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第一章
【六】星夜―腐女子の遭遇③
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「海人、あれは腐女子結界ってやつだよ」
「腐女子結界?」
キョドる海人はイケメンが台無しだ。
「月子ちゃんが腐女子だって知らなかったのか?」
「ああ。部屋に鍵をかけて漫画を描いていたし、BL漫画は本棚になかったぜ」
「お兄様、私は電子書籍を読んでいるの。でもこれからは気兼ねなく書店で漫画を買えるわ!」
「あら、貸してあげるわよ」
「ルカさん、推しには購入で応援しなくては」
「そうね、それが腐女子道よね」
「「腐女子道⁉」」
俺と海人がハモる。何なんだ。腐女子ってのは柔道みたいに道場があるのか?
「まあ、まずは皆さん、ソファーに座って。私が迷える高校男子に説明しましょう」
「うん。教えて、ルカ叔母さん!」
「ルカ、お茶を用意するから待って」
祖母ちゃんが再びキッチンへ。
「あ、そうそう。お茶菓子を買ってきたわ」
ルカ叔母さんがもうひとつの紙袋を掲げた。着物姿の女性が横を向いている絵が印刷されている。それは……。
「『萩の月』だ!」
「ふふふ。星夜はこれに目がないの」
「祖母ちゃん、お皿はどれにする?」
いそいそと手伝いに立ちあがった。
「そこの棚にある小皿をお願い」
「わかった」
しばし緑茶と地元の愛される銘菓『萩の月』を堪能した。黄色いスポンジ生地に包まれた、和風テイストのカスタードクリーム……。
「この卵の優しいクリームがたまらんな~」
ふわふわのスポンジも最高だぁ。
「甘さも食感も、全てが優しいんですよね」
月子ちゃんが俺の食レポに賛同してくれた。
「星夜は止めないと十個以上食べるからねぇ」
祖母ちゃん。いくら俺だって、今日だけは我慢するぜ!
「ところで流華。腐女子にはやり方があるの?」
「そんなのないわよ」
ないんかーい!
「ただね、現代はネット文化でしょ。プピッターや投稿サイト、出版社が運営するインディーズ漫画が溢れかえってるの。その中からビビビビビ~と自分を虜にする漫画や小説と巡り会うのって、もはや運命なのよ。その作家さんの作品を手元に置き、グッズを収集、ファンクラブで応援するのが、真の腐女子道よ!」
「ルカ叔母さん、プピッターやってるの?」
「星夜はスマホデビュー、最近ですものね」
「あれ。中学の時に成績が悪いからって、親から止められたんじゃないのか?」
ヤバい。ルカ叔母さんと海人は情報が行き違ってるんだった。
「成績が悪いって……。星夜は高卒認定(大検)合格してるじゃないの」
ああ! 祖母ちゃん、余計なことを!
「「高卒認定合格?」」
萩野兄妹が叫ぶ様子で、祖母ちゃんが気づいた。
「ああ、ごめんね星夜。内緒だったよね」
「じゃあ、どうして紅葉学園に編入してきたの?」
月子ちゃんが小首をかしげると、黒檀に輝く髪が揺れた。アニメの主人公を惑わす美少女キャラ級の可愛さだ。仕方ない、一部だけ事情を明かそう。
「父さんの雇い主って、アラブの王様だろ。王様は俺をセレブ専用の学校に入学させたんだよ」
「セレブ専用学校! それって、男子専用かしら?」
「鼻息が荒いぞ、月子」
「お兄様は黙って!」
「いや、男女共学。そこで俺、田舎モンだってはつけ(仲間はずれ)にされたんだよ。んで、転校したかったけど、上司の顔を潰すわけにはいかないって父さんが……」
「なんですって! 流星の馬鹿もんが。息子を守らないでどうするの!」
ラン祖母ちゃんが激昂した。
「落ち着いて、母さん」
「祖母ちゃん、大丈夫だよ。相手は国王だし、父さんの立場もわかるからさ。先生に相談して、別室でリモート授業を受けていたんだ。暴力とか、何か隠されるとか、そんなのは一切なかったよ」
「てっきり、流星にアドバイスされて受験したと思ってたよ……」
祖母ちゃんは天才の息子が地元を出て行くとき、とてもさみしそうだった。
「転校や退校には大義名分が必要だった。それで資格を取った。そうだろう、星夜」
「そのとおりだよ、海人」
「スマホを止めたのは、電話やSNSで嫌がらせされたのか?」
「う~ん。まあ、そんな感じかな。両親と話し合って、スマホは解約したんだ」
「星夜は仙台が好きだから、ここで学生時代を楽しく過ごしたくて帰ってきたのよ。そうよね」
「ルカ叔母さんの言うとおりだよ。だからみんな、心配しないでくれよ。俺は今、凄く楽しいよ」
「星夜……」
祖母ちゃんがハンカチで涙を拭っている。
「俺も星夜が帰ってきてくれて、ワクワクしてるんだ。一緒に青春しようぜ!」
「ブロマ~ンス!」
「え?」
「ゴホッ。ゲホッ。いいえ、何でもないわ」
月子ちゃんが咳き込んでいる。
「腐女子結界?」
キョドる海人はイケメンが台無しだ。
「月子ちゃんが腐女子だって知らなかったのか?」
「ああ。部屋に鍵をかけて漫画を描いていたし、BL漫画は本棚になかったぜ」
「お兄様、私は電子書籍を読んでいるの。でもこれからは気兼ねなく書店で漫画を買えるわ!」
「あら、貸してあげるわよ」
「ルカさん、推しには購入で応援しなくては」
「そうね、それが腐女子道よね」
「「腐女子道⁉」」
俺と海人がハモる。何なんだ。腐女子ってのは柔道みたいに道場があるのか?
