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第15話:友だち
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「ひな子ちゃん~! さいきん保健室に来てくれないから、先生とってもさみしかったんだよ!? あっ、でもでも保健室に来ないってことは教室にいてもつらくないってことだもんね? それなら先生もうれしいな~。それはそうと、九遠とはどこで知り合ったの? 自分から天狗の森に入るふしぎちゃんはあたしくらいしかいないと思ってたんだけど!」
姫ちゃん先生は、わたしの顔を見るなり一気にしゃべり出した。
しゃべりながら先生は、わたしをぎゅむっとだきしめる。
先生が着ている水色のワンピースからは、消毒液みたいな保健室の匂いと……なんか甘い匂いがした。
「せ、先生……くるし、い……」
わたしの顔は完全に先生のワンピースにうもれている。
先生の体温までわかるくらい、ぎゅっとされていて、息がしにくい。
「姫ちゃん、ひな子さんが死んじゃう」
「わわっ、ごめんごめん!」
九遠さんの一言で、先生は、わたしからぱっと体をはなした。
助かった……。
あやうく、息が止まるところだった。
胸いっぱいに息をすいこんでから、先生の顔を見る。
先生は走ってきたのか、顔が赤くなって汗をかいている。
お風呂あがりみたいな顔のまま、先生はわたしの頭をぐりぐりとなでた。
「なんか、ひな子ちゃんちょっと変わったね!」
「え?」
先生が、きらきらと光る目でわたしをじっと見つめる。
「前より、大人っぽくなったっていうか……まあ、年ごろの女の子の成長は早いからなあ」
「こんなところで立ち話をしている場合じゃないよ。早くひな子さんを家に帰してあげなきゃ」
先生がまだしゃべりたそうにしているのを、九遠さんが打ち切って、わたしたちは天狗の森を出た。
森を出ると、アスファルトの熱がムッと体にまとわりつく。
わたしたちは九里くんの話や、わたしの学校での生活のことなんかを話しながら、ずんずん進んでいった。
先生と九遠さんは、同い年くらいに見える。
仲がよさそうで、九遠さんは先生のことを「姫ちゃん」と呼ぶし、先生は九遠さんのことを「九遠」と呼びすてにしていた。
いいなあ……。
わたしはぼんやりと思う。
わたしも、こんなふうに楽しく話せる友だちができたらいいのに。
九里くんは友だちだけど、呼びすてにできるほど仲はよくない。
なんとなく、わたしなんかが九里くんの友だちでいていいのかな? って不安がある。
九里くんは、わたしと友だちでいて、楽しいのかな……?
そんなことを考えているうちに、気づけば家の前まで来ていた。
家の横の畑で、おばあちゃんがトマトを両手いっぱいにかかえているのが見える。
おばあちゃんのほうも、わたしが帰ってきたことに気づいたみたい。
けれど、いつもの笑顔じゃない。
わたしがおばあちゃんの前まで行っても「おかえり」って言ってくれない。
「おばあちゃん……?」
わたしはおそるおそる、おばあちゃんに話しかけた。
そのしゅんかん。
おばあちゃんは顔を真っ赤にして、大声を上げた。
「ひな子からはなれろ、天狗め!」
おばあちゃんの目は、はっきりと九遠さんを見ている。
姫ちゃん先生は……きゅうなことでびっくりしてるみたい。
ぽかんと口を開けて、おばあちゃんを見つめている。
「この子はだいじな孫だ! 天狗ごときにくれてやるものか!」
おばあちゃんはそうさけびながら、手に持っていたトマトを九遠さんに向かって投げつけた。
トマトは破れて、九遠さんの白衣にべったりと赤い色がつく。
「おばあちゃんやめて! 九遠さんはそんな人じゃない!」
「ひな子、それは人じゃないんだよ! 人のような見た目をした化け物なんだから!」
おばあちゃんの言葉を聞いた九遠さんが、悲しげな顔をするのを、わたしははっきりとこの目で見た。
あの時と同じだ。先生に怒られた後の、九里くんの少し悲しそうな顔。
「ちがうの! 天狗は化け物でも妖怪でもない!」
わたしはふるえる足を無理やり動かして、九遠さんの前に立った。
べちゃ、っと音がして、おばあちゃんの投げたトマトが顔にぶつかる。
「ひな子さん!」
九遠さんが後ろからわたしの名前を呼ぶ。
でも、おばあちゃんに怒られると思ったのか、それ以上は動かなかった。
やわらかいからだいじょうぶと思ってたけど、案外痛いかも。
自分の顔からトマトの匂いがする。
「ひな子……」
おばあちゃんはきゅうに、元気をなくした。
真っ赤だった顔が白くなって、いっぱいに開いた目で、わたしのことを見ている。
おばあちゃんがへなへなと地面に手をつくのを、姫ちゃん先生がとっさに支える。
「ひな子、なんであんた、そんなことを……」
おばあちゃんが小さい声で言う。
そんなこと? 九遠さんをかばったこと?
