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8.専務に呼び出され、社長と神戸に出張へ(緊張します)
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社に戻ってすぐ、開発部にサンプルを渡した。満足のいく出来映えに皆が納得した。
それを持って社長と二人で高丸さんの所へ行き、彼にもクリップのサンプルを見せた。このシューズクリップは素晴らしい、最高のパンプスが出来そうだ、と恰幅の良い身体をゆすって笑われた。
出来栄えに満足頂けて、何よりだ。
「いよいよ来週、生地が高丸商店に届けば、新商品のサンプルが仕上がるのですね。楽しみです」
「ああ。今までで一番、最高の商品になるよ。紗那ちゃんが考案してくれたおかげだ。本当にありがとう」
「いいえ、私は何も・・・・。ただ、高丸さんのパンプスが無くなってしまうのは、日本全国の高丸パンプスファンが泣きます。私がその代表ですから」
「いつも履いてくれているよね」
「はい。本当に履きやすくて、歩きやすくて、綺麗で、重宝しています」
「ははは。ほめ殺しだな」
まんざらでもなさそうに、高丸さんが笑った。
「紗那ちゃんの結婚式に履くパンプスは、是非とも高丸商店に作らせて貰えないかな。勿論、プレゼントするから」
「ええっ」
高丸さんが私の結婚式だけの為に、特別なパンプスを作ってくれるなんて、嬉しすぎる。
「起死回生が上手く行ったら、是非お願いします」
高丸社長。嬉しいふりをして、嘘をついてごめんなさい。新商品が完売するように精一杯頑張るけれど、展示会が終われば私はフクシを辞める。約束を果たしたのだから、と、福士社長にはニセの婚約を破棄して貰うつもりだから。
きっと高丸さんが作った靴なら、世界一履きやすい花嫁の為の靴になるのだろうな。
履いてみたい。
でも、それは叶わぬ夢。
フクシと業務提携した高丸商店が、ライバル会社に嫁ぐ私に靴を作ってくれる筈もない。
仮に高丸さんがそれでも作ってくれると言っても、私は辞退する。福士社長の隣を歩くならともかく、素晴らしい靴なんか、身売りの結婚式には必要ない。どうせ、神原が全部用意するだろう。
内面の考えはおくびにも出さず、笑顔の仮面を貼り付けておいた。
普段からクールで良かったと思う。お父さんを反面教師にしてきたものだから、あまり感情が顔には出ない。だから、助かっている。
ピリリリリ ピリリリリ
考え事をしていると高丸さんの携帯がけたたましく鳴り出し、打ち合わせをしていた小さな事務所に響いた。
着信音が大きいのは、工場でもすぐに電話に気が付けるように音量が最大にしてあるのだ。工場は様々な音が鳴っているものだから、携帯の着信にすぐ気が付けるという配慮だ。さっきまで工場で作業されていたから、着信音がそのままになっていたのだろう。とにかく、非常に大きな音だ。
それを持って社長と二人で高丸さんの所へ行き、彼にもクリップのサンプルを見せた。このシューズクリップは素晴らしい、最高のパンプスが出来そうだ、と恰幅の良い身体をゆすって笑われた。
出来栄えに満足頂けて、何よりだ。
「いよいよ来週、生地が高丸商店に届けば、新商品のサンプルが仕上がるのですね。楽しみです」
「ああ。今までで一番、最高の商品になるよ。紗那ちゃんが考案してくれたおかげだ。本当にありがとう」
「いいえ、私は何も・・・・。ただ、高丸さんのパンプスが無くなってしまうのは、日本全国の高丸パンプスファンが泣きます。私がその代表ですから」
「いつも履いてくれているよね」
「はい。本当に履きやすくて、歩きやすくて、綺麗で、重宝しています」
「ははは。ほめ殺しだな」
まんざらでもなさそうに、高丸さんが笑った。
「紗那ちゃんの結婚式に履くパンプスは、是非とも高丸商店に作らせて貰えないかな。勿論、プレゼントするから」
「ええっ」
高丸さんが私の結婚式だけの為に、特別なパンプスを作ってくれるなんて、嬉しすぎる。
「起死回生が上手く行ったら、是非お願いします」
高丸社長。嬉しいふりをして、嘘をついてごめんなさい。新商品が完売するように精一杯頑張るけれど、展示会が終われば私はフクシを辞める。約束を果たしたのだから、と、福士社長にはニセの婚約を破棄して貰うつもりだから。
きっと高丸さんが作った靴なら、世界一履きやすい花嫁の為の靴になるのだろうな。
履いてみたい。
でも、それは叶わぬ夢。
フクシと業務提携した高丸商店が、ライバル会社に嫁ぐ私に靴を作ってくれる筈もない。
仮に高丸さんがそれでも作ってくれると言っても、私は辞退する。福士社長の隣を歩くならともかく、素晴らしい靴なんか、身売りの結婚式には必要ない。どうせ、神原が全部用意するだろう。
内面の考えはおくびにも出さず、笑顔の仮面を貼り付けておいた。
普段からクールで良かったと思う。お父さんを反面教師にしてきたものだから、あまり感情が顔には出ない。だから、助かっている。
ピリリリリ ピリリリリ
考え事をしていると高丸さんの携帯がけたたましく鳴り出し、打ち合わせをしていた小さな事務所に響いた。
着信音が大きいのは、工場でもすぐに電話に気が付けるように音量が最大にしてあるのだ。工場は様々な音が鳴っているものだから、携帯の着信にすぐ気が付けるという配慮だ。さっきまで工場で作業されていたから、着信音がそのままになっていたのだろう。とにかく、非常に大きな音だ。
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