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聖女は追放されて、幸せになりました・・・でも。

聖女の同情

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 聖樹の活性化が終わり、一行が山を下りたところに、リツシウン王国の辺境公が待っていた。
 彼は、追放された聖女の一行を温かく迎え、シュン王国へ無事に行けるよう尽力してくれた男であり、聖女をはじめ、かれには感謝の念を忘れていなかった。
 彼は、後ろに農民と思われる一団と修道士と思われる若い男性を引き連れていた。金髪の、既に中年の堂々としながらも、気品というものを漂わせている辺境公は、聖女ケイを見て、膝まづいて頭を下げた。

「顔をお上げください。感謝を捧げなければならないのは、私の方なのですから。あの時は、とても救われる思いでした。」
という聖女に彼は、後ろにいるのは敬虔な三位一体教会の信徒である自分の領地の農民達と教会の修道士であると紹介した。そして、自分の妻子、その使用人ともども、シュン王国に移住させてもらえるよう、お願いできないだろうか、言った。
 聖女ケイは、それを聞いてサラギ王子を見た。困った顔のサラギ王子だったが、直ぐに穏やかな表情に戻り、
「父、国王陛下にお願いしてみましょう。」
といってくれたので、ケイは安心した。

「しかし、閣下は?」
 彼は、魔獣など跋扈するようになっても、故郷を捨てたくないと残留しているいう人々を守るため、リツシユン王国内領地を守っていくしかないという。

「どうでしょう。閣下の領地にも、聖結界を張りましょうか?」
との聖女ケイの言葉に彼は思わず、顔の筋肉が緩んでしまった。サラギ王子はというと、困ったという顔だったが、反対はしなかった。

 リツシウン王国内には入れないので、聖女ケイは持参の地図を参考にして聖結界を張った。彼の領地内でも、異端である再洗礼派が大部分を占める土地には聖結界は張らなかった。
「早く異端の教えを放棄してくれれば、より早く安心できますのに・・・。」
 聖女ケイは、少し複雑な思いを口にした。それは本心からだった。
「聖女様のお優しい思いは、私がかならず彼らに伝えましょう。なんといっても、彼らも、私の領民であるのですから。」
と領主は約束した。が、すぐ後に、
「そのことを、何時わかってくれるのか・・・。」
と大きなため息をついたのだった。彼らが頑固に異端の教えにしがみついていることを彼は知っているからである。そのことは、ケイは、よく分かっていた。彼らの心情は、全く理解できなかったが、正しい信仰を拒否して、異端の教えに執着することが。
 聖女ケイは、それだけに彼がいかに異端でさえ、領民をいかに大切にしているか、愛しているかがわかり、その事情を察することができたため、悲しくなってしまった。その表情に気づき、
「異端である再洗礼教会の者達が彼らを惑わせることがないように、彼らが我が領地に入り込まぬよう全力を尽くします。」
と力強く言って、頭を下げた。
「頼みましたぞ。」
 聖女の代わりに、傍ら三位一体教会の神父が頭を下げていった。


 この頃には、サラギ王子は婚約者から婚約を破棄されていることを知っていた、聖女ケイは。
「この方と愛し合える生活を捨てることができる人がいるのだということが、あるのですか?」
 聖女ケイは、司教、リツシユン王国からともにやってきた、に尋ねた。
「それは、色々な事情、人の心の動きがあるのでしょう。恋は風邪のようなものである時があるものです。今頃は、彼女も後悔しているかもしれません。いや、後悔していることでしょう。」
と彼は真面目くさった顔で答えた。本当は、色々な事情があったのであるが、そのことは、敢えて彼は聖女に言わなかった、その時は。

 それでは、彼女のために、神の許しがあるように願う聖女ケイに、司教は、また、感動したのである。
 それでも、第三王子と聖女ケイの婚約、結婚は、シユン王国、三位一体教会にとって重要な意味を持っている。つまり、政略結婚の意味合いもある。それでも、彼はこの婚約、結婚が聖女ケイにとって幸福なものとなることを心から願っていたし、事前に色々と調べた上で、進めたのだ。王子の性格、人格に問題があれば、どうあっても、阻止するつもりだった。それは、教皇の意思でもあったのだ。

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