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2.惚れた完璧執事が、どうやら正真正銘の鬼だった件。

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 見事にハートを、ブチ抜かれちゃったわよ、もうっ!!
 何でそんなにカッコイイのよ! ワイルドで声低いしイケメンだし、なんか・・・・鬼執事とか最高のコスプレしてるしさあっ!


 ああぁ――ん、もぉおぉ――!


 ドキドキしていると、耳を疑う台詞が耳に飛び込んで来た。

「言っとくけど、俺は容赦しないからな」

「は、はいいっ?」


 突然の容赦しない発言! 出た、鬼よ!!


「俺を堕とせるもんなら、堕としてみろ。お前の攻撃、楽しみにしていてやるから」

 エラソーな上から目線でカチンと来るのに、そんな中松さんをカッコイイとか思う自分、アホ。

「み、見てなさい! すんごい攻撃して、中松さんを絶対に私に惚れさせてやるんだから!」

 びしっと人差し指で彼を指し、高らかに宣言した。「私に惚れたら、土下座よ!」

「お前も伊織も、土下座好きだな」

 そして今度は、ははっ、と愉しそうに笑うの!
 ぎゃをー。そんなのずるいっ! 聞いてない!!

 落ち着け。早まるな心臓! なんか、早くも勝ち目なさそうな勝負よね・・・・。でも、負けないっ!!
 
「そ、それより、食事はどうなっているの? カトラリーも何もないけど?」

「そんなの必要ねえし」

「は? 何で――」

「美緒が作った野菜、ゴテゴテの料理にするより、こっちの方が美味いから」

 中松さんはさっと立ち上がり、部屋の奥へ消えて行った。そしてすぐに変な形の鍋を持って戻って来た。
 鍋敷きを敷いて、その上にスライムの形というか、とんがり帽子の形というか、不思議な形容の蓋が特徴の独特な鍋だ。田人鍋だろうか。

「鍋にはポン酢がいいよな」

 ささっと調味料も用意してくれた。

「食おうぜ。今日は田人鍋だ」

 まさかの田人鍋・・・・。中松さんが作ってくれたのかな?

「なんだ、イヤか?」

 怪訝そうな顔をしていたようで、食べるのが嫌なのかと聞かれた。そんな状態でも顔色一つ変えず、涼しい顔してらっしゃるわ。

「ううんっ。大好き! お野菜いっぱい摂れるもん」

 慌てて席に着くと、割り箸を差し出してくれた。受け取ると、中松さんが鍋の蓋を取ってくれた。湯気の中から出てきたのは、美味しそうなたっぷりの野菜に豚肉が乗っているもので、キャベツと玉葱とピーマン・・・・ほか!

 やーん。超美味しそうっっ!
 
「庶民的でがっかりしたか?」

「え?」

「俺は正直、一矢様が召し上がるような肩こり料理は好きじゃない。美緒が持ってきてくれる野菜は美味いから、加工するより炒めたり蒸したり、調理して食ってるんだ」

「それ、すっごく嬉しい! ありがとう! がっかりなんてしてないよ」

 私は思わず笑った。中松さんに一つでも認められたのだと思うと、何だか尊敬する親分に褒められた舎弟のような気分になる。・・・・って、私は舎弟じゃないし!

「良かった。美緒ならそう言ってくれると思った」

 ふ、と優しい笑顔を見せる中松さん。
 ちょ・・・・! それ反則!!

 顔を赤くしていると、どうした、と尋ねられた。

「俺を堕とす宣言した女が、俺に堕ちてどうするんだ?」

「堕ちてないしっ」

 誤魔化すようにして割り箸を真っ二つにして、はい、と手を出した。「入れてあげる」

「サンキュ。給仕が仕事だからする事について何とも思わなかったけれど、やって貰うと嬉しいもんだな」

 また・・・・!
 フイうちの笑顔は卑怯なり!!

 何時も鬼ってたらいいのに。なんで・・・・こんな時々優しい顔をするの?
 心がきゅーん、って、なるよ。

 
「はい、どうぞ」

 ポン酢の入ったお椀に蒸した野菜と肉を一通り入れ、中松さんに渡した。

「ん。サンキュ」

 受け渡すとき、当然手が触れる訳で、ドキっとした。

「物欲しそうな顔してんなぁ、美緒。そんなに欲しい?」

「はっ、はあっ? か、かか、勘違いしないで! べ、別に私は物欲しそうな顔してなんか・・・・!」

「何ムキになってんの。ほら、器貸せよ。野菜入れてやるから」

 ニヤニヤしながら言われた。

 こんの・・・・!
 絶対わざとだ!
 この男、正真正銘の鬼ドSだ!!
 でもそれにキュンキュンする私、アホ。


 あ“――っ!
 このままじゃ中松さんを私に惚れさせるなんて、夢のまた夢!


 悔しそうな顔を向けて彼を睨みつけていると、そんな怖い顔じゃ、俺は堕とせないぞ、って言われちゃった!!



 あ“あ“――――っ!!



 今の所、鬼執事には何一つ敵わないと感じる私だった。
 でも、負けない!
 今に見てろよ、コラ。
 絶対、『すみませんでした美緒様、数々の無礼をお赦し下さい、よよよ(泣)』って言わせてやるからぁ――っ!!



 
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