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第一章

護衛任務

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 王都の北地区に位置する文化会館は平たく言えば博物館って感じだ。アストレア王国の文化財や国宝などを一般用に展示している国営の施設だ。

 そしてもちろん、これほど重要な国営施設だということは警備が厳しい。

 重装備の兵士さん達が施設内外を隈なく巡回していて、一般公開中とは思えない程物々しい雰囲気を放っていた。

 正直依頼された俺でさえ近づき難い。

 恐る恐る文化会館の入り口へと向かうと、一人の兵士に呼び止められた。

「止まれ!何の用だ?」

「依頼を受けた金冒険者です。」

 兵士の人が俺のギルドカードを確認する。じっくりとカード上の写真と俺の顔を見比べると納得したのか、「……確かにそうだな。よし、入れ!」と中へ案内された。

 兵士さんに連れられて文化会館の中へと入る。中は綺麗で清掃が行き届いているが、やはり少し物々しい雰囲気があった。展示物一つ一つが大人数、少なくとも十人に囲まれるようにして守っていた。

 そして展示物同様にたくさんの兵士に囲まれた一人の人物が居た。近代ヨーロッパの名探偵さながらの片眼鏡をかけた白髪の紳士だ。立ち振る舞いが一つ一つ洗練されていて、知的。明らかに只者ではないオーラを醸し出していた。

 こちらに気づいたその紳士は、スタスタと俺に近づいて来ると深々と頭を下げてこう言った。

「お待ちしておりました。依頼を受けていただきありがとうございます。」

「いえいえ、こちらこそ依頼してくださって。」

 その紳士の名はダニェ。この文化会館の院長を務めている人物だそうだ。で依頼内容の方だがー

「実は、過去数日間脅迫の手紙が送られてきてまして……」

「どういう内容の手紙でしょうか?」

「『ドラゴンの爪の搬出を辞めなければ殺す』ーと。」

「ドラゴンの爪、ですか?」

「ええ。実はドラゴンの爪を王都郊外にある新しい博物館に搬出するんですよ。」

「それはまたなぜ?」

「ああ、それはこの文化会館を縮小することになったので、それに伴っていくつかの展示物を王国内の各博物館に分配することになったんですよ。」

 なるほど、その分配される展示物の一つにドラゴンの爪が含まれている訳か。

「しかし、なぜその搬出に対して脅迫の手紙が送られてくるのでしょうか?」

「それは私もわからないんですよ……」

 ダニェさん曰く、何度も脅迫文が送られてくるので、気味が悪くなり護衛を依頼したそうだ。

「ブラフだと思うんですけどね……」

 まあ俺も流石にブラフだと思うけども、万が一に備えてな。

「ああ、もちろんユウマ殿以外に兵士を護衛として雇っておりますのでご安心を。」

 なんと。外を巡回してるムキムキマッチョの兵士が護衛として同行してくれるなんて、安心だな。

「ちなみに出発はいつなんですか?」

「今ですよ。」

「……今?」

「ええ、これからすぐ出発します。」

「今すぐですか?」

「ええ、今すぐにでも。」

「あぅあぅ……」

 それから俺たちは急いで準備してダニェさんや兵士と一緒に馬車に乗り込み出発した。目的地の博物館は王都から案外近く、馬車で半日程度で到着するらしい。

 俺とれいちゃんは馬車内でダニェさんを守ってる。一方でアグラは馬車が苦手なのか、外から他の兵士たちと馬車を護衛している。

 それにしてもドラゴンの爪か。ダニェさんの膝の上に置かれたその黒い爪は、鈍い輝きを放っていた。

「あぅあぅ!」

「おいおい、れいちゃんダメだって!」

 れいちゃんはドラゴンの爪を触りたいのか、手足を一心不乱にバタバタさせている。

「フォフォフォ、お子さんはこの爪に興味があるようですね。」

「ええ、すみません、うちの子が。」

「いえいえ、謝ることじゃないですよ。好奇心旺盛な子はよく育つというじゃないですか。」

「そうなんですかね……」

「ええ!私自身も子持ちなのですが、子の学ぶ機会だけは絶やしてはならないといつも痛感しております。」

 そう言って、ダニェさんはれいちゃんにドラゴンの爪を「どうぞ」と渡してくれた。

「あぅあぅ!」

 れいちゃんは、ダニェさんからドラゴンの爪を渡されると嬉しそうに抱きかかえた。

「この爪はですね、数十年前王都を襲った赤竜を討伐した時のものなんですよ!」

 数十年前、危険度Sの魔物である赤竜が王都に突如として姿を現した。魔王軍が使役していたという赤竜をSランクパーティが討伐した時ドロップした爪らしい。

「つい最近魔王軍との大戦が終結したっていうのに、なぜかはるか昔のことのように感じますな。」

「そうですね。」

「人魔大戦中幾つの国宝が失われたことか。その国宝の数に涙が出ますな。」

「同感です。」

 アストレア王国には元々文化財保護や歴史保存と言った文化的な意味合いでの国宝が多数存在しているが、その大半がこの大戦で失われてしまったらしい。

「そういえばユウマ殿、『クトゥ』という名前に聞き覚えありませんかな?」

「……さあ?」

「……そうですか。いや、本当になんでもないので気にしないでくださいな。」

「そうですか。」

 少し気になるけど、まあいいや。

 そんな会話をしながら俺たちは馬車に揺られていた。しばらくすると、れいちゃんはドラゴンの爪を胸に抱いてスヤスヤと寝息を立てたのだった。

 徐々にダニェさんも寝静まり、馬車内は静寂に包まれた。ガタンゴトンと馬車が揺れる音のみが鳴り響く。

 おかしい。あまりにも静かだ。さっきまでまばらに聞こえていた兵士の足音が聞こえない。

 俺は恐る恐る馬車から顔を出して外を見渡す。するとー

「嘘だろ!?」

 そこには一面に緑の草木が生い茂り、空も太陽も何も無い、ただただ不自然な世界が広がっていた。まるで世界から切り離されたかのような異質な空間だ。

 馬車を包囲するように警護していた兵士、そしてアグラまでも寝静まっていた。いや、どちらかというと気絶しているという表現が正しいのかもしれない。

「一体何が……」

「お、一人仕留め損なったか。」

 俺が馬車から降りると、そこには全身黒ずくめのローブにフードを被った人がいた。口元しか見えないが、どうやら女性らしい。

「何者だ!?」

「何者って言われてもなあ……」

 黒ずくめの女は少し考える素振りを見せる。

「ま、敵かな。」

 女は俺に向かって手をかざしたかと思うと次の瞬間、俺の足元に魔法陣が展開されていた。そしてー

「あばよ、冒険者さん!」

 女のその言葉と共に俺は光に包まれた。
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