それとも、九遠さんと一緒にいたこと?
「聞いて、おばあちゃん」
わたしは顔についたトマトをTシャツでふいて、おばあちゃんを見る。
「おばあちゃんが、わたしを心配してくれてるのはわかるよ。でも、天狗は化け物でも妖怪でもない」
ふり返って、九遠さんの顔を見る。
前を向いて、姫ちゃん先生の顔を見る。
九里くんの顔を思い出す。
そして、おばあちゃんの白い顔を見る。
「わたしは……実は学校でいじめられてる。みんなから無視されたり、教科書かくされたり、机をどっかに持っていかれたりしてる」
おばあちゃんがぶるぶるとふるえる。
大きく開いた目がきらきらして、うっすらなみだがたまっている。
「学校に行くの、いやだった。またみくたちにいやなことされるって思ったから。でも、天狗の九里くんは……わたしをいじめなかった。いつも、守ってくれた」
おばあちゃんは聞きたくないかもしれないけど、言わなくちゃいけない。
わたしのために、九里くんのために。
そして、天狗の森に閉じこめられた天狗のために。
わたしは大きく息をすって、はっきりと言う。
「天狗は、わたしのだいじな友だちなの」
姫ちゃん先生は、わたしの顔を見るなり一気にしゃべり出した。
しゃべりながら先生は、わたしをぎゅむっとだきしめる。
先生が着ている水色のワンピースからは、消毒液みたいな保健室の匂いと……なんか甘い匂いがした。
「せ、先生……くるし、い……」
わたしの顔は完全に先生のワンピースにうもれている。
先生の体温までわかるくらい、ぎゅっとされていて、息がしにくい。
「姫ちゃん、ひな子さんが死んじゃう」
「わわっ、ごめんごめん!」
九遠さんの一言で、先生は、わたしからぱっと体をはなした。
助かった……。
あやうく、息が止まるところだった。
胸いっぱいに息をすいこんでから、先生の顔を見る。
先生は走ってきたのか、顔が赤くなって汗をかいている。
お風呂あがりみたいな顔のまま、先生はわたしの頭をぐりぐりとなでた。
「なんか、ひな子ちゃんちょっと変わったね!」
「え?」
先生が、きらきらと光る目でわたしをじっと見つめる。
「前より、大人っぽくなったっていうか……まあ、年ごろの女の子の成長は早いからなあ」
「こんなところで立ち話をしている場合じゃないよ。早くひな子さんを家に帰してあげなきゃ」
先生がまだしゃべりたそうにしているのを、九遠さんが打ち切って、わたしたちは天狗の森を出た。
森を出ると、アスファルトの熱がムッと体にまとわりつく。
わたしたちは九里くんの話や、わたしの学校での生活のことなんかを話しながら、ずんずん進んでいった。
先生と九遠さんは、同い年くらいに見える。
仲がよさそうで、九遠さんは先生のことを「姫ちゃん」と呼ぶし、先生は九遠さんのことを「九遠」と呼びすてにしていた。
いいなあ……。
わたしはぼんやりと思う。
わたしも、こんなふうに楽しく話せる友だちができたらいいのに。
九里くんは友だちだけど、呼びすてにできるほど仲はよくない。
なんとなく、わたしなんかが九里くんの友だちでいていいのかな? って不安がある。
九里くんは、わたしと友だちでいて、楽しいのかな……?
