゃ、俺への気持ちが劇的に変わってるとは、冷静に考えても思えねえな。

 ということは、つまり、良い返事じゃないってことになるよな。


 でも、暫く待っても結果が一緒だったら、目も当てられねーぞ。
 もし断られたり、フラれたら――


 いや、こんな超最優良物件の俺様の申し込みを、2度も断るアホいねーだろ!?
 でも、この女は俺様が初めての事づくしなんだ。ありえなくない。



「何黙ってるのよ、難しい顔して」

「あ、いや、別に」

 黙りこくって不吉な考えに没頭している俺を、美羽が呼んだ。
 ごまかせ。俺、なんとかごまかすんだ!

 しかし、気の利いたことが何も思いつかない。

「珍しいね。王雅が無口になるなんて」

「ああ。お前に見とれてたんだ」

 本音だった。今日の美羽は特にカワイイ。多分、いつもより多く俺に笑顔を向けてくれているからだ。考え事をしながらでも、彼女の顔を見つめ続けていた。

「・・・・またそんな冗談、もう止めてよ」ため息を吐かれた。

 その言葉に、カチンと来た。


「冗談じゃねーよ!!」


 もう、ゴチャゴチャ考えたり、まどろっこしーのはやめだ! 性に合わねえ!!
 キレた勢いで、俺は向かい側に座っている美羽の傍まで行って、応接室の簡易ソファーに押し倒した。「何度も好きだっつってんだろ! まだわかんねーのか!」

「わかんないわよっ! どうせ、今までに居ないタイプだから、私が珍しくてちょっかいかけてるだけっ――」

 うるさい美羽の口を、キスで塞いだ。そういえば、ちょっと前もこんなことがあったな。
 俺達のやりとりは、何も進まないのか。
 ま、それよりも・・・・メチャクチャ柔らかくて溶けそうだ。
 好きな女とキスするのは、こんなにもドキドキして難しいんだな。
 でも、気持ちいい。このまま繋がっていたい。
 噛みつかれたらイヤだから、ディープキスは避けておくことにする。前の時は失敗したからな。これだけでも進展しているだけ、マシか。


「好きだ、美羽」


 美羽を好きだという気持ちを込めて、何度も何度もキスをした。

 女にこんなキスをしたのも、初めてだった。

「前にも言ったけど、お前が、俺様の事を好きだって言うまで、何度でもやってやる。心から俺様の事を好きだって言うまで、ずっとだ」

「言うわけないでしょっ! 同意もなくこんなことして!!」

「知るか。俺様がキスしたいのに、なんでお前の同意なんかイチイチ取らなきゃいけねーんだよ。したいからするんだよ。それに、俺が好きだって言わせるったら言わせるんだ! 美羽、好きだ好きだ好きだ!! 俺は、お前が大好きなんだよ!! お前も俺を好きになれ! わかったか、バーカ」

「・・・・ホントに無茶苦茶ね、アンタ」

 あはは、と美羽が笑った。王雅らしいって、カワイイ顔で。


 おい、美羽。
 俺のスイッチ、あんま入れんなよな。
 タダでさえ全開の俺様の気持ちが、もう、抑えられなくなんだろーが!!

「マジ、カワイイ」

 美羽の耳元で囁いて、彼女を強く抱きしめた。「メチャクチャ、お前の事が好きだ、美羽」

「苦しいんだけど」

 俺様に抱きしめられてクレームをつける女は、美羽が初めてだった。
 
「離してやるもんか! こんだけ、好きだっつってんだ。何度も冗談みたいに扱いやがって! そんなハンパなんかじゃねえ。俺様が本気だってこと、早く解りやがれ、バカ女。この先、ずっと一生、誰よりも俺がお前の事、愛してやるから。だから、早く俺のオンナになれ!」

 吐息がかかりそうな程の近い距離で、美羽の顔を見つめた。
 少し薄い茶色の長い髪、柔らかい肌、大きい瞳、小さな鼻、艶のある唇。
 どれもが可愛く、愛しく思える。

「そんな事言うのは、今だけよ。どうせ手に入ったら、すぐ飽きてポイするでしょ」

「ポイなんかしねーよ!」

 不毛なやり取りだ。さっきもそうだが、このセリフ、前回もこんなやり取りをしたぞ。これじゃ、延々ループじゃねーか。

「見てれば解るわ。王雅は、思い通りにできない私をどうにかしたいだけ。手に入らない玩具だから、必死に頑張って手に入れようとしている、子供と一緒よ」

「違う」

「違わない」

「違う!」

「違わない!」

「違うっつってんだろ!」最後はやけくになって叫んだ。

「違わないわよ! アンタが私を好きになる要素があるとも思えないし、意味がわからない。自分で言うのもなんだけど、貧乏だし、乱暴だし、そんな美人でもないし。私の事、からかってるとしか思えないのよ」

「バカ、からかったりしてねーよ! 俺様がそんな面倒な事するか。それに、好きになるのは、理屈じゃねーだろ! 俺もわかんねーよ、お前みたいな暴力女が、何で好きなのか。・・・・でも、お前が笑うとドキドキして嬉しくなるし、幸せだなって思っちまうんだ。しょーがねーだろ、お前の事がマジで好きなんだから! 文句あるか」

