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第二章

【五】星夜ー月子と白馬のお殿様

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 ブロロロロロ。キキーッ。

「二人目が来たみたいだな」

 月子ちゃんが海人にスマホを見せると、彼は顔を曇らせた。

「井沢グループの長男だって。お祖母さまは正気か?」

 荻野兄妹が並んで出迎えたのは黒いリムジンカー。車でパーティーでもする気なのか?

 ガチャリ。

 運転席から下りた中年男性がリムジンの後部座席のドアを恭しく開けた。執事だろうか。

 数メートル離れた俺と王子一行は車内が見えないが、海人が人物を認めると、一歩前に出た。

「ご多忙の中おいでいただき、ありがとうございます。萩野海人と申します」
「分かっているなら、何故ここに呼んだのかしら。息子は会議中だったのよ」

 甲高い声がここまで響いた。俺がカニ歩きで移動すると、アジャール王子まで真似し始めたぞ。やめろ~。車内には中年女性と青年がシートにふんぞり返っていた。外へ出る気はないようだ。

「ごきげんよう。井沢夫人、お久しぶりでございます」
「あら、面識があったかしら?」
「三年前のピアノコンサートでお会いいたしました」
「そうなの。あなた、井沢は萩野家よりずっと昔から続く家柄なのよ。嫁ぐつもりなら、もっとわきまえていただきたいわ」
「母さん、黙っててくれないか。月子さん、私は会議に戻らなくてはならない。欲しいものは執事に伝言してくれ」
「私にお任せください」

 リムジンから降りた黒いワンピースの女性が、名刺を月子ちゃんに渡した。

「秘書の黒田と申します。こちらまでご連絡をお願いいたします」
「わかりました」

 一礼して秘書が車内へ消えると、リムジンは学園内の道路から環状線へ右折して走り去った。

「なによあれ!」
「鬼姑まで襲来してたわよ!」
「こわっ」
 腐女子トリオが感想を勝手に述べている。

「海人、あの親子は?」
「どのパーティーでも必ず二人で出席するので有名なんだよ。マザコンなのか、ムスコンなのかは不明だ」
「ムスコン?」
「息子を溺愛する母親よ」
「こわっ。月子ちゃん、あの男、やめやめ!」
「ほら、あれ見てよ!」

 カフェテリアの面々は、×ポーズだった。

「レディーニ、アイサツヲ、シナイナンテ、クソヤロウ、ダナ」

「その通りだよ、アジャール王子。あの親子は自己中なのさ。お祖母さまがどうして候補者に選んだのか、謎だよ」

「お兄様、安心して。あの方とは結婚しません」
「そうだよ、それがいいよ!」
「あら、星夜君が熱く叫ぶなんて、もしかして月子ちゃんへの恋心に気づいたの~?」

 多賀城さん、余計なことを!

「星夜ハ、月子サント、ケッコンシテ、アジャールニ、クレバイイ」

「「!」」
「ダメだ。星夜は俺のもんだ!」

「ブロマ~ンス!」

「海人。お前、何言っちゃってるのー?」
「いや、その。俺の会社で働いて欲しいんだよ。友情だよ、友情!」

 バンバンと俺の両肩を叩いて照れ笑いする海人。

「「ブロマ~ンス!」」
 だからその呪文はやめろ~。

 ピンポンパンポーン。

【萩野月子君。いまから校長が迎えに行きます。待っていてください】

 校長が? 
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