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1.かなり斜め上から社長の告白(笑顔でお断り)
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まあ、そんな訳で私はよほどの事が無い限り(クビになったりしない限り)自主退社は出来ない身。
昔の事を一通り思い出したのでため息を吐いていると、父からの着信があった。
珍しいな。私の勤務中に父から電話が入るなんて。
利用していない会議室に急いで移動し、電話に出た。
「何の用? 勤務中なんだけど」
努めて冷静に振舞ったが、少し緊張した。母が倒れたとか、そういう連絡だったらどうしよう。母は工場買収の件以来、神経質になってよく倒れるようになってしまった。無理もない。あの時は一家が相当追い詰められた。
随分落ち着いたが、また何かあったのだろうか。不安が胸をよぎる。
『紗那っ。お前、福士社長に何を言ったんだ! 紗那に悪い事をしたと、侘びの電話が儂の所に入ってきたぞ!』
「別に、何も言っていないけど・・・・」
『お前、社長には大変な恩義があるんだぞ! 解っているのかっ。どうして本日付けで退職したいなんて、社長に言ったんだ!』
あの告げ口魔!
本気じゃないってコト、解っているでしょ!
普通、秘書の父親に言っちゃう?
ヤツの変態ぶりを説明しようかと思ったが、現社長の福士成彰を神だの仏だのと崇め奉っている父にそんな事を言っても無駄だと思い、黙っておいた。
『くれぐれも社長の機嫌を損ねないようにしてくれ! どうしてもお前に秘書をやって欲しいと、一年前に頼み込まれたのだ。それが買収にする条件だとも言われたしなっ』
裏でそんな取引があったんだ。初めて知った。
ああ・・・・前の秘書が急に辞めてしまって秘書の座に空きが出たとか言っていたし、社長も困っていたのね。当時秘書に就いたばかりの頃、フクシの秘書業務は忙しすぎて、誰も長く続かずにすぐに辞めてしまうという噂を聞いたから。まあ、靴業界の裏仕事はなかなかの黒色(ブラック)だと個人的には思うから、その社長秘書なんて・・・・ねえ。
だから即戦力になりそうな上に、諸々チェックの厳しそうな私に秘書をやらせたかったという訳か。親の会社を買収したのだから、秘書に就かせても辞めないだろうと踏んで。
『お前が辞めたら社長に顔向けができなくなるだろうっ! スギウラが持ち直したのは、社長のおかげ――』
「もう、解っているわ。耳にタコができるくらいその話は聞いているし、秘書を辞めるつもりはないから」
辞めたらお父さんの剣幕が凄そうだし。そっちの方がメンドクサイじゃない。
『本当かっ! だったら社長にお前が謝りに行けっ。後生だから社長の傍でこれからも働かせてくれ、と頭を下げてこい!』
何で私が・・・・。
『それが出来ないなら、家に帰って来なくていいっ!』
父に電話を一方的に切られた。彼は昔ながらの職人気質だから、相当な短気だ。だから私が父を反面教師にして、こんなに冷徹に育ったのだ。感情を見せず、喧嘩をせず、鋭い話術と己の信念で正しいと思う道を行くのだ。そうやって私は今まで切り抜けてきた。
その私が、理不尽な理由で、何故父に怒られなきゃいけないのよ・・・・。
あの変態社長のせいだっ!
昔の事を一通り思い出したのでため息を吐いていると、父からの着信があった。
珍しいな。私の勤務中に父から電話が入るなんて。
利用していない会議室に急いで移動し、電話に出た。
「何の用? 勤務中なんだけど」
努めて冷静に振舞ったが、少し緊張した。母が倒れたとか、そういう連絡だったらどうしよう。母は工場買収の件以来、神経質になってよく倒れるようになってしまった。無理もない。あの時は一家が相当追い詰められた。
随分落ち着いたが、また何かあったのだろうか。不安が胸をよぎる。
『紗那っ。お前、福士社長に何を言ったんだ! 紗那に悪い事をしたと、侘びの電話が儂の所に入ってきたぞ!』
「別に、何も言っていないけど・・・・」
『お前、社長には大変な恩義があるんだぞ! 解っているのかっ。どうして本日付けで退職したいなんて、社長に言ったんだ!』
あの告げ口魔!
本気じゃないってコト、解っているでしょ!
普通、秘書の父親に言っちゃう?
ヤツの変態ぶりを説明しようかと思ったが、現社長の福士成彰を神だの仏だのと崇め奉っている父にそんな事を言っても無駄だと思い、黙っておいた。
『くれぐれも社長の機嫌を損ねないようにしてくれ! どうしてもお前に秘書をやって欲しいと、一年前に頼み込まれたのだ。それが買収にする条件だとも言われたしなっ』
裏でそんな取引があったんだ。初めて知った。
ああ・・・・前の秘書が急に辞めてしまって秘書の座に空きが出たとか言っていたし、社長も困っていたのね。当時秘書に就いたばかりの頃、フクシの秘書業務は忙しすぎて、誰も長く続かずにすぐに辞めてしまうという噂を聞いたから。まあ、靴業界の裏仕事はなかなかの黒色(ブラック)だと個人的には思うから、その社長秘書なんて・・・・ねえ。
だから即戦力になりそうな上に、諸々チェックの厳しそうな私に秘書をやらせたかったという訳か。親の会社を買収したのだから、秘書に就かせても辞めないだろうと踏んで。
『お前が辞めたら社長に顔向けができなくなるだろうっ! スギウラが持ち直したのは、社長のおかげ――』
「もう、解っているわ。耳にタコができるくらいその話は聞いているし、秘書を辞めるつもりはないから」
辞めたらお父さんの剣幕が凄そうだし。そっちの方がメンドクサイじゃない。
『本当かっ! だったら社長にお前が謝りに行けっ。後生だから社長の傍でこれからも働かせてくれ、と頭を下げてこい!』
何で私が・・・・。
『それが出来ないなら、家に帰って来なくていいっ!』
父に電話を一方的に切られた。彼は昔ながらの職人気質だから、相当な短気だ。だから私が父を反面教師にして、こんなに冷徹に育ったのだ。感情を見せず、喧嘩をせず、鋭い話術と己の信念で正しいと思う道を行くのだ。そうやって私は今まで切り抜けてきた。
その私が、理不尽な理由で、何故父に怒られなきゃいけないのよ・・・・。
あの変態社長のせいだっ!
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