そんなことを考えているうちに、気づけば家の前まで来ていた。
家の横の畑で、おばあちゃんがトマトを両手いっぱいにかかえているのが見える。
おばあちゃんのほうも、わたしが帰ってきたことに気づいたみたい。
けれど、いつもの笑顔じゃない。
わたしがおばあちゃんの前まで行っても「おかえり」って言ってくれない。
「おばあちゃん……?」
わたしはおそるおそる、おばあちゃんに話しかけた。
そのしゅんかん。
おばあちゃんは顔を真っ赤にして、大声を上げた。
「ひな子からはなれろ、天狗め!」
おばあちゃんの目は、はっきりと九遠さんを見ている。
姫ちゃん先生は……きゅうなことでびっくりしてるみたい。
ぽかんと口を開けて、おばあちゃんを見つめている。
「この子はだいじな孫だ! 天狗ごときにくれてやるものか!」
おばあちゃんはそうさけびながら、手に持っていたトマトを九遠さんに向かって投げつけた。
トマトは破れて、九遠さんの白衣にべったりと赤い色がつく。
「おばあちゃんやめて! 九遠さんはそんな人じゃない!」
「ひな子、それは人じゃないんだよ! 人のような見た目をした化け物なんだから!」
おばあちゃんの言葉を聞いた九遠さんが、悲しげな顔をするのを、わたしははっきりとこの目で見た。
あの時と同じだ。先生に怒られた後の、九里くんの少し悲しそうな顔。
「ちがうの! 天狗は化け物でも妖怪でもない!」
わたしはふるえる足を無理やり動かして、九遠さんの前に立った。
べちゃ、っと音がして、おばあちゃんの投げたトマトが顔にぶつかる。
「ひな子さん!」
九遠さんが後ろからわたしの名前を呼ぶ。
でも、おばあちゃんに怒られると思ったのか、それ以上は動かなかった。
やわらかいからだいじょうぶと思ってたけど、案外痛いかも。
自分の顔からトマトの匂いがする。
「ひな子……」
おばあちゃんはきゅうに、元気をなくした。
真っ赤だった顔が白くなって、いっぱいに開いた目で、わたしのことを見ている。
おばあちゃんがへなへなと地面に手をつくのを、姫ちゃん先生がとっさに支える。
「ひな子、なんであんた、そんなことを……」
おばあちゃんが小さい声で言う。
そんなこと? 九遠さんをかばったこと?
それとも、九遠さんと一緒にいたこと?
「聞いて、おばあちゃん」
わたしは顔についたトマトをTシャツでふいて、おばあちゃんを見る。
「おばあちゃんが、わたしを心配してくれてるのはわかるよ。でも、天狗は化け物でも妖怪でもない」
ふり返って、九遠さんの顔を見る。
前を向いて、姫ちゃん先生の顔を見る。
九里くんの顔を思い出す。
そして、おばあちゃんの白い顔を見る。
「わたしは……実は学校でいじめられてる。みんなから無視されたり、教科書かくされたり、机をどっかに持っていかれたりしてる」
おばあちゃんがぶるぶるとふるえる。
大きく開いた目がきらきらして、うっすらなみだがたまっている。
「学校に行くの、いやだった。またみくたちにいやなことされるって思ったから。でも、天狗の九里くんは……わたしをいじめなかった。いつも、守ってくれた」
おばあちゃんは聞きたくないかもしれないけど、言わなくちゃいけない。
わたしのために、九里くんのために。
そして、天狗の森に閉じこめられた天狗のために。
わたしは大きく息をすって、はっきりと言う。
「天狗は、わたしのだいじな友だちなの」
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