上 下
18 / 24

第18話:勇気

しおりを挟む
 ひとではない、ということは人間にんげんじゃないってこと。

 わたしは人間にんげんじゃない?
 そんなこと、ありえるの?

「むろん、われはそのようなはなしはまるでしんじてはおらぬ」

 ひとではない、とったのは九里きゅうりくんのくせに、九里きゅうりくんはあっさりとった。

「どうしてそうおもうのさ」

 おばあちゃんが、きびしいこえく。
 九里きゅうりくんのこたえによっては、ものすごくおこりそうな……。

「ひなひとでないとしたら、われがひなともになって天狗てんぐもりられたことの説明せつめいがつかぬからだ」
「あっ……」

 そういえばそうだ。
 天狗てんぐ人間にんげんともだちになることで、天狗てんぐもりられるようになるって、ってたっけ。

 九里きゅうりくんはわたしとともだちになってもりられて、九遠くおんさんはひめちゃん先生せんせいともだちになったからもりられた。
 やっぱりわたしが人間にんげんじゃないなんて、そんなはなしあるわけがない。

 そうおうとしたとき九里きゅうりくんがゆるゆるとくびをふった。

「しかし、にいさまはそうはおもっておらぬのだ」
九遠くおんさんが?」
「うむ。にいさまは、ひなには人間にんげんよりもつよちからがそなわっているはずだともうしておった」
人間にんげんよりも、つよちから……」
「そのちからひとよりも、ましてや天狗てんぐきつねよりもつよちからやもしれぬと、にいさまはおもっているようなのだ」
「ちょ、ちょっとって!」

 わたしは九里きゅうりくんがはなしつづけるのを、あわててめた。

九遠くおんさんは、わたしがかみかくしにあったことをっていたの?」

 そうじゃないと、はなしがおかしい。
 九遠くおんさんはまるで、さいしょからわたしがかみかくしにあって、ひとじゃないちからっていることをっていたみたい。
 わたしにつよちからがあることをっていて、きつねをさがすためにわたしのちから使つかおうとしている……?

 九里きゅうりくんはいわけをさがすみたいにきょろきょろしていたけれど、やがてしゅんとあやまげた。

「どうやらそのようなのだ……われさきほど、にいさまからいたばかりだからしんじられないことではあるが」
「さっきむかしひとのことをらないとったのはうそだったのかい」
「すまぬ、おばあさま。にいさまのっていることが本当ほんとうか、こたわせをするためにおばあさまのくちからひなかみかくしについてくしかなかったのだ」

 わたしは自分じぶんのひらをじっとつめた。
 学校がっこうでいじめられているようなわたしに、そんなちからがあるはずがない。
 だって人間にんげんよりもつよいのだとしたら、いじめられても平気へいきなはずだから。

 わたしは一度いちどだって、みくたちにやりかえせたことはない。
 先生せんせいにもこえちいさいとか、元気げんきがないとか、そんなふうにわれてきた。
 おやがいない、おとなしいだって。

われ一度いちどたりとも、ひなよわいやつなどとおもったことはないぞ」

 九里きゅうりくんが、まるでわたしのこころをのぞいたみたいにはっきりとった。
 この言葉ことばまえにもわれたがする……。

 ――ぼくきみよわ人間にんげんだとはおもわないけれどね。

 まえ九里きゅうりくんと、はじめてったとき九遠くおんさんのかおかさなる。

「どうして、九里きゅうりくんも九遠くおんさんも、わたしはよわくないってうの……?」

 わたしは自分じぶんで、自分じぶんのことをよわいとおもう。
 一人ひとりじゃなんにもできなくて、九里きゅうりくんにたすけられてばかりで、先生せんせいやおばあちゃんにおこられるのがこわくて……。

