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第22話:忘れられた転校生

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 すぐちかくにあるとおもっていた公民館こうみんかんが、すごくとおくにかんじる。
 はしってもはしっても、うしろからなにかがいかけてくるようで、わたしは何度なんどうしろをふりきたくなった。

 でも、ふりかない。
 きっとうしろをたら、九里きゅうりくんのことがになってしまうから。
 ころびそうになりながら、くらみちはしる。
 両手りょうてつぼっているからりにくい。
 街灯がいとう満月まんげつかりだけのみちはしって、はしって、ようやく公民館こうみんかんえてきた。

 普段ふだんくら公民館こうみんかんだけど、今日きょう電気でんきがついていてあかるい。
 パトカーもまっていて、パトカーのうえあかひかりがくるくるしている。
 わたしは運動会うんどうかいときよりも、一生いっしょうけんめいにはしった。
 おなかいたくて、いきをするたびにみたいなあじがする。

「ひな!」

 玄関げんかんから、だれかがわたしをこえがする。
 わたしはまえにつんのめりそうになりながら、公民館こうみんかん玄関げんかんはいった。
 両手りょうてっていたつぼゆかいて、くつもがずにすわむ。
 ひゅーひゅーと自分じぶんいきをするおとが、やけにうるさかった。

「ひなどうしたの、そんなにはしってきて……」

 ゆるゆるとかおげると、おばあちゃんとった。
 町内会長ちょうないかいちょうのおじさんも、和室わしつからひょっこりとかおして、こっちの様子ようすている。

「み、みんなが……つかったの」
「なんだって! みんなはどこにいるの? 一緒いっしょたんじゃないのかい!?」
「こ、ここ……」

 おばあちゃんのいきおいにされながら、わたしはゆかいたつぼゆびさす。

「え? このつぼがどうかしたの?」
「ここに、みんなはいってるの」

 麦茶むぎちゃのコップをってきてくれた見知みしらぬおばさんが、ぴたっとうごきをめた。
 おばさんのから勝手かってにコップをって、わたしは一気いっき麦茶むぎちゃす。

「あんた……本気ほんきってるのかい?」

 町内会長ちょうないかいちょうのおじさんが、わたしをじっとる。

 やめて、そんなないで……。
 わたしはうそなんかってない。

 そのとき、おばあちゃんがさっとおじさんのほうをいた。

「どうせなんのがかりもないんだ。ひなうことをたしかめてみようじゃないか」

 おばあちゃんがしずかなこえう。

本当ほんとうに、このつぼにみんながいるのかい?」

 おばあちゃんの質問しつもんに、わたしはこくこくとうなづいた。

「このつぼをわれば、みんながてくるって、ってたから……」

 おばあちゃんは、それ以上いじょうなにもかなかった。
 わなくても、ぜんぶわかっているというように、わたしのかおてうんうんとうなづいた。

 よかった、ルリさんのことをはなさなくてもよさそうだ……。

 おじさんがつぼ和室わしつ移動いどうさせ、わたしもおばあちゃんにかれるまま、くつをいで和室わしつがった。

破片はへんぶかもしれないから、がって」

 おじさんが新聞紙しんぶんしをしいたうえに、つぼく。
 べつのおばさんが、どこかからハンマーをって、やってきた。
 おばさんがおじさんにハンマーをわたす。
 おじさんがいきおいよく、ハンマーをふりげ――。

 ガシャン! とおおきなおとてて、つぼがわれた。
 わたしはわれた破片はへんなかる。
 ちいさくなったみんなは、つからなかった。
 そこにはわれて、粉々こなごなになったつぼ破片はへんがあるだけだ。

 わたし、ルリさんにだまされた……?

 大人おとなたちのあいだに、わたしがうそをついているといたいような雰囲気ふんいきながれたとき

 公民館こうみんかんまえ道路どうろから、どっとこえがわきした。

「あれ? あたしなんでこんなところにいるの?」
「そうだよ、おれたちみんなでサッカーしてたよな!?」
「えっ、もうよるなの? なんで? どうして?」

 わたしががるよりはやく、大人おとなたちがわっといっせいに玄関げんかんはしした。
 わたしもあわてて、おじさんたちのあとう。

 公民館前こうみんかんまえ道路どうろには、ひとだかりができていた。
 みんな、ちゃんといる。
 全員ぜんいんいるかはまだわからないけれど、ちゃんと5ねん2くみひとたちが、そこにいる。

いままでどこにいたの?」と警察けいさつひとが、みんなにいているみたいだけど、みんなはくびをかしげるだけで、だれもこたえなかった。
 クラスを代表だいひょうするように、みくが警察けいさつひとまえって、なにかをしゃべっている。

かみかくしかしらね……」

 大人おとなのひそひそとしたはなごえ
 無事ぶじつかってよかったとよろこおやたち。
 自分じぶんいままでどこにいたのかわからない、づいたらここにいて、よるになっていたと主張しゅちょうするクラスの
 やがて担任たんにん先生せんせいはしってやってきて、5ねん2くみ名前なまえ一人ひとりずつんだ。

「よし、全員ぜんいんいるな」

 九里きゅうりくんがいないのに、先生せんせいはそうった。
 クラスのみんなも、だれも九里きゅうりくんがいないことにづいていない。
 わたしだけが、九里きゅうりくんのことをおぼえている。

 でも、えない。
 九里きゅうりくんがどこでなにをしているか、なんてかれたら、九里きゅうりくんが天狗てんぐだっていうことをバラしてしまうことになるから。

 先生せんせい大人おとなたちに全員ぜんいんそろっていることを報告ほうこくして、それぞれおや一緒いっしょいえかえることになった。
 公民館こうみんかんから、ぽつぽつとひとがいなくなっていく。

「ほら、ひなかえろう」

 うごかないわたしにかって、おばあちゃんがこえをかけてくる。
 わたしはうごけなかった。
 いえには、かえりたくない。

九里きゅうりくんが、いないの」

 おばあちゃんが、はっとひらく。

「そうだよ、あのは? ひな一緒いっしょにいるんじゃなかったのかい?」

 わたしはまわりを見回みまわした。
 わたしとおばあちゃん以外いがいには、だれもいない。
 おばあちゃんとなら、きつねはなしも、天狗てんぐはなしもできる。

学校がっこうのグラウンドで、きつねったの。それで、きつねがあのつぼなかにみんなをじこめたってって……」
「それで、ひなはあのつぼってげてきたの?」
「うん、九里きゅうりくんがきつねたたかうから、わたしにつぼってげろって――」
「がんばったね、ひな

 おばあちゃんのおおきなが、あたまうえに、ぽんとのせられる。
 おばあちゃんのこえいたとたん、ぶわっとおくからなみだがわいてきた。

「おばあちゃん、でも、九里きゅうりくんが……っ」

 わたしのあせりとは反対はんたいに、おばあちゃんはゆっくりとわたしのあたまをなでた。

「ひなにできることは、ちゃんといえかえることだ。ひなのために、あのたたかってるんだろう?」
「うん……」
「だいじょうぶさ、天狗てんぐきつねにやられたりはせん」

 おばあちゃんが、やさしくわたしのく。
 わたしも、トボトボとあるすしかなかった。

「おばあちゃんはなんで、天狗てんぐきつねけないっておもうの……?」

 わたしはなみだをごしごしとふきながら、おばあちゃんにいた。
 月明つきあかりのしたで、おばあちゃんがすこしだけわらう。

「おばあちゃんも、ひなおなとしのころに、天狗てんぐともだちだったからさ」
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