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水島信也、にゃんこにいいように使われている気がするパート3。以上。
しおりを挟む子猫たちがひっぱる山車の上にはひょっとこをつけた茶トラ猫がいた。
笛の音に合わせて、華麗に踊っていた。
「チャーちゃん!」
女子力猫〈ミーコ〉が手を振った。だが、真面目猫〈チャー〉はまるで聞こえなかったように踊っている。その踊っている姿をパシャパシャと熱心に撮っている人がいる。水島信也だ。
水島信也は震えていた。
それでもシャッターを切るチャンスは間違えない。ひとつひとつ丁寧に、それでも正確にシャッターを切っていく。
猫が、猫が…。猫がひょっとこかぶって踊るなんて…。
猫がしゃべったり、ユーチューブに出たりするのも驚いたけど、さすがに祭りで踊るなんて思いもしなかった…。
チャー…。お前、案外凄いやつかもしれない。
人間の若者でさえ、最近はちゃらちゃらして、こんな昔の踊りなんて踊れないやつばかりだっていうのに…。案外、これからは猫の社会が人間界をけん引していくのかもしれないなあ。
そして、人間は猫界を見て、昔はこんなことしてたのねーなんてのんきにいうのか?
ああ、だめだ、だめだ。これじゃ人間の方が猫に文化的にもやられちまうよ。
俺は猫界の文化水準の高さにけっこうやられていた。
あいつらは、人間を見て常に学んでいるんだ。人間もこりゃ、うかうかしてられないなあ。
「信也!チャーちゃんは?」
爽やか男子猫〈クロ〉が水島信也にそう聞いた。
こいつ、俺のことすっかり呼び捨てだな。まあいいけどさ。
「チャーはこの道を一周したら出番は終わりなんで、ここで待っていたら戻ってくるだろう」
「チャーちゃん、かっこよかったよね」
女子力猫〈ミーコ〉がまるで恋する猫のように顔を真っ赤にしてそういった。
おい、お前のボーイフレンドそこにいるけどいいのかよ。
本当に、猫も人間もオンナってやつは…。
そうこうしているうちにひょっとこを頭にのせたまま真面目猫〈チャー〉が走ってやってきた。
さすが猫だけに速い…。
「チャーちゃん、素敵だったわ」
「ミーコさん、ありがとうございます。そういっていただけると練習した甲斐がありました」
「チャーちゃんはよく祭りの踊りなんて知ってたわね」
「やはり文化は後世に伝えていかなくてはならないと考えているため、伝統が途切れる前に過去の資料を見て勉強しました」
「そんなお勉強好きなチャーちゃんは素敵ね」
そんなことを女子力猫〈ミーコ〉にいわれて、真面目猫〈チャー〉はまんざらでもなさそうな顔をした。
猫も女に褒められるとうれしいものなんだな。
「僕たちは伝承を守っていくべきだと思うんです。そして、それと並行して、多くの昔を知る猫たちに話を聞かなくてはならないと思うのです」
真面目猫〈チャー〉は勢いづくとよく言葉が続くようだ。
「何より人間が出ていってここも猫の町へと移行して、ずいぶんと様相も変わりましたから。現代の猫たちが生き証人として残していかなければいつかは風化してしまうと思うんです。そういう意味では、自分たちが時代の生き証人となって祭りの伝統を伝えていくという作業はとても意味のある事のように思いますし、担っていかなくてはならないことだと自負もしています」
「チャー、猫なのにえらいな。俺ははそんな気高い生き方はできそうにねえよ」水島信也も答える。
チャーは舌なめずりをして、言葉を選んでいるようだった。
「これは水島信也さんにとってもチャンスかもしれませんよ。僕と一緒にこの異世界の記録を映像でまとめてみませんか?そうすることで何か見つけ出せるかもしれませんし、水島信也さんも有名な写真家になれるかもしれません」
そう、わかっている。自分でもずっとこのままではいられないことはわかっている。だから、今回勇気を出してこの異世界にやってきたんだ。誰も撮ったことのない写真を撮るため、そして、自分の何かを変えるため。そうだ、ここまでやってきたんだから俺はやらなくちゃ。俺は変われる。
水島信也は真面目猫〈チャー〉がいれば何かを成し遂げられるような気がしてきた。
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