天狗てんぐおそれぬ、ともになろうとす。そんな人間にんげんのどこがよわいというのだ?」

 九里きゅうりくんはじっとわたしのかおた。
 そのかおは、本気ほんきでわたしがよわくないとおもっているみたいだ。

「わたしはそんな、九里きゅうりくんがおもってるほどつよくないよ」

 かろうじて、それだけう。
 本当ほんとうはすごくうれしかった。
 九里きゅうりくんや九遠くおんさんが、わたしをみとめてくれたみたいで。

 九里きゅうりくんはしばらくやわらかい笑顔えがおをうかべてわたしのかおていたけれど、やがて笑顔えがおっこめて、おばあちゃんのほうをた。

「ひなともに、きつねをさがしにきたいとおもう」

 九里きゅうりくんのしずかなこえとはぎゃくに、おばあちゃんはいまにもおこしそうなかおをして、ふるふるとふるえた。

「あんた……ひなそとて、きつねにさらわれてもいいとうのかい?」
「そのようなことはもうしておらぬ」

 九里きゅうりくんは冷静れいせいだ。
 おばあちゃんも、なんとかおこりそうになる自分じぶんめているみたいにおおきくいきをはきす。

九萬坊くまんぼうちからをもってしても5ねん2くみものつけられておらぬゆえ、にいさまと相談そうだんして、ひなちからりようというはなしになったのだ」

 ひないえにいてたすかった、と九里きゅうりくんはちいさくつぶやいた。
 わたしなんかが、きつねつけられる……?

「わたしはただの、人間にんげんだよ……天狗てんぐなんかより、ずっとよわいよ」
「ひなにそのがないのなら、無理むりにとはわぬ」

 九里きゅうりくんがわたしのほうをいて、オオカミみたいな、あかいするどいでわたしをる。

「ただ、もし本当ほんとうにひなかみかくしにあったことでなにかのちからたのだとしたら……われらがたよれるのはもう、ひなしかいないのだ」

 九里きゅうりくんはそこで、わたしとおばあちゃんにかってふかあたまげた。

「この杜ノ町もりのまちきつねにうばわれるわけにはいかぬ……どうかわれ九萬坊くまんぼうに、ちからしてほしい」

 九里きゅうりくんはあたまげたまま、わたしのこたえをっている。
 わたしはちらりとおばあちゃんのかおた。
 おばあちゃんも、わたしのかおている。

「ひな無理むりしなくていい。まだきつね仕業しわざまったわけじゃないだろう? クラスのみんなだって、そのうちひょっこりかえってくるかもしれない」

 おばあちゃんは、なんとかわたしをいえきとめようとしているみたい。
 それはそうかも……わたしだっておばあちゃんがきつねをさがしにくってったら、心配しんぱいするとおもう。
 みんなとおなじように、さがしにったままかえってこなくなったらどうしようって。

 でも、わたしは九里きゅうりくんのちからになりたい。
 わたしがって、きつねつけられるか、みんなをたすけられるかはわからないけど……。
 九里きゅうりくんのおねがいをことわりたくなかった。

「わたし、くよ」
「ひな……」

 九里きゅうりくんがかおげ、おばあちゃんがわたしの名前なまえぶ。

「おばあちゃん、心配しんぱいしないで。ちゃんとかえってくるから」

 わたしはおばあちゃんにけて、笑顔えがおでそうった。
 やっと、わたしでも九里きゅうりくんのちからになれることがあるんだ。

 いつまでも九里きゅうりくんやおばあちゃんのうしろにかくれて、ちいさくなっているままのわたしじゃいけない。
 おばあちゃんはわたしをて、ためいきをついてから、こわいかお九里きゅうりくんのほうをいた。

「ひなになにかあったら、承知しょうちしないからね」

 九里きゅうりくんは、もう一度いちどおばあちゃんにかってあたまげてから真剣しんけんかおった。

「ひなのことは、われかならまもる。もしひなかえってなかったら――天狗てんぐもりくなり、われうなりきにするがよい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

スペクターズ・ガーデンにようこそ

一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。 そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。 しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。 なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。 改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

フラワーキャッチャー

東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。 実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。 けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。 これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。   恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。 お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。 クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。 合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。 児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

処理中です...