 告ってるわりに酷い言い方だな、と自分でも思うが、美羽は別に失礼な言葉を気にもせず、俺様に向かって啖呵を切ってくる。

「何それ。私は、自分が好きになった人と穏やかな時間を過ごして、ずっと一緒に居たいって幸せを願う、ただの平凡な女よ。一緒にこの施設を守って、子供たちの為に生きてくれる男性じゃなきゃ、好きにならないの。アンタはそんな事できないでしょ。大会社の御曹司なんだから!」

「ンなの関係あるか! 俺様がやりたいようにやるんだ。俺は、お前がいーんだよ。誰にも指図はさせねえ。付き合う人間だって、結婚する女だって、俺が決める」
 
「じゃあ、私を好きだって言うなら、この施設が絶対に大丈夫なように、守ってよ。今は王雅の名義で権利書があるから、土地の事は大丈夫かもしれないけど、何時どうなるか、解らないじゃない! 花井の時がそうだったもん。アンタだって、どうせ私に飽きたら、預けてくれてる権利書とか、返せって言うんでしょ。解ってるんだから!」

「そんなセコイ事、言わねーよ! 俺様を見くびるなよ」

「言わない保証は? 絶対なんて無いのよ。それは私が一番よく解ってる」

「俺がお前を好きなんだから、施設を潰すとか、土地を取り上げるとか、そんなこと言わねーよ」

「今はそうかもしれない。でも、私を手に入れて、飽きたらどうするの、って聞いてるの。結婚するとかなんとか言っておきながら、どうせ二、三回抱いたら、今までの女の人みたいにポイ捨てするんでしょ。口約束なんて、簡単に破れるのよ。この施設の土地を手に入れるのに、50億円も使ったんでしょ。権利書は王雅の名義なんだから、50億円を回収しようと、ホテルの時みたいにこの施設を潰す計画を考えない保証、あるの? 私は、それが心配なの!」

「絶対大丈夫だ。信じてくれ」

「そんなの何の根拠もないし、信用できない。どうせ、今までそうやってウソ吐いて、何百人もの女の人、騙して泣かせてきたんでしょ。私は、そうはいかないわよ」そう言って美羽は、怖い顔をして俺を睨んでくる。

 痛いところを突かれたが、本当の事だし仕方ねえ。
 こんなに言ってるのに、まだ信用してもらえねーのか、俺は。
 ま、今までの行いが行いだから、言い返せない部分はあるけど。


 っつーか、美羽が人間不信すぎじゃね? 疑り深いにも程があんだろ。


「そ、そりゃあ・・・・今までの女には、悪いことしたかなって、ちょっぴり思うけど・・・・でも、向こうだって俺のルックス目当てだったり、金が欲しくて次から次へと勝手に寄って来るんだ。拒む理由もないし、今までは、合理的だったって話だ。酷い時もあったかもしんねーけど、それは、若気の至りってヤツだ。別に好きでもなかったしな。だけど、もう二度とそんな事しねーよ。今後一切、他の女を傷つけたりしない。誘われても、全部きっぱり断る。俺は、もうお前じゃなきゃダメなんだ」

 美羽は、複雑な表情で俺を見てる。
 伝わるかどうかはわかんねーけど、でも、これだけは言っておきたい。

「あのな、美羽。お前は、俺様をコケにしたりビンタしたり、他の誰もができなかったことを、いとも簡単にやってのけたんだ。最初はどーにかしてやろうって思ったけど、いつの間にか、ガキ共の為に何時も一生懸命なお前が、好きになっちまったんだ。お前は、俺が初めて惚れた女だ。そんなお前が大切にしているもの全て、俺も大切にしたいって思う。だから、施設は俺が絶対に守ってやる。約束する。それに、考えてもみろよ。俺と結婚したら、権利書は夫婦共有財産になるわけだから、お前が管理できるんだ。返すもへったくれもねーだろが。お前が俺様を手に入れてキープしておく方が、施設も含めて安泰だろ? それに、俺はここに居るガキ共、結構好きなんだ。今日のプールだって、アイツ等が喜んでくれたらいいなって・・・・美羽だけじゃなくて、ガキ共も喜んでくれたらなって思ったんだ。それだけは、解って欲しい」



――プールの目的は、本当はお前のハイレグが見たいのが一番だったってのは、内緒だけどな。



 
「そうね。王雅が、今日は子供たちの為に、本気で一生懸命やってくれたってことは解るわ。・・・・だから、権利書の事も含めて、王雅の事はもう少し考えたい。昔から施設の事で色々あるから、簡単に人を信用することができないの。ごめんなさい。でも、私の事本当に好きだって言うんなら、待てるでしょ」

「エラソーに」

 思ってることぶつけ合って、俺たちは笑った。
 この俺様に向かってエラソーにできるのは、お前だけなんだぞ、美羽。

 とりあえず、綺麗に話がまとまった(?)から、よしとするか。
 それより、今の流れだったら、権利書につられて俺様との結婚を考えるってことになるよな。シャクだが、この際仕方ねえ。
 ま、言ってる間に、自然と俺に惚れるに決まってる。


「俺の事、イヤとは言わせねえからな。絶対、好きだって言わせてやる」


 隙を見せやがったから、もう1回、キスしてやった。
 調子に乗るな、と最後は叱咤が飛んできた。でも、ビンタはされなかった。


 これは一歩前進・・・・かな?


 そう思うことに、しておいた。
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