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2.ニセ嫁修行、始めました。

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 午後三時、鬼の中松がきっかりの時刻に迎えに来た。私は鉄板の掃除を終えたばかりで、まだ着替えもできていない。今日のグリーンバンブーは、土曜日だから特に忙しかった。平日も勿論忙しいけど、グリーンバンブーは安くて美味しく評判のよい店のため、遠方からのお客様が土曜日は押し寄せることが原因だ。

「伊織様、お迎えに上がりました」

「ちょ、ちょっと待って! まだ着替えてないっ」

 油臭いからシャワーも浴びるつもりだったのに、そんな暇は無かった。
 お約束の時間ですので、と目の笑ってない笑顔で言われ、仕方なく着替えとシャンプー類をバックに詰め込んで中松の運転する車に乗り込んだ。ああ・・・・自分の身体から発生している油臭が高級車に移らないか、心配だよおぉ。

「中松。申し訳ないけれど、シャワー浴びさせて欲しい。キッチンの仕事終わったばかりだから、油臭いと貴婦人としてよく無いと思うの」

 最もらしい言い訳を考え、提案してみた。

「伊織様のおっしゃる通りでございますね。承知致しました。バスルームの手配を致しましょう」

 そして会話終了。しーん、と車内が静かである。
 うう、中松は感情が全く読めないから、どうしていいのか解らないところが多いにある。


「戻って何の修行をするの?」


 心づもりはしておいた方がいいと思い、修行内容を聞いてみた。

「まずはテーブルマナーを覚えて頂きます。それから作法、言葉遣い、それから・・・・」

 まだあるの!?
 思わず目を剥いたらバックミラー越しに流し見された。

「まずはひとつずつ課題をクリア致しましょう。伊織様に全てを求めても無駄だという事は承知しております」

 冷ややかに言われた。


 ちぃくしょおぉおおおお――! どうせ私は作法も知らないド平民ですよーだ!


 悔しいが今は言い返せない。だから修行を頑張って、絶っっ対中松に「申し訳ございませんでした伊織様、素晴らしい偽婦人に成長なさいましたね、よよよ」と言わせてやる!
 土下座させてやるんだからーっ!


 自転車で五分もかからない程の近距離を車で送迎してもらい、三成家に辿り着いた。相変わらず大きいが、本家と比べると小さい屋敷だ。
 小さいといえども、お屋敷であり広大な敷地に一矢の為だけに建てられた家。中松も住み込みで暮らしていて、コックを始め数人の召使が出入りしている。広いゲストルームもあり、かくれんぼが出来そうな程に広い家だ。無駄な調度品等は無く、白く立派な家に門構えが凄い。一矢所有の高級車二台と、中松が利用している送迎用のリムジン車が一台で、合計三台が敷地内に停められている。それだけ停めてもまだ庭は十分なスペースがあり、美しい緑が広がっている。
 一階が洋食店舗で、狭い二階と三階が住居で大家族の私の家とは大違いだ。

 それにしても初恋の男は、かなりやっかいな相手だと思う。ヤツとどうにかなるという事は想像していなかったけれど、偽嫁を引き受ける事になったのはもっと想定外。チャンスをモノにと考えていたけれど、一矢みたいなお金持ちの本当のお嫁さんになるなんて、平民の私には絶対に無理だと思えてくる。
 上を目指せばお金持ちのクラスはもっとすごいのがいるとは思うけれど、三成家は十分私からすれば凄いし、家庭内がギスギスしているのも信じられない。色々私とは釣り合わないし、馴染める自信も無い。
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