「まあ、まずは皆さん、ソファーに座って。私が迷える高校男子に説明しましょう」
「うん。教えて、ルカ叔母さん!」
「ルカ、お茶を用意するから待って」
祖母ちゃんが再びキッチンへ。
「あ、そうそう。お茶菓子を買ってきたわ」
ルカ叔母さんがもうひとつの紙袋を掲げた。着物姿の女性が横を向いている絵が印刷されている。それは……。
「『萩の月』だ!」
「ふふふ。星夜はこれに目がないの」
「祖母ちゃん、お皿はどれにする?」
いそいそと手伝いに立ちあがった。
「そこの棚にある小皿をお願い」
「わかった」
しばし緑茶と地元の愛される銘菓『萩の月』を堪能した。黄色いスポンジ生地に包まれた、和風テイストのカスタードクリーム……。
「この卵の優しいクリームがたまらんな~」
ふわふわのスポンジも最高だぁ。
「甘さも食感も、全てが優しいんですよね」
月子ちゃんが俺の食レポに賛同してくれた。
「星夜は止めないと十個以上食べるからねぇ」
祖母ちゃん。いくら俺だって、今日だけは我慢するぜ!
「ところで流華。腐女子にはやり方があるの?」
「そんなのないわよ」
ないんかーい!
「ただね、現代はネット文化でしょ。プピッターや投稿サイト、出版社が運営するインディーズ漫画が溢れかえってるの。その中からビビビビビ~と自分を虜にする漫画や小説と巡り会うのって、もはや運命なのよ。その作家さんの作品を手元に置き、グッズを収集、ファンクラブで応援するのが、真の腐女子道よ!」
「ルカ叔母さん、プピッターやってるの?」
「星夜はスマホデビュー、最近ですものね」
「あれ。中学の時に成績が悪いからって、親から止められたんじゃないのか?」
ヤバい。ルカ叔母さんと海人は情報が行き違ってるんだった。
「成績が悪いって……。星夜は高卒認定(大検)合格してるじゃないの」
ああ! 祖母ちゃん、余計なことを!
「「高卒認定合格?」」
萩野兄妹が叫ぶ様子で、祖母ちゃんが気づいた。
「ああ、ごめんね星夜。内緒だったよね」
「じゃあ、どうして紅葉学園に編入してきたの?」
月子ちゃんが小首をかしげると、黒檀に輝く髪が揺れた。アニメの主人公を惑わす美少女キャラ級の可愛さだ。仕方ない、一部だけ事情を明かそう。
「父さんの雇い主って、アラブの王様だろ。王様は俺をセレブ専用の学校に入学させたんだよ」
「セレブ専用学校! それって、男子専用かしら?」
「鼻息が荒いぞ、月子」
「お兄様は黙って!」
「いや、男女共学。そこで俺、田舎モンだってはつけ(仲間はずれ)にされたんだよ。んで、転校したかったけど、上司の顔を潰すわけにはいかないって父さんが……」
「なんですって! 流星の馬鹿もんが。息子を守らないでどうするの!」
ラン祖母ちゃんが激昂した。
「落ち着いて、母さん」
「祖母ちゃん、大丈夫だよ。相手は国王だし、父さんの立場もわかるからさ。先生に相談して、別室でリモート授業を受けていたんだ。暴力とか、何か隠されるとか、そんなのは一切なかったよ」
「てっきり、流星にアドバイスされて受験したと思ってたよ……」
祖母ちゃんは天才の息子が地元を出て行くとき、とてもさみしそうだった。
「転校や退校には大義名分が必要だった。それで資格を取った。そうだろう、星夜」
「そのとおりだよ、海人」
「スマホを止めたのは、電話やSNSで嫌がらせされたのか?」
「う~ん。まあ、そんな感じかな。両親と話し合って、スマホは解約したんだ」
「星夜は仙台が好きだから、ここで学生時代を楽しく過ごしたくて帰ってきたのよ。そうよね」
「ルカ叔母さんの言うとおりだよ。だからみんな、心配しないでくれよ。俺は今、凄く楽しいよ」
「星夜……」
祖母ちゃんがハンカチで涙を拭っている。
「俺も星夜が帰ってきてくれて、ワクワクしてるんだ。一緒に青春しようぜ!」
「ブロマ~ンス!」
「え?」
「ゴホッ。ゲホッ。いいえ、何でもないわ」
月子ちゃんが咳き込んでいる。
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