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第一章

【一】星夜ー開かずの部屋①

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【一】星夜―開かずの部屋 

「ご利用、ありがとうございました~」
「お世話様でした」

 ガラララ、ピシャン。

 引っ越し業者を見送ってから、俺は縁側に回ってサンダルを履いた。高台からは遙か太平洋が見渡せる。ここは東北一の繁華街から約十キロ離れた山を造成してできた団地だ。こんなに澄んだ空気は、都会では絶対に味わえない。

「久しぶりだなぁ。一年ぶりだもんな」

 庭の紅梅が満開の日曜日、俺は東京から東北一の政令指定都市に引っ越してきた。

 仙台で生まれ、小学校卒業まで暮らした土地に戻れたのは凄く嬉しい。理由は父さんの海外出張が決まったから。

『ウサギより寂しがりな流星君について行かなくちゃ!』

 母さんはそう宣言すると同行していった。日本に残る俺を心配した父方の祖母、らん祖母ちゃんと叔母さんが、俺に転校&同居を勧めてくれたのだ。

 なぜ渡米しないのか?

 正直、金髪美女や大リーグには魅力を感じないんだよなぁ。俺は日本の文化、ことに東北地方が大好きだ。
 父さんにくっついて中学、高校を転校して大都市に住んでみたけれど、生まれ育った土地に戻って祖母ちゃんの顔を見たらホッとしたんだ。

 大きく深呼吸していたら、祖母ちゃんと叔母さんに大笑いされた。

「やっぱり祖母ちゃん家はいいなぁ」
「あら、ありがとう」

 ニコニコ顔の祖母ちゃんは、まだ五十代半ば。十八歳で結婚し俺の父さんを出産。その5年後にルカ叔母さんが誕生した。
 祖父ちゃんは仕事中の事故で数年前に天国へ逝った。だから尚更、蘭ばあちゃんは俺を溺愛していた。

「星夜の部屋は祖父ちゃんの書斎にしたよ」
「いいの?」

 リビングダイニングを除くと、一番大きな部屋だ。

「あそこなら落ち着いて勉強できるでしょ」
「ありがとう、蘭ばあちゃん、ルカ叔母さん」

 ルカ叔母さんは結婚後すぐ実家に戻ってきた。理由は分からない。結婚式は海外だったので相手さえ知らない。なぜだか、両親は話題を封印してしまった。まあ、傷口に塩をすり込む無神経な甥にはなりたくないので、俺も知らんぷりしている。

 築四十年の若生家は一階が居間に台所、浴室に洗面所、トイレ、書斎、仏間に祖母の寝室、客間に物置があり、二階は叔母の寝室と父さんの部屋がある。父さんの部屋は、すでに叔母さんのクローゼット化しているのを知っていたので、書斎をあてがわれて正直ほっとしている。

「にゃーん」

 若生家の飼い猫、ルビーとサファイアが俺の足下にまとわりついた。

「にゃにゃーん」
「ルビーが、喉が渇いたって」

 ルカ叔母さんが平然と告げるので、前世は猫だったのかなと思った。

「なんで分かるんだ。すごいな……」
「ほらほら、そこの水道からバケツに水を溜めてやって」

 指示通りに庭の蛇口を捻ると、サファイアも並んで待っていた。縁いっぱいまで注ぐと、彼女たちはピチャピチャ音を立てて飲み始めた。

「ふふふふ。これで星夜もぬこ様の奴隷認定されたわね」
「奴隷認定……」
「にゃーん」

 琥珀色したねこ様は満足して、ピョンと胸に飛び込んできた。続いて妹ねこ様も……。

「まあいいか。これからよろしくな、ルビー、サファイア」
「にゃにゃーん」

 

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